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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第六章 反乱を起こして俺の嫁を傷つける奴は許さない

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146 デルイット伯爵の野心 2

 デルイット伯爵領の領都の屋敷、その応接室に、急遽呼び出された派閥の貴族家の当主達が集められていた。


 伯爵家が一つ、子爵家が二つ、男爵家が四つ。

 その伯爵家とは、派閥の領袖(りょうしゅう)デルイット伯爵家のことである。


 これらデルイット伯爵派の七つの貴族家は、第一次王都防衛戦や王都奪還は元より、第二次王都防衛戦とその見学組にも兵を出さす、近日中に始まる第三次侵攻部隊迎撃作戦における王都防衛にも兵を出していない。

 それどころか、対策会議すらボイコットして出席していなかった。


「今の王家のやりようは我慢ならん。たかが兵を出さなかっただけで、何故上納などせねばならん」

「そうだ。トロルに付け込まれたのも、王都を失陥したのも、未だ戦争に決着を付けられぬのも、どれも王家の失態ではないか」

「我々に頭を下げて兵を出して下さいと頼むのならまだしも、居丈高に命令し、それに従わぬからと金を巻き上げようなどと、傲慢にも程がある」


 スカイグが上座に置かれた横幅広い特注の一人用ソファーで、でっぷりした身体をどっしりと収めている前で、集められた貴族達は口々に王家を批判する。


 かつては、そこまで反王室派の貴族達ではなかった。

 多少不平不満はあっても、『力』を失っていく王家を軽く見るようになっても、中立派だったのだ。

 だから、スカイグが声高に王家への批判を口にすると、不敬罪や反逆罪とみなされるのを恐れて、口をつぐんだり、スカイグをたしなめる者達もいた。


 しかし、この場は密室である。

 自分達以外は誰も聞いていないし、その会話が外に漏れることはない。


 スカイグと懇意な貴族はお追従(ついしょう)を言い、やがてスカイグの歓心を買おうと自ら王家を批判し始めた。

 そうなると空気を読んで後に続く者達が出始め、最初は口先だけのご機嫌取りだったものが、次第に声高になり、批判内容もエスカレートし、その通りだと、だんだんとその気になっていってしまったのである。


 当然、このままではまずいと思った者もいた。

 しかし、一度王家批判を口にしてしまい、その現場に居合せた以上、もはや止めることも抜けることも出来ず、スカイグに従うしかなかったのである。


 こうしてデルイット伯爵派は、スカイグのもたらす甘い汁と、今更引き返せない一蓮托生の結束でまとまったのだった。


「それで伯爵、我々は今回どう動くのでしょうか?」


 兵の準備は一ヶ月半ほど前から、大急ぎで行い間に合わせていた。

 兵糧などの物資も、商人を泣かせてでも準備を終わらせている。


 それは、嫡男のブライグがエメルに追い返されてスカイグに泣きついた、その直後にデルイット伯爵から出された指示によるものだった。


「ワシらは第三次侵攻部隊迎撃作戦に参加する」


 途端にどよめきが走った。

 迎撃作戦は国境付近で張り子の英雄(・・・・・・)とグルンバルドン公爵が迎え撃ち、王都には万が一を想定し、クラウレッツ公爵派や王室派が兵を集めているとの情報が入っている。

 今更そこにノコノコと参加しようと言うのかと。


「例の降伏勧告の返答の日までもう日にちがなく、今更国境へ向かっても間に合わないでしょう」

「かといって、王都防衛に兵を出したところで、王家は我らを重用するどころか、むしろ軽く扱い、意味がないのではありませんかな?」

「王都が再び戦場になるとも思えませんし、なったところで、我らの兵数では戦況を覆せるほどの援軍にはなり得ませんが」


 口々に疑問を投げかけてくる貴族達を見回して、スカイグは嫌らしくニタリと笑う。


「ワシらが守るのは、王家の直轄地だ」


 その意味に気付いた貴族達が目を見張る。


「今あそこでは、我が国の将来を左右しかねない農政改革が行われている。しかし、現状の王家では、王都を守るのもままならず、直轄地の防衛にまで手が回らんだろう。そこでワシらが参戦し、代わりにこれを守ってやろうと言うのだ」

「おおっ、さすが伯爵」

「参戦の理由としては十分ですな」


 当然、そんなものは建前であり、この場の誰もがそれに気付いていた。

 言葉を選ばなければ、王家がトロルの対応に追われている隙に後背を突き、武力制圧して、事業そのものを接収してしまうのである。


 直轄地をそのまま支配し続けられるのならそれでよし。


 さすがのスカイグも、その建前が通るとは考えていないから、いずれ兵を引く必要があるだろうとは考えている。

 素直に兵を引けば、今の王家では咎め立て出来る程の『力』はなく、他の有力な貴族家も武力を持ち出し内紛を起こすような真似はしないだろう。


 何しろ、トロルとの戦争に決着が付くまでそのようなことにかまけている暇はないし、無駄に兵力を消耗するわけにはいかないのだ。

 そして、決着が付いてもしばらくは戦後処理でそれどころではなくなるだろう。


 つまり、兵を引く時に、事業に関わった農民、グレードの高い作物を作れる知識を与えられた関係者を全て接収し、領地へと連れ帰ってしまえばいいのだ。

 そして王家が事業を立て直す前に、自分の領地でその作物を大量生産し、その権益を独占してしまえばいい。


 当然、王家の事業の立て直しは、徹底的に妨害する。

 完璧に潰してしまうのが理想だ。


 そうして自分が力を付ければ、王家は益々自分達に逆らえなくなり、他の有力な貴族家もおいそれとは手出し出来なくなるだろう。

 そうなれば、いずれ王家は元より他の貴族家の力を凌ぎ、この国の全てを支配することも可能になるはずだ。


 そのような目算があった。


 しかし、兵を引く必要などないと、その直轄地をそのまま支配し続けられると確信を持っていた。


「なんと素晴らしい策だ」

「何手も先を読んだその知謀、恐れ入るばかりです」

「これぞ支配者の器と言うものでしょう」


 見え見えのお追従ではあるが、スカイグふんぞり返って満足そうに笑みを深める。


「それで伯爵、兵を引かず支配し続けられると確信されている、その理由を我らにもお聞かせ戴けませんか?」

「うむ、よかろう」


 お追従に上機嫌となったスカイグはその理由を語って聞かせた。


「ワシらに先立ち、アーグラムン公爵が動く」

「なんと!?」

「遂にあのアーグラムン公爵が!?」


 大きなどよめきが上がる中、スカイグは大きく頷いた。


「アーグラムン公爵が、我らと連携すると言うことですかな?」

「しかしアーグラムン公爵が動くとなれば、全てを持って行かれはしませんか?」


 マイゼル王国で今一番力を持つのがアーグラムン公爵だ。

 アーグラムン公爵が本気になれば、デルイット伯爵派の七つの貴族家が全ての力を集結させても、蹂躙されてしまうことは想像に難くない。


「あやつらの狙いは王都であり玉座だ。ワシらにはその邪魔をするなと言ってきた。その代わりに、ワシらが直轄地を制圧する邪魔はせんとな」

「なんと!?」

「そうであれば、全てを奪えましょうな」


 スカイグの確信を持つ理由は分かった。

 しかし、新たな疑問が出てくる。


「アーグラムン公爵ともあろう者が、農政改革の、あの作物の価値を理解していないとは思えませんが。油断させたところで寝首を掻かれる可能性は?」

「その危険はワシも考えたが、アーグラムン公爵も当面はワシらにかまけている暇はないはずだ」


 スカイグの読みでは、王位の簒奪など、そう簡単に事が進むとは思えなかった。

 王家に忠義を尽くすクラウレッツ公爵派や王室派、さらに王室派に鞍替えした軍部が黙って好きにさせておくわけがない。

 国を割っての内戦に発展するだろう。


 第三次侵攻部隊迎撃作戦でも、張り子の英雄(・・・・・・)とグルンバルドン公爵がどれほど善戦出来るのかは知らないが、まともに勝てるとも思えない。

 そうなれば、トロルの主力部隊の生き残りが、王都へと攻めてくる可能性が高い。

 その可能性が高い以上、アーグラムン公爵もクラウレッツ公爵も、本気で内戦に突入して兵を浪費する愚を犯すことはないだろう。


 そして第三次侵攻部隊の攻撃をしのげれば、冬がやってきて、それぞれ戦争どころではなくなり兵を引くしかない。

 春になれば、泥沼の戦いが待っているのだから。


 そうして泥沼の戦いが長引けば長引くほど、事業を接収した自分達が力を付けていけるのだ。

 その戦いがどのような幕引きを迎えるかは分からないが、その頃には自分達にはおいそれと手が出せなくなっているはずだ。


「そして力を失った主な貴族達が力を取り戻す以上の速度で力を付けていけば、もはや何者もワシらには逆らえなくなっていることだろう」

「なんと素晴らしい!」

「伯爵がこれほどの慧眼をお持ちだったとは」

「そうなれば、伯爵がこの国を支配したも同然でしょう」

「伯爵こそ王に相応しい!」

「そうだろう、そうだろう。ワハハハハハハハハ!」



 ナサイグは玄関ホールの上階よりこっそりと階下を伺い、上機嫌な父親が招集された貴族達を見送る様子を窺っていた。


 誰も彼もが浮かれて油断しているのか、自分や使用人はおろか嫡男のブライグすら遠ざけて密室で会談をしたと言うのに、その内容をベラベラと話しながら歩いている。


 断片的な内容では詳細は分からなかった。

 しかし、農政改革の事業を奪い取るために兵を動かそうとしていることは分かった。


「トロルの第三次侵攻部隊がやってくるまで日がないと言うのに、何を考えているんだあの愚物どもは……!」


 聞こえてくる話も『もし~だったら』『きっと~なるはず』『恐らく~なるだろう』などがほとんどだった。


「希望的観測……いや、都合のいい妄想だけで兵を動かそうなんて、正気の沙汰じゃない……」


 そんな杜撰な計画で兵を動かせば、絶対に失敗する。

 当主の父親と、恐らくこの後詳細を説明されるだろう嫡男の処刑は免れ得ない。


 それで次男の自分に家督が回ってくるならいいが、それこそ甘い考え、希望的観測に過ぎない。

 王家に弓を引けば、一族郎党皆殺しになる。


 ならば、採るべき手段は一つだけだ。


「あんな愚物どもの自滅に巻き込まれて死ぬなど、まっぴらごめんだ。こんな時のために、顔を繋いでおいて正解だったな」


 その日の深夜、ナサイグはこっそりと父親と兄が隠していた不正や犯罪の証拠を掻き集め、屋敷を出奔し王都へ、エメルの下へと向かったのだった。



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