3 思い付いたことはなんでもやってみよう
初回なので一時間ごとに三話連続投稿します。
第三話。
普通、一属性の精霊に一つの魔法しか頼めない。
これが世界の常識。
だけど俺は、六属性の精霊に一つずつ同時に、それも長時間効果が続く魔法を使って貰える。
これにはちょっとしたカラクリがあった。
いやまあ、本当はカラクリって程、大層なもんじゃないんだけど。
精霊力をコントロールする練習してた時に偶然発見したんだけど、精霊に属性があるように、実は精霊力にも属性があった。
どういうことかって言うと、属性ごとにエネルギーの塊みたいな粒子があって、それが全属性交じり合ってまるで一色のようにキラキラ光ってるのが、みんなが普段目にしてる精霊力って呼んでる物だったんだ。
しかも、混じり合ってるんじゃなくて、交じり合ってるだけ。
だから属性ごとに分別が可能。
当然、分別後の精霊力を放出して渡すことも可能。
さらに言うと、その普段目にしてる大気中の精霊力は、ろくにエネルギーを持ってない、謂わば非活性化してる状態っぽい。
対して人が体内から放出した精霊力は、エネルギーたっぷりの活性化状態みたいだ。
つまり精霊が魔法を使ってくれるのは、その活性化状態にある自分の属性の精霊力からエネルギーを報酬として取り込んでるからなんだ。
ところが体外に放出した活性化状態の精霊力は、時間の経過で熱が冷めるみたいにエネルギーを失っていって、非活性化状態へと変わってしまう。
しかも精霊は、貰った全属性が交じり合った精霊力を自分で分別しながらエネルギーを取り込まないといけない上、分別して脇にどけた余分な精霊力が均一に交ざり合おうとするせいで、分別に余計な手間と時間が掛かってエネルギーがどんどん失われていき、全てのエネルギーを取り込めない。
これじゃあ精霊も、長時間や複雑な魔法を実行なんて、やってられないって話だ。
要は、こんな非効率な真似をしてるせいですぐに精霊力が底をつくから、同時に複数の精霊に精霊力を渡す余裕なんてなくて、一属性の精霊に一つの魔法しか頼めない、長時間も無理、ってことになるわけだ。
それに気付いた俺は精霊力のコントロールを鍛えに鍛えて、属性ごとに分別した精霊力を放出できるようになった。
おかげで、他の人と同じだけ精霊力を使っても、単純計算で六倍の精霊力を渡して、さらにそこから損失なしの六倍のエネルギー効率で魔法を使って貰えるから、ざっと三十六倍の威力を出せるわけだ。
これなら六属性同時とか、朝まで何時間もとか、超余裕って話だよ。
まあここだけの話、分別すると余っちゃう六属性以外の精霊力があるから、通説の六属性以外にも精霊がいるっていうのは、もはや確定みたいなもんだけど。
ちなみに、一属性の精霊に複数の魔法を同時に使って貰うのも可能そうだ。
今はまだ、そこまで上手くコントロール出来てないんだけどね。
◆
六歳になって、これまであれこれ精霊魔法を使ってきたおかげでやれることの幅が広がってきた。
何を頼めばどんなことをしてくれるのか、なんとなくコツが掴めてきたところで、本格的に精霊魔法で食糧事情の改善に乗り出すことにする。
「開墾♪ 開墾♪ 実験畑~♪」
まずその第一歩が、お父さんと村長に頼んで使われてない土地を貰って耕すことだ。
「まずは土作りだけど~♪ 土の精霊がいれば大丈夫~♪」
土をひっくり返して木を倒して、枝を払って切り刻んで、乾燥させて薪にして。
水路を掘って、新しい畑にも水が行くようにして。
さらに土の精霊と水の精霊と火の精霊と風の精霊で力を合わせて貰って、その辺の枯れ草とか排泄物とかも利用しながら、窒素とか、リン酸とか、アンモニアとか、多分そんな辺りを発酵させてくっつけてこね回して化学反応させて肥料を作る。
正直、肥料については俺もよく分かってないんだけど、精霊達が勝手にいい具合にしてくれるから、俺はふわっとしたイメージを伝えて精霊力を渡すだけの簡単なお仕事だ。
「へったクソな歌を歌って何やってんだ?」
「あ、兄ちゃん。うちの畑で取れる麦とか野菜とか、もっと美味しくなってたくさん収穫できないかなって思って、実験用の畑耕してた」
「オレにはへったクソな歌に合わせて、土がボコボコ変に動いてるようにしか見えないけどよ、そんなんで美味い麦や野菜が作れんのか?」
「分かんないから、実験するんだよ」
「……マジでキモいなお前。頭ん中、どうなってんだ?」
「兄ちゃんひどい!」
そうして種を蒔いて世話して育てて、収穫したら真っ先にお母さんに差し入れして、家族みんなで食べてみた。
「美味しいわ! エメルが育てたこのお野菜!」
「ああ、見た目もいいし味もいい。食べてるだけで力が湧いてきそうだ。エメルはすごいな」
お母さんもお父さんも大絶賛で、いっぱい頭を撫でてくれた。
兄ちゃんもエフメラも食べるのに夢中になって、気に入ってくれたみたいだ。
味だけじゃなくて色艶も見栄えも良くて、栄養価まで高いんだから、実験は大成功だったな。
もちろん、うちの畑だけで終わらせるつもりはなかったから、こんなん出来たよって村で精霊魔法を使える人達の家にお裾分けしてみた。
「こんな美味い野菜が作れるなんて……エメ坊、それは俺達にも出来るのか?」
「うん、出来ると思うよ」
ハッキリ言って、目に見えない窒素とか、リン酸とか、アンモニアとか、その存在とか、なんでそんな物を使うのかとか、説明が滅茶苦茶難しかったから、ふわっとなんとなくで説明して、十分に理解が浸透しないまま、村で精霊魔法を使える人達全員で協力してやって貰った。
そんなんで本当に出来るのか……って、俺もちょっと自信なかったんだけど、そんなんでも精霊がいい感じにしてくれて、精霊ってすごいって再確認したね。
うちの畑以外でも、美味しい野菜が収穫出来たんだからさ。
この知識と技術は村の共有財産ってことにして、変に独占したりせず、頼まれたら誰の家のどの畑でもやってあげようってことになった。
おかげで村の食糧事情がちょっとだけ改善して、ほくほくだよ。
そんな感じだったから、俺もあちこちの家にお手伝いで呼ばれたんだよね。
そしたら……。
「エメル君ってすごいね」
「そんなことどうやって知ったの?」
「あたしにも精霊力を見るコツ、教えて欲しいなぁ」
なんと、女の子達が俺に尊敬の眼差しを!
もしかして俺、前世も含めて人生初めてモテ期がきてるんじゃ!?
この調子で頑張れば、将来本当に幼馴染の彼女をゲット出来るかも!
新しく作った畑で作物を育ててる間、普段使ってる畑は休耕地にして、肥料を行き渡らせる。
休耕地があるのって、効率悪いなって思うけど……。
所謂ノーフォーク農法って呼ばれる輪栽式農業は、それに適した土壌じゃないと駄目で、どこでも出来るわけじゃないって、ネットか何かで読んだ記憶がある。
で、残念ながらどんな土壌が適してるのかまでは知らない上、うちの村の土地がそれに適した土壌かは不明。
それ以前に、全部の農家の畑でそれを出来る程の家畜もいなかった。
うちだけでも実験したいなって思ったんだけど、うちは家畜を飼ってなくて畑オンリーだったし、新たに家畜を買う余裕もなし。
というわけで、残念だけど、そこは断念。
いつかうちが家畜をたくさん飼えるくらい裕福になったら試してみることにしよう。
代わりに肥料を増やしたり改良したり、開墾して畑を増やして収穫量を増やす方向で頑張った。
「エメにーちゃん、すごーい! エフにもまほーおしえて♪」
おかげで、エフメラにすごいって尊敬の眼差しで見て貰えて、俺、大勝利!
「よーし、エメ兄ちゃんと一緒に、エフメラも魔法の練習しようか」
「うん♪」
とまあ、精霊魔法の練習がてらそんなことをやってるうちに、美味しくて栄養豊富な野菜がどの家の畑からも収穫出来るようになって、普段の食事が良くなったからか、村のみんなが以前より元気になってきた。
まあ、税としてごっそり領主様に持って行かれちゃうんだけどさ……。
ともあれ、少しは食料を備蓄出来る余裕も出てきたし、薪もたっぷり作って冬の備えもバッチリだ。
さらに他にも、近くの森や川で狩りをしたり、魚を捕ったり。
狩った獲物や、退治した畑を荒らす狐や猪なんかの毛皮で、毛布や服を作って冬に備えたり。
錆が浮いた農具から錆を取って綺麗にしたり、木を削って道具を作ってみたり、お風呂を沸かしてみたり。
とにかくなんでもかんでも、思い付いたことは片っ端から精霊魔法でやってみた。
村の子供達の中にも、俺が根気よく教えたおかげで精霊力を感じられるようになった子や、かすかにぼんやりとだけど精霊が見えるようになった子も出てきた。
「エメにーちゃん、せいれーふわふわかわいー!」
エフメラは俺に四六時中ひっついて回ってるせいか特に優秀で、俺も兄として、師匠として、鼻が高いよ。
腕を上げたのは子供達ばかりじゃなく、元から精霊魔法を使えた大人達は、理屈は分からなくても結果が出てるもんだから、俺の真似をして色々精霊魔法を使うようになって、段々複雑な魔法も使えるようになってきたみたいだった。
そのいい例が、木桶の前でご機嫌のお母さんだ。
「あ~お洗濯が楽だわ♪」
木桶の中の水と洗濯物がグルグル回って、勝手に汚れが落ちていく。
「エメルが教えてくれたおかげで、水の精霊も大分お願いを聞いてくれるようになってきたのよ。洗濯だけじゃなくて、お料理の時にも使えるから、とっても便利だわ」
「早く火の精霊と水の精霊に同時にお願いして、魔法が使えるようになるといいね。洗い物も洗濯もお湯で出来るし、最初からお湯で料理すれば薪代の節約にもなるし」
「そうなのよね。難しくて未だにコツも掴めないもの。早くエメルに頼らずに出来るようになりたいわ。でもその前に、もっとお願いを聞いてくれる精霊を増やしたいわね」
「じゃあ次は風の精霊に頼んで、洗濯物を乾かす練習だね」
「ふふ、そうね。でも風の精霊はまだまだ私の言うことを聞いてくれないから、練習頑張らないと」
お母さんは以前、火属性の精霊魔法しか使えなかった。
それが練習の甲斐あって、今ではご覧の通りだ。
「エメルのおかげで暮らし向きが少し良くなってきて、ほんのちょっとだけど生活に余裕が出てきた気がするわ」
お母さんが手招きして両手を広げる。
だから、ぼすっと抱き付いて甘えてみた。
「エメルは自慢の息子よ」
抱き締めて、頭を撫でて、優しく褒めてくれる。
「えへへ、ありがとうお母さん♪」
ああ、至福♪
前世じゃ家族みんな仲が悪くて、親に褒められた思い出ほとんどないんだよな。
それが今世では、こんなにも優しく愛されて、褒めて貰える。
おかげで俺、マザコン属性なんてないって思ってたけど、十六歳くらいしか違わないし、お母さんくらい年上の姉さん女房も悪くないかもって思えてきた。
「あっ、ママ、エフもぎゅー」
俺達を見かけたエフメラが、たたっと走ってきてお母さんに抱き付く。
「エフメラも自慢の娘よ、ぎゅ~」
「えへへ♪」
「よーし、お兄ちゃんもエフメラをぎゅ~」
「わぁい♪」
楽しく魔法を使えて、暮らしが良くなって、家族円満、しかもそれで親孝行できて褒めて貰えるなんて、本当に今世はいいことずくめだな。
そう、いいことずくめだって思ってたんだけど……。
「おいエメル、お前最近ちょっと調子に乗ってんだろ。弟のくせに生意気なんだよ」
兄ちゃんが俺に暴力を振るいだした。