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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十章 領地の開発に自重なんていらないと思う

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299 奴隷解放



 領地経営を始めて一ヶ月が過ぎた。


「それじゃあ予定通り、今日で炊き出しはおしまいだ」


 ウクザムスの広場に集まって、炊き出しを食べ終わった奴隷達へ向けて宣言する。


 残念そうな声が上がるけど、それこそ何日も前から繰り返し伝えてたおかげで、あからさまに文句を言う奴はいないし、混乱も起きなかったな。

 今日まで食費こっち持ちで、就業支援もしたし、公共事業その他で稼がせてやってたんだ。

 サボりは許さなかったし、みんなそれなりの蓄えも出来てるはずだ。

 明日からは、自分達の稼ぎだけで十分食ってけるだろう。


 他の町や村については、食料の輸送や公共事業で賃金を渡し始めた時期にずれがあるからまだ続けるけど、それも一ヶ月過ぎるごとに順次終了する予定だ。


 その炊き出しが終わった節目の一ヶ月目。

 今日は記念すべきイベントを用意してある。


「書類上の手続きは全てこっちで済ませた。今からみんなの首輪を外すぞ!」

「「「「「おおぉーーー!!」」」」」


 高々と拳を突き上げると、みんなから歓声が上がる。

 そう、いよいよ奴隷達を奴隷の身分から解放して、身分を平民に、ちゃんとした俺の領民にする日がやってきたんだ。


 期待した熱い視線が俺に集まる中、全員を見渡す。


 最初は鍛冶屋に頼んで外して貰うつもりだった。

 だけど、鍛冶屋に相談したら、二百人も外すとなるとさすがに何日も掛かる上、鍵がないから壊すしかなくて、その時怪我をする危険もあるらしい。


 と言うわけで、その方法は却下。

 モスに頼んで一斉に外してしまうことにした。


 ナサイグやモザミア、ユレースなんかに異口同音で言われたのが、『伯爵様自ら外してあげることで、皆、より一層伯爵様に感謝すると思います。きっと、これまで以上に伯爵様とこの領地のために働いてくれるようになるでしょう』だそうだ。


 確かに、安定した統治のためのパフォーマンスとしては効果的だよな。

 逆の立場なら、俺だってその領主にすごく感謝すると思うし。


 と言うわけで、分かりやすいパフォーマンスのために、モスを呼び出す。


「顕現せよ、我が契約せし土の精霊、モス!」

『ブモォォ!』


 いつもの演出通り、石畳から土塊(つちくれ)がボコボコと出現して小山になって、それがバンと飛び散り、そこから巨体を震わせモスが現れた。

 俺の契約精霊をすっかり見慣れてるせいか、みんなビビるどころか歓声を上げる。


「みんな心の準備はいいか? じゃあ外すぞ。モス、みんなの奴隷の首輪を破壊してくれ!」

『ブモゥ!』


 突き上げた手をみんなに向かって振り下ろすと、首輪の金具と鍵が一斉に壊れて、ゴトゴトと重たい音を立てながら石畳の上に落ちて転がった。


「みんな胸を張れ! これでお前達はもう奴隷じゃない! 今から平民だ!」


 もう一度拳を突き上げると、途端に大歓声が上がる。


「オレ達、やっとまともな人間に戻れたんだ!」

「首が軽いわ! もう奴隷の首輪の重さに悩まされないでいいのね!」

「俺達はもう自由なんだ!」

「ありがとうございます領主様!」


 みんな大歓喜してるな。

 中には感極まって大泣きしてる奴までいるし。


「せっかく平民に戻れたんだ、しっかり働いて金を稼いで、借金奴隷や犯罪奴隷になってまた首輪を付けるなんてことがないようにしろよ!」

「「「「「はい!!」」」」」


 贅沢さえ言わなければ、今なら仕事なんていくらでもある。

 もし新しい仕事を始めたいなら、支援の準備だって万全にしてるから、いくらでも相談してくれていい。

 出来ればスラムなんて作りたくないから、是非頑張って貰いたいもんだ。


 ただ、そんな彼らを羨ましそうに見てる、まだ首輪が付いてる連中もいる。

 言わずと知れた、逃亡した獣人達だ。


「そんな顔するなよゼネガル。今の調子で真面目に働けば、模範囚としてあと一年もしないでお前達も外せるんだ」

「ああ、分かってるよ、領主様。みんな一斉に首輪を外してみせるさ」

「ああ、期待してる」


 ちょっと可哀想な気がしないでもないけど、こればっかりは自業自得だからな。

 今日の打ち合せをした会議でそれとなく、一緒に外してやれないか聞いてみたんだけど、全員に却下されちゃったし。


「モザミアもご苦労様。これで奴隷達の解放の仕事は、一山越えたな」

「残りの町と村の解放がまだ残ってますけど、なんとかこぎ着けられました」


 疲れ気味の笑顔なのは、大量の書類を用意するのが大変だったせいだろうな。

 なんたってプリンターもコピーもないから、書類って全部手書きだし。

 俺もエンに頼んで、エアリアルフォトを応用したコピー&ペーストの魔法で一部複製して書類の用意を手伝ったけど、千枚近く用意するのは本当に大変だったからな。


「でも、夏になったら、一万人の奴隷達が来るんですよね……あの書類をまた一万人分用意しないと駄目なんて……今日から始めても間に合う気がしません……」


 あ、目が死んでる。


 今のモザミアの実力だと、まだ分別を教えるには早すぎるんだよな。

 信頼出来る役人を何人か選んで、光の精霊と契約出来るまで鍛えてコピー&ペーストの魔法を教えて、モザミアの補佐に付けるのを本気で考えた方が良さそうだ。


「また俺も手伝うし対策も講じるから、よろしく頼むよ」


 モザミアの頭をわしゃわしゃと――


「――ってごめん!」


 つい、エフメラにするみたいに、頭を撫でちゃったよ!


「……」


 ほら、ビックリして俺を見上げてきてるし!


「本当にごめん、髪の毛、乱れちゃったな」

「いえ、それより今の、もう一度お願いします。今度は優しく」

「へ? それは……俺は構わないけど、いいのか?」

「お願いします」


 まあ、本人がそう言うんだったら……。

 今度は髪の毛が乱れないように、優しく撫でてやる。


「はぁ……頭を撫でられるなんて子供の時以来です。悪くないですね、これ。苦労が報われた気がします」

「そ、そうか?」


 なんか頬を染めて……所謂これが『ナデポ』って奴なのか?


 ひとしきり撫でた後、手をどけると、なんとなく名残惜しそうに見られて、どんな顔をすればいいのやら。


「これからも頑張りますから、結果を出せたら次もまたお願いしますね? 約束ですよ? 絶対ですよ?」

「わ、分かった」


 なんか、すごく気に入られた?

 本人がして欲しいって言うなら……まあ、いいか。


「……」


 ん? なんかチクチク視線が突き刺さってくるけど、なんだ?


 振り返ってみれば、護衛で付いてたエレーナが、すごく不服そうな目で俺を睨んでくるんだけど……。


「ど、どうしたエレーナ?」

「……私、撫でて貰ってない」

「は?」

「この前、期待したのに、撫でて貰えなかった」


 この前って……ああ、エレメンタリー・ミニチュアガーデンで大量生産した時か。


「エフメラ様は妹だからいい。でもモザミアは違う。なのに、モザミアまで……」

「いやいや、なんでそんなに撫でて欲しがるんだよ」


 エフメラは妹だし、モザミアも年下だから、ついやっちゃっただけで。

 でもエレーナは俺より四つも年上で、それなのに頭を撫でるとか、どうかと思うんだけど。


「……ずるい」

「いや、でもさ……」

「ずるい……」

「……分かった、分かりました。ほら」


 観念して、俺よりまだ少し背が高いエレーナの頭を優しく撫でてやる。


「エレーナ、いつも守ってくれてありがとうな」

「うん」


 くっ……またこういう時だけ表情筋が仕事して照れ笑いとか、可愛すぎか!


 と、ともあれ。

 それからしばらく、あちこちの町や村を訪れては奴隷達を解放して回った。



 そうして奴隷達を解放したら、次は帰国事業だ。


 これまでは、法律上、奴隷として俺の所有物だった。

 俺自身にそんな意識はなかったけど、マイゼル王国としても周辺国の国際的な慣例においても、マイゼル王国で身分を保障するにはそうするしかなかったんで仕方ない。


 仮に即日解放して、右も左も分からず生活力もお金もないのに好き勝手されたら、食べるのに盗みを働いたり、身体を売るしかなかったり、山賊になったり、行き倒れたり、それこそ各地で混乱を引き起こしてたと思うから、やむを得ない事情でもあった。


 だけど、しばらくこの領地で生活してお金を貯めて事情を理解した上で、正式に手続きして一個人へと戻れた以上、すぐにでも故郷へと帰りたいはずだ。


 中には、このままこの領地で暮らしたいって帰国を取りやめた人達もいたけど、逆にやっぱり帰国したいって人達も出てきたから、なおさら少しでも早く帰らせてあげたい。


 そういうわけで、帰国希望者を一旦ウクザムスに集めて、それから予定通りインブラント商会に護衛と輸送を依頼して、領内のおよそ半数弱の人達を送り出すことにした。


「お世話になりました領主様」

「ありがとうございました、このご恩は一生忘れません」

「ああ、帰ってからも大変だと思うけど頑張れよ。道中気を付けてな」


 口々に挨拶してくれる人達に声をかけて、それからオルブンとカラブンへと声をかける。


「じゃあ、面倒をかけるけど、彼らのことをよろしく頼むよ」

「お任せ下さい伯爵様」

「インブラント商会が責任を持って送り届けるんで大丈夫ですよ」


 送り出すのは、マイゼル王国の他領出身の人達だけじゃない。

 オルブンとカラブンが商会長に掛け合ってくれたみたいで、商会長の伝手で、他国と交易してる幾つかの隊商が協力してくれて、各国へ送り届けてくれることになったんだ。


 本来は国の事業としてやってることだけど、国境線を接してるフォレート王国や、ナード王国出身の人達ならともかく、他国を経由しないと行けない国出身の人達を送り届けるのに、道中ずっとマイゼル王国の兵士が護衛していくわけにはいかない。

 自国の領土を他国の兵士が通行するとか、それこそ戦争の準備と勘違いされたら関係が悪化してしまう。

 同じ理由で、迎えに来いとも言えない。

 だから実は王都の側の難民キャンプには、帰国したくても帰れない人達が残ってたんだ。


 そういうわけで、みんなまとめて隊商のご好意に甘えさせて貰うことにしたわけだ。

 当然、タダじゃなかったけどね。


 一応、帰国事業はマイゼル王国が行ってることだから、その隊商には国から謝礼が出てる。

 それとは別に、俺の領地から送り出すわけだから、俺も謝礼を出した。


 俺からの謝礼は俺が生産した作物だ。

 これには、俺が生産した作物の品質を他国へ宣伝して、将来の輸出のための足がかりにするって意味もあるから、悪いことばかりじゃない。

 って言うか、むしろ俺には得しかない。


 さすが商会長、いい手を考えたもんだよ。


「みんな元気でな!」


 インブラント商会の隊商に同行して去って行く人達を、手を振って見送り、気持ちよく送り出す。

 彼らも、門から出て姿が見えなくなるまで、時々振り返りながら手を振ってくれた。


「ふぅ……行っちゃったか。ただでさえ町の大きさに対して人が少なかったから、一気に寂しく感じるな」

「伯爵様、問題はただでさえ人手が足りなかったのに、さらに足りなくなって、経済規模も小さくなったことです」


 モザミアの言いたいことは分かる。

 正直言えば、俺もちょっと困ってる。


「でも、だからっていつまでも奴隷のまま縛り付けて、領内で働かせるわけにはいかないだろう?」

「それもそうなんですけど……」


 だから少ない労働力でもやりくりするしかない。

 じゃあ、どうすれば、少ない労働力でも十分な仕事をこなせるのか。


「やっぱり精霊魔法だな。俺がこれまで散々デモンストレーションしてきたし、そろそろ精霊魔法を学びたいって連中が、それなりの数になってるんじゃないか?」

「そう言えば、かなりの数の希望が出てると、報告が上がってきてたような?」


「よし、決まりだな。普段の仕事の邪魔にならないよう、五日に一度の早朝、希望者を広場に集めるか。きりよく十日後開始ってことで。モザミア、ウクザムスは当然、他の町と村でも告知を出しといてくれ」

「は、はい」


 どんどん育てて、領地の開発をどんどん進めていきたいな。


「あっ、そうだ、明日から数日王都に戻るから、その間、領地のこと頼むよ」

「数日王都へですか? あっ、もう式典の日ですか」

「ああ、いよいよフィーナ姫が王太女だ」



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