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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第六章 反乱を起こして俺の嫁を傷つける奴は許さない

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166 王都市民の思い

◆◆



「将軍閣下、後続部隊到着しました」


 本陣の天幕で今後の対応について話し合っていると、歩兵部隊の指揮官を任せている騎士が入って来た。

 想定よりも早い到着だ。

 かなり無理をしたんだろう。


「うむ、ご苦労。まずは兵達を休ませろ。あちらさんはこちらから仕掛けない限り手を出してくるつもりはないようだ」

「はっ、それでは兵達に休息を与えます」

 一緒に付いていた副官がすぐに天幕を出て行った。


「それで状況はどのように?」

 思わず唸ってしまった俺に、尋ねてきた騎士もおおよそ状況を推察したんだろう、難しい顔を返してきた。


 膠着状態、と言えば聞こえがいいが、実際はこちらから手の出しようがない状況だ。

 歩兵隊が合流し、兵力はようやく三千強。

 対してあちらは一万二千だ。


 四倍近い兵力差がある以上、迂闊に仕掛ければこちらが全滅する。

 敵が攻勢に出てきており、地の利がこちらにあり、こちらの兵力の総数を知られていないのであれば、まだやりようはあるが。


 しかし、敵の目的は王都の防衛……いや、アーグラムン公爵がこの国の実権を掌握するまでの時間稼ぎだ。

 事がなった後、俺達に投降するよう呼びかけるだけでいい。


 大勢(たいせい)が決しては、それ以上の抵抗は(いたずら)に兵を損ない民に負担を強いるだけで無意味。

 俺達も従わざるを得ない。


 だからこそ、それまでになんとか手を打たなくてはならないのだが……。


「閣下、敵が時間稼ぎをしたいのであれば、こちらもそれに付き合って、時間稼ぎをするのはいかがでしょう?」


 王都の地図を難しい顔で睨んで何事かを思案していた参謀が、何かを思い付いたようで、あやふやな困ったような笑いを浮かべて提言してきた。

 起死回生の一手となる名案であれば、もっと輝きに満ちた力強い目と表情で提言してくるだろうが……どうやら小手先か、奇策か、あまり褒められた策ではなさそうだ。


 しかし、今は手詰まり状態だ。

 どんな案であろうが、一考の余地はある。


「言ってみろ」


 俺の許可を受けて話し出したのは……確かに、効果がどれほどのものか怪しい、あまり褒められた策ではなかった。


「なるほど……嵌まれば時間稼ぎにはもってこいですが、成功する確率が未知数で、あまりに他力本願ですな」

 聞いた他の幹部達も、誰もが苦笑を浮かべる。


「しかし、確かに一考の余地はあると、自分は愚考します」

 賛同者もいるようだ。


「ふむ……」


 正直俺は、その策の成功率はそれほど低くない……もしかしたら大きなうねりとなって、アーグラムン公爵の支配の正当性を損ない、追い詰められるかも知れないと感じた。


 いや、追い詰めるは格好付けすぎか。

 この策は、嫌がらせの類いだ。


 その場の全員が俺に注目し、俺の採決を待っている。


「……よし、その策を実行する。どのような策であろうと、今は打てるだけの手を打つべきだ。大至急人員を選出し、早速実行に移させろ」

「「「はっ!」」」



◆◆◆



 王都では、王城前を始め、(いち)が立つ広場、大通りの交差点、主要なギルドの建物の前など、多くの市民や発言力のある市民が集まる場所で、アーグラムン公爵領軍の兵士達が困惑を覚えていた。


「――しかして十数年の平和が続いたと言うが、(ひるがえ)って見れば、ただ周辺国は他国との戦争に明け暮れており、ただ我が国を放置していただけに過ぎない! それを現王家は自らの功績のように驕り高ぶり、なんら実効的な対策を打ち出さなかった! つまりそれは現王家の怠慢に他ならない! その結果は諸君も知っての通り、ガンドラルド王国の侵略を許し、王都を失陥すると言う、現王家は支配者に足る『力』をなんら持たないという馬脚を現したのである!」


 その場に集めた王都市民に対して、力強く王家を批判し、アーグラムン公爵が支配者に足ることを広く喧伝していた。

 しかし、王都市民の反応が、彼らの想定したものではなかった。


 平民など、よほど圧政や悪政を敷かない限り、誰が自分達の上で支配者として君臨しようと、無関心な場合が多い。

 さすがに王都の市民ともなれば、王家について、その人物評などは噂という形で知っているし、それなりに関心がある。


 しかしそれも、地方の平民と比べれば、という、多少の違いでしかない。

 地方の平民ともなれば、自分達の領主がどんな人物か、顔も名前も人柄も知らない事も、決して珍しくはない。

 積極的に領民と交流を持ち、善政を敷いて、領民達に慕われている領主やその家族、などと言うのは、本当に極々一部の例外である。


 だから、アーグラムン公爵領軍の兵士達は力説しながらも、王都市民がろくに関心も持たず聞き流しても仕方ない、そんなもんだろう、そう思っていたのだ。


 ところが、彼らは無関心ではなかった。

 兵士達を疎ましく……いや、敵意を抱いて睨んでいるとも言えた。

 それも、演説が進めば進むほど、その敵意は高まっているとしか思えなかった。


 何故だ?

 兵士達はそう困惑しながらも、訴え続ける。


「――アーグラムン公爵領はこの数十年で大きく発展してきた。綿花を始めとした特産品は王国内のみならず、他国へもその名が轟き、領民の生活の質は向上し、精強な領軍の献身的な働きにより、魔物や盗賊はそのことごとくが駆逐され、領民の平和な暮らしが約束されている!」


 聴衆の中には、兵士達が用意したサクラが潜んでいた。

 兵士の一部が王都市民に(ふん)して、演説で王家を批判したとき、『そうだそうだ!』『王家を許すな!』『アーグラムン公爵様万歳!』と、聴衆を煽動する役目だったのだ。


 しかし、最初こそサクラは演説に合わせて王家にヤジを飛ばし、聴衆を煽動しようとしていたのだが、聴衆のほとんどがそれに乗らなかったのだ。

 むしろヤジを飛ばすと、周囲からこいつ何を言ってるんだ、なんかこいつ怪しくないか、そんな目で見られてしまった。


 その状況でヤジを飛ばし続けたなら、サクラとバレて袋叩きにされかねず、次第に声を小さくして、萎縮し黙り込むしかなくなってしまったのである。

 それでも、兵士達は自分達の任務として、演説を続けるしかなかった。


「――我らアーグラムン公爵領軍はその総数は五万を越え、今や国内で最大の『力』を誇っている! その『力』あればこそ、我らの領地の平和は保たれてきた! そして今、アーグラムン公爵様は、『力』のない現王家ではこの国を守ることが出来ないと、無能な現王家を打倒せんがため、義憤によって立ち上がった! 諸君を守るために我らを王都へ使わし、諸君にも平和な暮らしを与えるために!」


 演説は最高潮に差し掛かっているのだが、演説に熱が入れば入るほど、聴衆の心は冷めていき、その温度差が広がるばかりだった。

 そして――


「だったらなんで王都がトロルどもに襲われた時、助けに来てくれなかったんだよ!」

「そうだ! あんたらそんなに強いってんなら、なんでトロルと戦って追い返してくれなかったんだ!?」


 ――遂に兵士達に向けてヤジが飛んだ。


「俺達を守るために駆け付けて来てくれたのはクラウレッツ公爵だって聞いたぞ!?」

「アーグラムン公爵なんて名前聞いたこともねぇ!」


 そのヤジは、やがて聴衆全体に広がっていく。


「なっ!? キサマら無礼だぞ!」

「静まれ! 静まらんか! 未だトロルどもは国境より攻めてきているのだ! だからこそキサマらを守るためにアーグラムン公爵は――!」


「だったらお前らが国境に行ってトロルどもと戦って来いよ!」

「そうだ! トロルどもが王都を我が物顔で歩いているとき、俺達を助けてくれたのは王子様と救国の英雄エメルだぞ!」

「そうよ、あたし達を守ってくれたのは、王子様と王女様と救国の英雄エメルじゃないの!」

「救国の英雄エメルは、私達を助けたご褒美に貰ったたくさんのお金を、全部王都を立て直すために寄附してくれたって聞いたわ!」


「キサマらそのようなデマを信じるな! 王家が失態を隠し、ただの人気取りに――」


「なんにもしてねぇ手前ぇらが、でかい面して王都歩いてんじゃねぇ!」

「そうだ! 無能はお前らじゃないか! 無能は王都から出て行け!」

「「「「「無能は王都から出て行け!」」」」」


「王子様万歳! 王女様万歳! 救国の英雄エメル万歳!」

「「「「「王子様万歳! 王女様万歳! 救国の英雄エメル万歳!」」」」」


 聴衆の誰がそれをしたのか。

 兵士達に向かって石が投げつけられた。


 途端に、我も我もと、手にしていた買い物籠から野菜を掴んで投げつけ、復興作業で使っていた金槌を投げつけ、手に何も持っていなかった者達はそこらの石を拾って投げつけた。


 それは瞬く間に暴動へと発展し、兵士達は自分達の身を守るために、王城へ撤退せざるを得なくなったのである。



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