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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第六章 反乱を起こして俺の嫁を傷つける奴は許さない

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178 侵攻の第二王女と立ちはだかる精霊 1

◆◆◆



「ふふっ、壮観ね」


 フォレート王国第二王女、シャーリーリーン・エアレディア・フォレティエートは馬上で上機嫌に笑みをこぼした。


 国境付近の砦の外、彼女の前に整列するのは九千人のエルフの兵士達だ。

 その内訳は王国軍五千人、および辺境伯領軍四千人となっている。


 王国軍からは、精鋭たる精霊魔術師部隊三千人、そしてシャーリーリーン直属の第六騎士団、通称嵐撃騎士団二千人。

 そしてシャーリーリーンの要請により急遽参戦となった、辺境伯領軍から守護騎士団一千人、精霊魔術師部隊一千人、民兵二千人。

 民兵を除く七千人の戦力は、トロルの主力部隊であるトロル騎士と互角に渡り合える力を持っていた。


 特にシャーリーリーン直属の嵐撃騎士団は、騎士として近接戦闘をこなせる上に、全員が契約精霊持ちの精霊魔術師でもある。

 さすがにその魔法は精鋭たる精霊魔術師部隊には及ばないが、平均的な精霊魔術師以上に魔法戦闘もこなせるため、取れる戦術の幅はとても広く、フォレート王国内でも屈指の戦闘力を誇っていた。


 つまり、王国軍五千人全てが契約精霊持ちの精霊魔術師であり、マイゼル王国軍の精霊魔術師部隊が、トロルとの戦争前で四百人だったことを考えると、その数の差は圧倒的である。

 それこそ、精霊魔法に長けているエルフだからこその戦力だろう。


 これら王国軍五千人だけでも、内乱で戦力が低下した現在のマイゼル王国の王都マイゼラーであれば、余裕で陥落させられるだけの力があった。


 加えて、辺境伯と言えば、他国の侵略があった場合、真っ先に敵とぶつかり国を守るために戦わなくてはならないため、生半可な実力では務まらない。


 近年、フォレート王国とマイゼル王国との国境は、親フォレート王国派のアーグラムン公爵派が押さえていたため、大きな戦いは起きたことがなく、小競り合いが幾度かあった程度だ。

 しかしそれより前は、幾度となく大きな戦いを繰り返し、マイゼル王国の国土を奪ってきた。

 また、アーグラムン公爵が代替わりすれば、今の関係を維持出来るとも限らない。

 そのため、いつでも侵略戦争を仕掛けられるように、日々の訓練を欠かすことなく、有事に備えていたのだ。


「もし(特務騎士エメル)の暗殺に失敗していたとしても、これだけの兵力があれば、さすがの彼もおいそれとは手を出せないはずよ。正面切ってやり合うことになれば、彼もその契約精霊達も無事では済まない……いいえ、殺してしまえるでしょうね」


 悦に入ったように、シャーリーリーンは傍らに浮かぶ自分の契約精霊を見つめる。


 その姿は、緑色の毛並みも美しい、狼の姿をしていた。

 その大きさは、体長一メートル以上あり、内に秘めるエネルギー量は、マイゼル王国の精鋭たる精霊魔術師の契約精霊の優に十数倍を誇る。


 そして、目の前に並ぶ兵士達の傍らにも、六千を超える契約精霊が浮いており、そのどれもが、マイゼル王国の精鋭たる精霊魔術師の契約精霊の優に十倍はあった。

 しかもその契約精霊達は、戦闘に向いている火土水および戦闘補助に向いている風の四属性で占められていた。


 これほどの軍勢を前にすれば、小国など戦わずして降伏するだろう。

 それほどに圧倒的な戦力だった。


「全軍、進軍開始」


 シャーリーリーンの号令で、フォレート王国兵九千人が、マイゼル王国へ向けて進軍を開始する。


 本来であれば、三日早く進軍する予定だったのだが、対エメル戦を想定し、予備兵として国境線に残しておくつもりだった王国軍を同行させることにし、さらに念のためと準備をさせていた辺境伯にも兵を出させたため、進発は三日遅れとなってしまっていた。


 しかしこの時代の戦争であれば、三日程度は誤差の範囲である。


 アーグラムン公爵が内通者の手引きで即日王都を陥落させたとしても、他の貴族家がどう動くかは不明だ。

 反アーグラムン公爵を掲げて貴族家が戦力をまとめる場合、今からではそれこそ数週間は掛かるだろう。


 そう考えれば、三日の遅れなどなきに等しい。

 当初の約束の三千ではなく九千に増強したのだから、反アーグラムン公爵の貴族家への強烈な牽制になって、むしろ感謝されるくらいだろう。


 これだけの恩を売れば、よりアーグラムン公爵を傀儡の王に仕立て上げることが出来ると言うものだ。


 微笑を浮かべながら、シャーリーリーンは軍を進める。


 そして、進軍開始より数時間、そろそろ国境線に差し掛かると言うところで、先行させていた偵察兵が慌てて戻って来た。


「殿下、前方より二体の精霊が空より接近してきております。一体はドラゴンの姿をした火の精霊、もう一体は翼の生えた人型の闇の精霊です。まだ距離がありますので詳細は不明ですが、かなりの大きさと精霊力を内包している様子です」


 その報告に、シャーリーリーンの微笑が消える。


 ドラゴンの姿をした火の精霊、そして翼の生えた人型の闇の精霊。

 それは、アーグラムン公爵およびマイゼル王国の王都マイゼラーにある大使館を通じて報告を受けていた、エメルの契約精霊の特徴と合致した。


「やっぱり、失敗したのね」


 そこに苛立ちはなく、ただ呆れと失望があるだけだった。

 そして兵力を三倍に増強したのはやはり正解だったと、自分の先見の明に満足する。


「その背に契約者の姿は?」


 人が契約精霊に乗って空を飛ぶ。

 その報告を初めて聞いたときは、なんの冗談かと思ったが、エメルが契約精霊に乗って空を飛び移動する姿は多数の人間に目撃されており、複数のルートからその報告を受けていたため、それを事実と認めるしかなかった。


 自分でも思い付かなかったその発想に、強い嫉妬を覚えたのは誰にも秘密である。

 そして真似をして、誰にも見られないようにこっそりと自分の契約精霊の背に乗ってみたのだが、体長一メートル程度の狼の背には乗りづらく、またせいぜいが馬車程度の速度で地上を走るのが精一杯だった。

 その走りは飛ぶように軽やかなものだったのだが、本当に空を飛ぶにはもっと契約精霊が育たなくてはならないと、さらに強い嫉妬を覚えたのである。


 しかし今、そんな感情はおくびにも出さない。


「いえ、契約者らしい姿はありませんでした。地上を馬か馬車で移動しているのではないでしょうか」

「そう……」


 ドラゴンの姿をした火の精霊に乗って空を飛ぶと報告にあったが、その背に乗らず、地上を移動する意味が分からなかった。

 考えても分からないなら、無駄に思案を巡らせるより直接会って確かめればいいと、そのまま行軍を続ける。


 そして差し掛かる国境線となる丘陵地帯。

 その最も高い丘の頂上上空に、ドラゴンの姿をした火の精霊、そして翼の生えた人型の闇の精霊の姿を認めた。


 付近にまばらに生えている木々の大きさと比較して、また精霊力の大きさを感じて、知らず緊張を覚え、気圧された自分に屈辱を覚えてギリリと奥歯を噛みしめる。

 地上二メートルくらいの高さに浮かぶ二体の精霊は、どちらからも、自分の契約精霊の優に十数倍、下手をすれば二十倍近い強大な精霊力を秘めているのを感じ取れた。


 しかも報告では六属性ではなく、フォレート王国王家にのみ伝わる伝承にわずかに伝えられる、幻と言われ、御伽噺と見なされ、誰も実在を信じていなかった二属性を含む八属性と契約し、全て同じくらいの大きさにまで育てていると言う。


「これほどの精霊をたかが人間の子供が育てただなんて……」


 シャーリーリーンにとって、自分より優れた精霊魔術師は、父親である国王陛下と、母親である第一王妃殿下、そして同腹の兄である第一王子だけだった。

 そのエルフの王族としてのプライドに大きく傷を付ける存在に、嫉妬を越えて殺意すら覚えた。


「全軍停止」


 頂上まで三十メートル程の位置まで近づいたところで、進軍を止める。

 付近にはその二体の精霊以外の姿はなく、また偵察兵の報告にも、丘陵の向こう側に潜んでいる者はいなかった。


「契約者からそれほど遠く離れて行動していると言うの……?」


 自分も契約精霊を遠く単独行動させ、情報収集を行うこともあるが、せいぜい一キロメートル程度の話だ。

 それ以上遠く離れるのは契約精霊が嫌がるのだ。


 しかし、偵察兵が目撃してからこの場まで飛んできただけでも、数キロメートル以上は離れていることになる。


 何を知っても嫉妬と殺意しか湧き上がってこないが、それを王女らしく内に隠し、表面上は何事もない顔で、二体の契約精霊を見上げた。


「あなた達は、メイワード男爵エメル・ゼイガーの契約精霊かしら?」

『ええ、その通りよ』

『グルゥ』


 たった一言の会話に、小さなどよめきが上がる。

 ドラゴンの姿をした火の精霊レドと、翼の生えた人型の闇の精霊デーモの、あまりにも自然な受け答えが、まるで人のようで精霊とは思えなかったからだ。


「あなた達の契約者はどこかしら? 私の前に姿を現さず契約精霊に相手をさせるなんて、無礼にも程があるわ」

『あら、それはご免なさい。我が主は王都よ。我が主は今忙しくて手が離せないの。だからワタシとこのレドが代理としてやってきたのよ』

『グルゥ』


 さらにどよめきが大きくなる。


 王都マイゼラーからは何十キロも離れていた。

 それなのに単独行動しているなど、とてもではないがあり得ない。


 しかし、エメルとその契約精霊に関しては、あり得ない話ばかりで、この程度でいちいち驚いて話が止まっていては、会話が進まなかった。

 だから、色々と追求したいことを飲み込んで会話を進める。


「そう。それならその無礼は後日咎めるとして。あなた達、そこを退きなさい。私の行く道を塞ぐなど許されないわ」

『あら、随分なお言葉ね。そんなあなたは、どこのどちら様かしら?』


 具体的には分かっていなくとも、おおよその予想は付いている上で揶揄するように尋ねるデーモの態度に、シャーリーリーンは苛つくが、精霊に礼儀を求めて口喧嘩など、はしたないし、みっともない真似は出来なかった。


「私はフォレート王国第二王女、シャーリーリーン・エアレディア・フォレティエートよ。分かったのなら、すぐにそこを退きなさい」

『驚いたわ、まさかフォレート王国の王女様が出てくるなんて。けれど、我が主の命で、フォレート王国の兵は誰一人として通すわけにはいかないの。そしてこれは、あなた達のためでもあるのよ』

「私達のため? どういう意味かしら?」


 王女と知ってなお退かない無礼は許しがたいが、エメルの命令はもっともだとしても、自分達のためという発言は解せなかった。


『アーグラムン公爵の反乱はすでに失敗に終わったわ。今ごろアーグラムン公爵は地下牢にでも投獄されているでしょうね』

「なんですって……!?」


 またしてもどよめきが上がる。


 諜報と戦争に自信を持つシャーリーリーンですら、今の兵力を以てしても、アーグラムン公爵領軍四万八千を相手取り、たった数日で鎮圧させるのは不可能だった。

 勝利は揺るぎないが、兵の損耗を無視したとしても、小国であろうと堅牢な王都を占領して立て籠もるそれほどの規模の大軍を相手に、そこまで迅速に事態を収拾するのは、事前になんら準備をしていない状況では容易に成し得るものではない。

 ましてや、アーグラムン公爵は無能ではないのだ。


『つまり、内乱は終わったの。あなた達の救援は間に合わなかった。それでも国境を越えると言うのなら、それは明らかな侵略行為。ワタシもレドも、あなた達を素通りさせるわけにはいかなくなるわ。その時は、王女様であろうと容赦しないから、命を賭けて頂戴ね』


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