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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第十章 領地の開発に自重なんていらないと思う

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287 間抜けな逃亡奴隷達

 ナサイグに先導されて執務室へ入ると、文官のアルフェッドと武官のブルートが執務スペースのソファーに腰を下ろしていた。

 二人が俺に気付いて、ソファーから立ち上がる。


 堅苦しい挨拶は不要って手で制してソファーに座ると、俺の隣にエフメラが座り、アルフェッドとブルートがソファーに座った。

 ナサイグ、モザミア、エレーナはソファーの後ろに立つ。


「逃亡奴隷達が行き倒れで見つかったって?」


 前置きを抜いて、すぐに本題を切り出すと、なんとも微妙な顔で二人とも頷いた。

 そして二人は顔を見合わせると、年配のブルートが説明することにしたみたいだ。


「行き倒れと言いますかなんと言いますか……伯爵様もご承知の通り、自分達はセセジオの町の畑に蒔くための種子や種芋を輸送中だったのですが、空腹のせいで今にも倒れそうなフラフラの獣人達が現れまして、腹が減ったからそれをよこせと……襲撃されたと言えるほどの事態ではないので、どのように処理して良い案件か判断が付かず、ご判断を仰ぎたく戻って来た次第です」


「そいつらが逃亡奴隷ってのは間違いないんだな?」

「はい、奴隷達が付けている物と同じ首輪を付けていました。人数は三十人ほどで、他の奴隷達からの話で判明している逃亡奴隷の人数にはやや少ないですが、現れたのは大人達ばかりで子供達は別の場所に待たせていたようです。子供達に関しては、セセジオに駐屯している兵達が保護に向かっています」


「なるほど、それでそいつらは今?」

「セセジオに連行と言いますか保護と言いますか運び込み、食事を与えました。その後、同行していた輸送部隊の半数を町に残し事情聴取をする手はずを整え、自分達は報告のため戻って来た次第です」

「じゃあ、差し迫った危険はないんだな?」

「恐らくは」


 まったく、何をやってるんだかな、その獣人達は。


「分かった。じゃあもう少し詳しい経緯を聞かせてくれ、それからどう対処するか考えよう」

「はっ、自分達はウクザムスを出立し――」



◆◆◆



 仮の領都に定められた旧領都ウクザムスから出立したのは、荷馬車が二台。

 積み荷はエメルが増やした、畑に蒔くための小麦、大麦、芋、大豆の四種類の種子と種芋と肥料、それとインブラント商会から購入した各種日用品である。


 護衛するのは王家から派遣され、メイワード伯爵領軍へと編入された武官ブルートと、同じく王家から派遣された兵士およびエメルが護衛として連れて来てメイワード伯爵領軍へと編入された元奴隷の兵士が合わせて八人。

 それに加えて、エメルからの指示や方針を通達するために、他の貴族家からコネでエメルに雇われた文官アルフェッド。

 全員で十人の道行きだ。


 向かうのは、ウクザムスの南門から出て湖を南に迂回する街道沿いに進み、徒歩でおよそ半日ほど離れた小さな町セセジオ。

 セセジオに暮らすのは奴隷達が五十人程で、すでに一度食料を輸送し配給したことがあり、彼ら輸送部隊がその町を訪れるのは二度目になる。


 事前調査で外務省の調査団が訪れたときも、食料を輸送して文官が領主としてエメルが着任したことや統治の方針を伝えたときも、奴隷達はむしろ協力的で、特に食料を配給したことで歓迎ムードになっていた。

 ウクザムス同様に、食料を食い尽くし、春に蒔くための主食の種子と種芋にも手を付けて、日々の食事に事欠いていたのだから当然だろう。

 これもやはりウクザムス同様に、獣人を中心として一部の奴隷達が『自由だ!』と誤った認識で逃亡しており、残った奴隷達に関しては、食料と日々の生活を保障してやれば、エメルの支配を受け入れるだろうことは、疑いの余地がなかった。


 だから、輸送部隊にとってセセジオを訪れることに、なんら危険も不安もない。


 しかも山脈の北側では、遅い地域になるとトロルが去ってまだ半月経つか経たないか程度なので、周辺の獣や魔物は未だトロルを恐れて警戒しているのか、町や村、街道などに近づいてくる気配はなかった。

 加えて言えば、領民の大半が奴隷でトロルに管理されていた上、出稼ぎや移民はやってきたばかりなので、食い詰めた領民が町や村を捨てて盗賊になっている事例も、他の領から逃げてきた盗賊達が入り込んだ事例もなく、街道はとても安全と言えた。


 おかげで護衛の人数はそれほど必要ではなく、気楽な道行きで、誰もが気を緩めていても仕方のない一面があった。


「伯爵様は領地を持つのは初めて……いやそれ以前に、貴族になって一年も経たないと言うのに、なかなかどうして、領主として立派にやっていると思わないか?」


 王家から派遣されたその武官は、ブルート・ダガット。

 とある王室派の領地貴族の親戚の親戚くらいの遠戚の家の生まれで、身分は平民であり、代々王国軍の重要なポストに就けるだけの武人を輩出してきた、武門の家系の出身である。


 ブルートはすでに三十半ばを過ぎ四十に手が届きそうなところで、すでに怪我は癒えているが第一次王都防衛戦で負傷し、肉体の衰えを理由に第一線を退いてからは、王国軍で後進の育成に従事していた。

 そんな折、将軍を経由して、アイゼスオートとフィーナシャイアからメイワード伯爵領への赴任およびメイワード伯爵領軍への編入の打診を受けたのだ。


 これがもし、他の貴族家の領軍への編入であれば断っていたかも知れない。

 しかし、大恩ある救国の英雄エメルの助けになると知り、承諾したのだ。


 そして、ただの名もない農民から王家にとって最も重要で信頼できる臣下の一人となった、そしてマイゼル王国において急速に影響力と発言力を増しているエメルを、よく支え助けるようアイゼスオートとフィーナシャイアから直接言葉を(たまわ)るに至り、エメルの領地経営に全面的に協力することにしたのである。


 妻子は王都に残してきたが、領地経営が軌道に乗り栄えれば、メイワード伯爵領へ呼び寄せる事になっていた。

 領地の状況を見て、これは妻子を呼び寄せるのは予想より数年は先に延びるかと覚悟を決めかけたが、エメルの魔法で食料大増産と再開発の工期の大幅短縮を目の当たりにし、これは当初予想より早く妻子と再会できそうだと、期待が高まっているところである。


 なので、自らの使命は三つと、心得ていた。


 一つは当然、エメルを守ることである。


 一つは当然、領軍をまとめ、年若い同僚の武官や兵達を鍛え上げることで、エメルの統治を助けることである。


 そして最後の一つは、他家から紹介されて雇われた文官、武官、侍女、メイド達など重要なポストや身の回りの世話をする、様々な貴族家の紐付きである彼ら彼女らの思惑や密命を見抜き、エメルや領地への害意や妨害があれば、それを処断することである。


「年若くまだまだ頼りなくも見えるが、この危急存亡の(とき)に、慌てず騒がずこれほどの物資を準備するなど、並の者ではこうはいくまい。これぞ『力』に裏付けられた自信と結果と言えるのではないか?」


 だからこそ、エメルと共にやってきた他派閥の同僚達に積極的に話しかけ、不穏な動きがないか、危険な思惑を抱いていないか、親睦を深めるためという(てい)で探りを入れ、また敵対は愚策であると喧伝するかのような話題を選んでいた。


「まあ、そうだな。社交界では、元農民の成り上がり者と揶揄して軽く見る風潮がある……と言うか、そうして軽んじてやらないとプライドが守れないというか、そんな貴族も決して少なくないが。それでも、こんな状況の領地を、よくもまあ投げ出しも逃げ出しもせず治めようとしてるな、とは思う」


 同行する文官は、アルフェッド・バーナー。

 代々続く由緒正しい宮廷貴族家の四男で、まだ二十代前半と年若く、実家はやや反王室派寄りの中立派である。


 アルフェッドの父親は、政争に積極的に首を突っ込み利権と発言力を増そうと画策している野心家で、第一次王都防衛戦、第二次王都防衛戦において、エメルにより命を救われた口なのだが、それに感謝するどころか、たかが農民風情が叙爵された上に、異例の早さで立て続けに陞爵(しょうしゃく)され、権勢をいや増していくことに地団駄を踏む程に嫉妬し、(うと)み、なんとか足を引っ張り失脚させることは出来ないかと昏い情念を燃やして画策するような人物である。


 アルフェッドとしては、そんな父親の姿にドン引きしているのだが、かといって、当主である父親には逆らえない。


 その第一次王都防衛戦において、大勢の文官、武官、役人が殺され、人手不足に陥っていたところを、権力と発言力を増すチャンスとばかりに、父親のごり押しで農水省へと就職させられた口である。

 それが巡り巡って、農水省の上級官吏をしているうちの息子ならエメルの農政改革に協力出来ますよ、との建前で、エメルの足を引っ張る弱点や粗探しのために、メイワード伯爵領へと送り込まれたのである。


 だから、父親の言いなりで振り回されている現状に不満はあるが、実家のために、一見真面目に働きつつも情報収集に余念がなく、ブルート同様に同僚達との交流は密にしていたから、何気なさを装い慎重に話題に乗る。


「しかも、この危機的状況に忙しくしてるのは確かだけど、それでもまだ余裕が垣間見えると言うか……なんでも精霊魔法でごり押しして解決してしまいかねない、ちょっと理不尽な勢いがあるよな」


 わずかばかり本音が漏れて、呆れたように言いながらチラリと積み荷を振り返った。


 たった一日で、百キロの小麦が五トンに増えたとウルファーに聞かされた時は、顎が外れそうになるほど驚いたものだ。

 しかも、ウォータースクリーンで配信された第二次王都防衛戦でトロルとの戦いを見た記憶も新しく、そんな化け物相手にどう立ち向かえと、多少の弱点や粗など吹き飛ばすほどの成果を上げているぞと、内心では父親に愚痴るように、半ば投げやりな気分になっていた。


「ははは、違いない。規格外の噂は伊達ではないと言うわけだ、あの若き領主様は」

「いくらなんでも規格外過ぎるだろう。出来ないことなんてあるのかな」

「さあな。それこそお前の言う通り、精霊魔法のごり押しで、全てを解決してしまいそうだ」


 そんな軽口の叩き合いの中にも攻防が紛れているのだが、そのような道中のお喋りは常で、その裏の攻防に気付かない兵達は、上司二人の緊張感のなさに緊張が緩んで無駄口が増え、道行きは陽気で賑やかになる。


 部下達のそんな態度を、ブルートもアルフェッドもお目こぼししていた。


 それは、自分達が軽口を叩き合っているからだけじゃない。

 王家から派遣された兵士でも背後に政治的な背景が様々にあり、また元奴隷でも出身国や人間以外の種族であるなど、立場が様々に違う者が多すぎて、お互いに距離を縮め親睦を深めておかなくては、いざ事が起きたときに連携することはおろか、信頼して背中を預けることすらままならないからだ。


 それこそ酒を酌み交わし、酔った勢いで花街に繰り出すことで、否が応でも連帯感は高まるのだが、現状、ウクザムスでは少量の酒ならまだしも、花街などどこにもないのでその手は使えない。

 だからこそのお目こぼしである。


 しかしそれは、周囲への警戒が疎かになる事も意味していた。


 加えて、見通しが良い草原であることも、大きな油断を招いていた。

 予想もしていなかった多数の人影が、行く手を遮るように街道の南から接近してきていることに気付いたときは、かなり手遅れの状況になっていたのだ。


「チッ、何者だあいつらは!?」

「とにかく急げ! 町へ逃げ込むんだ!」


 ブルートの指示が飛び、輸送部隊は駆け足になる。


 それに気付いた人影達も、足を速めて前方に回り込もうとしてきた。

 さらに、草むらから次々に立ち上がって、人影が増えていく。


「まずい、間に合わん!」

「くっ、回り込まれた!」


 人影の数人が全力疾走し、街道へ出たところで倒れ込み、四つん這いになって行く手を阻む。


「全員停止! 警戒態勢!」


 街道を封鎖した人影から数十メートル離れた地点で、輸送部隊は停止する。

 その間にも、次々と人影が輸送部隊を目指して近づいてきていた。


 日中の見通しの良い草原であれば、ある程度距離が離れていても、その人影が何者かはおおよそ分かる。


「ほとんどが獣人……もしや町から逃げ出したと言う獣人の奴隷達か?」


 ぐるるる、と、幾つもの唸り声が聞こえてきて、交戦するか引き返し逃走するか判断に迷っていると、ふと、様子がおかしいことに気付く。


 獣人は基本的に体格がいいので気付くのが遅れたが、誰もが痩せこけてフラフラで、全力疾走して行く手を塞いだ連中が四つん這いなのは、それが戦闘スタイルで飛びかかろうと身構えているわけじゃなく、単にへばって動けないだけのようだった。

 しかも、唸り声と思ったのは、落ち着いて聞けば、腹の虫が鳴いているようにしか聞こえない。


「腹が……腹が減ってたまらん…………そいつを……飯をよこせ…………」


 息も絶え絶えの獣人達に交戦するだけの力が残ってるようには見えず、輸送部隊の面々は、困惑するしかなかった。



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