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33 王国の現状



 姫様に言われて眠ろうとしてもやっぱり全然眠れなかったから、キリに頼んで鎮静と睡眠導入をお願いして、ようやく眠りにつけた。


 で、昼過ぎに目を覚まして……うん、ちょっと反省。

 俺、浮かれすぎ。

 徹夜のテンションでハイになりすぎ。


「お姫様やクレアさんの前で、さすがにあれはなかったな……二人とも笑って許してくれたけど、内心では呆れられてたかも」

 でも仕方ないよな、だって前世と今世と合わせて、生まれて初めて彼女が出来たんだから。


 っと、思考がループしてる。

 あんまり意識しすぎるとまたテンション上がりそうだし、ほどほどにしとこう。


 そんなわけで一応は落ち着いたから、遅めの昼飯を食ったら、姫様の所へ行って朝のことを謝らないとな。


 で、昼飯を食って、姫様が書類仕事をしてるだろう執務室へ行ったんだけど……。


「なんで姫様、男装コスプレしてるんですか!?」

 朝はドレスだったのに、今は男物の服を着てるのは何故!?

 もしかして今朝のテンションが高すぎて、ウザがられて、女の子になるのを止めちゃったのか!?


「男装ではなくこれが本来の姿なのだが……」

 姫様が溜息を吐くと、手にしていた書類とペンを置く。


「王城から報告が届くと言っただろう。城の者達は何も知らぬ。そこにドレスで現れたら混乱させようし、説明も面倒だ。それで報告に不備が出ても困る」

「言わんとすることは分かりますけど……今回だけですよね?」

「いや、考えてみたのだが、貴族どもも(うるさ)かろうし、今後、公務の間は本来のこの姿で行う」

「そんな……!」

 じゃあもう姫様の、あの可愛いドレス姿は見られないのか!?


 気付いたときには膝から崩れ落ちていて、椅子に座っている姫様を見上げていた。


「そこまでショックを受けずともよかろう……そなたはまったく」

 またしても呆れたように溜息を吐く姫様。

 と思ったら、わずかに目元を赤らめて俺から視線を逸らした。


「公務の時間外、プライベートの時間であれば……それで妥協してくれ」

「……おおっ!?」


 それってつまり、普段は王太子として男の姿で仕事をしながら、他人に知られないよう俺とは関係ない振りをするけど、プライベートになったら男の娘としてドレスを着て姫様になって、恋人らしく甘えてくれるってことに……。


 やばい! 想像したら、それはそれでアリ!

 って言うかそのギャップ、滅茶苦茶いいんだけど!?

 そういったギャップも男の娘の魅力の一つだよな!


「分かりました、オーケーです! その分プライベートで思いっ切り女の子になって甘えてください!」

「いや、そこまでするとは言っていないだろう」

「それで仕事を目一杯頑張って、他の貴族達を黙らせて、普段からドレスを着て女の子でいられるようになりましょう! そうなれるよう、俺も頑張りますから!」


 そう考えたら俄然やる気が湧いてきた。

 どういう手段で貴族達を黙らせて納得させるか、後でちゃんと考えて、しっかりと計画を立てないとな!


「いや、だから…………ふぅ、そなたはまったく。それでモチベーションが上がって良い結果を生むのであれば、好きに考えていてくれ」

「はい、そうします!」

 これは、何が何でも頑張らないとな。


 ちなみに、男装コスプレしてる時は、姫様と呼ぶと色々ややこしいから、アイゼ様って呼ぶことになった。



 と言うわけで、アイゼ様は夕刻前って言ってたけど、それより少し早く王城から大臣やら将軍やらが到着して、謁見室代わりに整えられた客室で報告を受けることになった。

 参加するのは男装コスプレしたアイゼ様、お姉さんのお姫様、次期公爵の三人と、それぞれの護衛役だ。


 アイゼ様が上座の一人用のソファーに座って、そのすぐ右斜め後ろに俺が立つ。

 お姫様と次期公爵は左右の三人掛けのソファーに、それぞれ一人ずつ座って、その背後の壁際近くという少し離れた場所に、護衛役の兵士達が立っていた。

 そんなアイゼ様の正面で、大臣や将軍が立って報告する流れだ。


 で、肝心の内容だけど……安心出来るいい情報はほとんどなかった。


「塔に囚われていた貴族家の方々には十分な食事を与えられており大事なく、現在は城にご逗留戴き、調書の作成にご協力戴いております」


 まず報告するのは、内務大臣だって言う中年太りのおじさんだ。

 俺は顔を覚えてなかったけど、塔に閉じ込められてた一人だったそうだ。


「また、兵舎に閉じ込められていた兵達および地下牢に囚われていた城仕えの者達は、環境の悪さや十分な食事を与えられていなかったことなどから、体調を崩している者が多数おりました。現在、城にて療養しております。しかし、深刻な症状の者はおらず、数日から半月ほどで復帰すると思われます。幸いなことに、王城よりガンドラルド王国へ奴隷として輸送された者は一人もおりませんでした」


 これにはアイゼ様達三人とも、ほっと表情を緩める。

 特にアイゼ様は、落ち延びてからの王城の様子は全然分からなかったから、きっとすごく安心しただろうな。


「護送用の荷馬車がすでに多数用意されていましたから、エメル様のご活躍がなければ手遅れになっていたかも知れません。エメル様には本当に感謝しないといけませんね」

「はっ……」

 穏やかに微笑んだお姫様に、内務大臣はちょっと複雑な顔をする。

 まあ、平民がたった一人で大活躍ってのが信じられないのと、受け入れられないんだろうな。


 それから王城内の状況について細々とした報告が続いたんだけど、城仕えしてた人が多数殺された上、療養中の人が多いから、お城の機能は麻痺状態らしい。

 また、処分しないといけないトロルの死体も多いから、清掃やら絨毯などの家具の交換もかなり時間が掛かるのに加えて、あちこち戦闘で崩れたり、ひびが入ってたり、補修するまでは危ないんで、しばらくはお城に戻れないとのことだ。


 続けて、筋骨逞しいおじさんの将軍から、各騎士団を始め、王城の守備隊、王都の守備隊が壊滅状態で、軍として機能してないこと、そして戦力の立て直しには相当な時間が必要なこと。

 トロルが物資の運搬や身の回りの世話をさせるために連れて来た奴隷、数百人を保護して、王都の防壁の外に隔離用の難民キャンプを作ることになり、検疫や身元調査はこれからで裏を取るのにしばらく時間が掛かりそうなこと、なんかが報告された。


 さらに、王都の代官から、王都や市民の状況なんかが報告されていく。


 正確な数は分からないけど、王都の人口が十五万人ほどに対して、概算で死者は二万人以上、王都を逃げ出した平民も多数出てることから、現在王都に残ってるのは恐らく十万人いるかどうか。

 しかも、壊された建物や設備の復旧にどれだけの期間が掛かるかも現時点では不明な上、経済活動に深刻な影響が出てるらしい。

 まだ王都奪還の情報が出回ってなくて、地方の商人達が怖がって近づかないから、物流が死んでる状況ってことだ。


「王都がそれでは、マイゼル王国はほぼ壊滅……ですな」

 次期公爵が苦い顔で漏らした言葉に、アイゼ様もお姫様も辛そうに俯いて唇を噛みしめる。


「早急に貴族どもをまとめ上げなければ、王国は維持出来ぬだろうな」

「ええ……離反する者や他国を引き入れる者が現れかねません」


 壊滅って……なるほど、そういう意味なのか。

 離反する者ってのは、他国に寝返ったり、王家に取って代わろうとしたりする奴のことかな。中には独立を宣言する奴もいるかも知れない。

 それは確かに……相当厳しそうだ。


 さらなる報告で判明したのは、不幸中の幸いとでも言うべきか。トロルロードがこの国を乗っ取り奴隷を産ませる人間牧場にするつもりだったからなのか、トロル兵達は過度な殺戮や破壊をしてなかったらしい。

 おかげで、遷都した方が安上がりで早いってほどじゃないそうだ。

 同様に、詳しい被害の調査はこれからだけど、トロルどもが進軍してきた王都から南の地方でも、過度な殺戮や破壊は行われてないらしい。


 時間はかかるけど、王国の復興は不可能じゃない……ってところか? ただしそれも、貴族達が大人しく従ってくれて、これ以上トロルのちょっかいがなければって前提だろうけど。

 またトロルどもが進軍してきたら、そいつらも俺一人でなんとかするってくらいの気概でいないと駄目そうだ。


 一通り報告を受けた後、アイゼ様が報告者達を労い、メイドさん達がそれぞれの客室へ案内していった。

 部屋に俺達だけになったところで、誰ともなく大きな溜息が漏れた。


「ともかく、王都は奪還出来た。私の勅命により派遣した、王家直属特殊戦術精霊魔術騎士団即応遊撃隊所属の特務騎士エメルおよび支援部隊の成し遂げたこと、その情報を貴族どもに正確に流すしかあるまい」

「どの貴族達も、にわかには信じぬでしょうな。殿下の功績としたくない貴族どもは特に」

「それでも構わぬ。調べれば事実と分かろう。それで今の貴族達の出方と力量を測れるというものだ」

「畏まりました。正確に伝わるよう手配しておきます。ところで……」


「どうしたラムズ、何か気になることでもあるのか?」

「いえ、その平民についての情報ですが……殿下とのご関係、一連の褒美の話はいかがなさいますか?」

「っ……そう、だな……そこはまだ伏せておいてくれ」

「畏まりました」


 次期公爵がチラッと俺を見ると、小馬鹿にしたように目で笑う。

 何を考えたかだいだい想像が付くから腹が立つけど……まあいいさ。

 次期公爵は知らないだろうけど、実は俺達、相思相愛のラブラブなんだよ。

 まあ、教えてやらないけど。


 精々勘違いしたまま優越感に浸ってるといいさ。

 気付いたときはもう、俺と姫様の結婚の流れは止められなくなってるはずだからな。



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