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19 ご褒美に願うこと

「なっ……!?」


 驚きの声を上げて固まる姫様。

 そこで俺も、思わず自分が何を口走っちゃったか気付く。


 さすがにこれは、先走りすぎたかも……。


 でも、口にしちゃった以上、取り消すのもなんか違うよな。

 だって、勝手に口をついて出ちゃったってことは、それが俺の心からの望みなのは間違いないんだから。


「ついポロッと……でもどうやら俺が本当に欲しいご褒美は、姫様が俺のお嫁さんになってくれることみたいです」

「……」

 愕然として、固まったまま動かない姫様。


 まあ、仕方ないよな。

 こんな状況なのに、いきなり平民がお姫様にプロポーズだもんな。


 ってそうか、今のが俺の人生初プロポーズなのか……ドラマチックなような、締まらないような。


「な、何を馬鹿なことを申しているか! 身分を(わきま)えよ!」

 どうやら一緒になって固まってた次期公爵が、真っ先に再起動したらしい。

 怒髪天(どはつてん)()くって感じに怖い顔だ。


「次期公爵には関係ないでしょう。俺は今、姫様と話してるんです」

「なんだと貴様! 平民の分際で無礼な!」

 一応相手は貴族だし丁寧に話そうと思ってたけど、なんかイラッときたから、いいやもう敬語とかなんとかなしで。


「次期公爵は、姫様が心から願ってたのに、望みを叶えるために知恵を絞るどころか、出来ない言い訳ばっかり並べて断ってただろう? それを俺が代わりに叶えるって言ってるんだから、むしろ感謝すべきところじゃないか? それと今大事なところなんだから空気を読んで、余計な口を挟まないで欲しいんだけど」


「貴様……!」

「ラムズ、下がれ」

「……はっ」

 次期公爵が腰に()いていた剣を抜きかけたところで、姫様が止めてくれる。


 うん、いきなりだったんでちょっとビビった。

 でもまあ、どうとでもなっただろうし、ビビって損した。


 姫様は俺に顔を向けると、困ったように微笑んだ。


「エメルよ、そなたの気持ちはよく分かった。しかし私は――」

「よろしいのではありませんかアイゼ様」

 不意に、それまでずっと黙って控えてたクレアさんが、何故か割り込んで俺に援護射撃をしてくれる。


「――クレア、そなた何を言っている。いいわけがないだろう」

「エメル様は、この国の姫(・・・・・)を妻に(めと)りたいと言っているのです。フィーナシャイア様を無事お救いして差し上げれば、それはもはや英雄と呼んでも差し支えないでしょう。英雄であれば姫を娶るのに不足はないかと」

「クレア、そなたまさか――」


 何故か、姫様の顔が険しくなる。

 だけど、クレアさんはクールな表情を変えず、姫様の咎めるような視線を正面から受け止めた。

 なんだろう、援護射撃なのかと思ったけど、クレアさんも何か企んでる?


「なるほど、そこの侍女の言うことも一理ありますな」

「ラムズ、そなたまで!」

 この次期公爵、クレアさんの企みに乗っかったってことか?


「ただし平民」

 悪い顔を隠すように真面目くさった顔をして、次期公爵が尊大に俺を見下してきた。


「フィーナシャイア殿下を無事お救いして差し上げれば、確かに英雄的行動ではある。しかし、それだけでは平民が王族を娶るには功績が足りぬ。分不相応だ」

「……じゃあ、どこまで手柄を立てたら俺は英雄ってことで、姫様をお嫁さんに貰えるんだ?」

 俺が聞き返したところで、次期公爵がニヤリといやらしく笑った。


「トロルロードの首を取れ。殿下の父君、母君であらせられる国王陛下、王妃殿下の仇を討ち、無念を晴らして差し上げろ」

「ラムズ、何を言っている!? そのような無謀な真似を、ただの平民であるエメルにさせようなど、恥を知れ!」

 ガタンと椅子を蹴倒さんばかりに立ち上がった姫様が、声を荒げて次期公爵を咎めるけど、どうやら次期公爵は面の皮が厚いらしい。

「平民が王族を娶ろうというのです、他の貴族どもが黙っていますまい。そのくらいの力を示さねば、誰も納得などしないでしょう」


「なるほど、あんたの思惑に乗るのは面白くないけど、それで納得してくれるなら安いもんだ」


「エメル、ラムズの言葉に耳を貸す必要はない。そのように無謀な真似をせずとも、姉上さえ救い出してくれれば、それで良いのだ」

「大丈夫ですよ姫様。そのトロルロードってのがどのくらい強いのか知らないけど、トロル兵であの程度の雑魚なら、そいつらの大将のトロルロードだって余裕ですよ。俺が姫様に代わってお父さんとお母さんの仇を討って、無念を晴らしてあげます。そう約束しましたよね」


「ほう、トロル兵を雑魚とは大きく出たな」

 この次期公爵、いちいち割って入ってきて、本気でウザいな。


「それほど豪語するのであれば、さらに次の条件も容易かろう」

「まだ条件を乗っけるつもりかよ」

「無論だ。フィーナシャイア殿下を無事お救いし、トロルロードを討つ。どちらも条件さえ揃えば、我が配下だけでも可能だからな」

 この次期公爵、どうあっても俺と姫様の仲を邪魔したいらしいな。


 でもまあ確かに、少数精鋭を潜入させてトロルロードを暗殺して囚われのお姫様を救出するのは、次期公爵の配下でも出来るんだろう、時間的に猶予がなくてリスクが高すぎるから選択すべきじゃない、ってだけで。

 なら次の条件は、次期公爵の配下じゃ不可能なことってわけか。

 どんな無理難題を吹っかけてくるつもりだ?


 でも取りあえず、次期公爵はいっぺん馬に蹴られとけ!


「王都を占領するトロル兵を王都から一匹残らず追い出し、王都奪還もして貰おう。トロル兵が雑魚なのであれば、その程度も余裕だろう? そこまですれば、たとえ平民であろうが文句の付けようがない英雄だ」

「ラムズ! いい加減に――」


「えっ、その程度でいいんだ?」

 もっと無理難題を吹っかけてくるのかと思いきや、姫様のお姉さんを助け出す行きがけの駄賃程度の追加クエストで認めてくれるなんて、意外と安く済んだな。


「そ、その程度……だと? ほ、ほう、これはまた随分と豪胆なことだな、平民の分際で」

 俺があっさり安請け合いしたもんだから、次期公爵、なんか面食らってるな。


「平民とか貴族とか、今は関係ないだろう? そんなにお貴族様が偉いってんなら、それ全部、あんたが一人でやってみせたらどうだ? 平民の俺が一人でも余裕なんだから、お偉いお貴族様なら超余裕だろう?」

「貴様……!」


「ラムズ下がれ。エメルもそこまでにしておけ」

「姫様がそう言うなら」

 本当にもう、次期公爵は口先ばかりでウザすぎだ。


「エメルよ、ラムズが言ったことは気にするな。姉上さえ助け出して貰えれば十分だ。トロルロード討伐も、王都奪還も、私達王族と貴族が成すべき事であり、平民のそなた一人に押しつけることではない」


 心から俺の心配をしてくれてるのが伝わってきて、もう、感動で胸が打ち震えるよ。

 これはもう、姫様のためにやるしかないだろう!


「分かりやすくていいじゃないですか姫様、全部やりますよ、俺」

「なっ!? エメル、そなた、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」


「もちろんですよ。囚われのお姫様を救い出して、トロルロードを倒して仇を討って、王都からトロル兵を追い出して奪還する。そこまですれば文句の付けようがない英雄って言うんなら、むしろ分かりやすいじゃないですか。それで堂々と姫様をお嫁さんに貰えるって言うんだから、男としてやらない手はないでしょう」

 フンスと気合いを入れて……あっ、一番肝心なこと忘れてた!


「姫様は、その……俺じゃ嫌ですか? やっぱりただの平民、しかも貧乏農家の次男坊の嫁になんてなれないですか? それ以前に、俺のこと全然タイプじゃなくて、俺の嫁なんて嫌だって言うなら無理強いはしたくないんで、断って…………くっ……断って……く、くれて……」


 やばい、ストレスで吐きそう……!

 でも、お姉さんの救出を盾にして、嫌がる女の子を無理矢理嫁にするような、悪辣な貴族みたいな真似は絶対にしたくない。

 そのときは、潔く振られるしか……振られるしかっ…………!


「エメル、そなたの問題でもなければ、そういうことを言っているのでもない。私は――」

「俺が駄目なんじゃないんですね!? 良かった~~!」

 俺なんてタイプじゃないし、嫁になるなんて冗談じゃないなんて言われたら、ショックで寝込んでたところだよ。

「いや、だから私は――」


「そういうわけだ、あんたが言い出したことなんだからな。条件、全部クリアしたら、絶対に文句は言わせないぞ」

 あれこれ条件を付け足してきたウザい次期公爵に向かって、自信たっぷりにニヤリと笑って見せる。


「……いいだろう。このわたくし自らが、平民である貴様が王女殿下を娶るための後見人となってやろう」

「よし、言質取ったからな!」


 俄然、やる気が出てきた。

 姫様を嫁に貰うためなのはもちろん、ウザい次期公爵に目に物見せてやるためにも、完璧にこなしてやろうじゃないか。


「じゃあ姫様、時間もないことだし、早速行ってきます」

「……」

「え? 姫様?」

 踵を返して出発しようとした俺の腕を、姫様が掴んで引き留める。


「……もしも無理だと思ったら必ず退くのだ……決して死んではならぬからな」

 そんな不安そうな顔をして……ここは一発、姫様を安心させてあげないと。


「ありがとうございます姫様、でも本当に大丈夫ですよ。だって姫様に見せたあれが俺の全力ってわけじゃないですから。あの程度、ほんの軽いお遊びみたいなもんです」

「……あれほどの力を振るっておきながら、全力ではないどころか軽いお遊びだと?」

 頷いて、俺の腕を掴む姫様の手をそっと外し、ガラス戸を開け放ちテラスへと出る。


 執務室は二階にあったから、テラスも二階だ。

 姫様を始めその場の誰もが、そんな場所に出て何をするつもりなんだって訝しそうな顔を俺に向けた。

 注目を集めたこのシチュエーション、演出としてはすごく効果的でいい。

 それで姫様に超絶すごいって思って貰えて、さらに惚れて貰えたら万々歳だ。


 ってわけで、ビシッと最高に格好いいポーズで右手を突き上げる。


「顕現せよ、我が契約せし風の精霊、ロク!」


 これもまた事前の練習通り、俺の台詞を合図に、俺の頭上で緑の突風が渦巻き、突風が四方八方に飛び散ると同時に、その中から風の精霊ロクが姿を現した。


『キェェッ!』

 すでに俺より頭二つ分は高いくらいの大きさになった、その翼を大きく広げて、高く鳴くロク。


 姫様とクレアさんが驚き過ぎたのか、声も出ないって顔で茫然とロクを見る。


「なっ……!?」

 次期公爵は驚きのあまり後ずさって、反射的になのか、腰に佩いた剣の柄に手をかけていた。

 護衛として同室にいた兵士達も、報告に来ていた偵察兵も、次期公爵と似たり寄ったりで騒然となって姫様を庇う。


 そこまで驚いてくれたら、俺としても演出付きでロクをお披露目した甲斐があるってもんだ。

 宙に浮いているロクの背にひらりと飛び乗ると、姫様に最高にいい笑顔を見せる。


「じゃあ姫様行ってきます。すぐにお姉さんと会わせてあげますからね!」

 未だに声もない姫様に背を向ける。

「よし行くぞロク!」

『キェェッ!』

 一鳴きしたロクに一切の自重なしで加速させて、王都へ向かって飛ぶ。


 今日この日、俺の人生のターニングポイントになる記念すべき日になりそうだ!



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