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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第五章 トロルと決戦で忙しいので密偵令嬢はハーレムにいりません

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124 ご令嬢達の事情 3

◆◆



「嫌ですわ。なんでこのわたくしが、そんな真似をしなくてはなりませんの」

 浴室で、成り上がり者の平民を睥睨(へいげい)しながら、伯爵令嬢のプライドを懸けてきっぱりと拒否いたします。


「あのメリザさん、俺も自分で入れるから、手伝って貰わなくても……」

「いいえいけませんエメル様。貴族となられた以上、貴族としての振る舞いをして戴かなくてはなりません」


「この平民もそう言っているのですから、自分でさせればいいのですわ」

「口を慎みなさいサランダ。エメル様はすでに平民ではなく貴族です。そしてご主人様の入浴を介助する、それが貴方の仕事です」

「お断りですわ」


 このわたくし、ディエール伯爵家の次女、サランダ・リグダースともあろう者が、何故成り上がり者の平民の入浴を介助して、洗って磨かなくてはなりませんの。

 このわたくしの美しい手が穢れて荒れてしまいますわ。


「貴方はなんのためにエメル様の侍女になったのですか」

「好きでなったわけではありませんの」

「だったら今すぐ辞めて出て行きなさい。当然、実家のディエール伯爵家には、厳重に抗議させて戴きます」

「っ……!」


 このクソババア!

 こんなところとっとと辞めてやりたいですが、それではお父様に……何よりアーグラムン公爵に何を言われるか、分かったものではありませんわ。

 最悪、我がディエール伯爵家が潰されてしまうかも……。


「分かったなら、さっさと自らの責務を果たしなさい」

「っ……………………分かりましたわ」


「あの……そんなに嫌だったら、無理にしなくてもいいんで。それで辞めろなんて言わないし」

「お黙りなさい平民! お前ごときに同情されたくありませんわ!」

「サランダ!!」

「っ!」


 なんて……なんて迫力ですの、このクソババアは。

 あの鬼のようなお母様よりも何倍も恐ろしい女がこの世にいたなんて……。


 渋々、手に石鹸を持って、汚らしい平民の身体を洗い始めますが……。


「いたたたっ!? もうちょっと力を抜いて!?」

「煩いですわね! こんな侍女の真似などしたことないのに力加減など分かるわけありませんわ!」

 こんな屈辱的な真似をさせられるなんて……さっさと毒を飲ませて殺してやりたいですわ!


「次は前ですわ」

「前!? いや、前は自分でするから!」

「大人しくなさい!」

 でないと、クソババアに怒鳴られるのはわたくしですのよ!


「いやだから――!?」

「だから大人しく――きゃあ!? なんてモノ見せますの!?」


 パァン!!



 自室へ下がって、ベッドへと腰を下ろし、仰向けに倒れます。


 まったく、あのクソババアの口うるさいことときたら。

 たかが成り上がり者の平民を平手打ちしたからといって、なんだって言うんですの。

 それよりも……。


「ああ、嫌ですわ。まだ手に感触が残っていますわ……」

 結局、洗わされてしまいましたわ……男の、その……あんな汚らしいモノ、お父様のですら見た事がないと言うのに。


 そもそも、お父様とアーグラムン公爵が悪いのですわ。

 新しい貴族家が興ったばかり、しかも広く侍女とメイドと下働きを募集して、どこの誰とも知れない者達がひしめいて、信頼関係どころかその性格すら把握されていない今だからこそ、毒殺する絶好のチャンスだと言うのに。


 自宅で食事をしない? なんですのそれは。


 毎食王家の食卓に招かれている? なんなんですのそれは!


 雇った料理人の仕事はわたくし達の(まかな)いを作るだけ? わけが分かりませんわ!


 せっかく仕込んだ平民の料理人と給仕のメイドを用意しておきながら、毒入りの料理を食べさせる余地がないなど、お父様とアーグラムン公爵の責任と言わずして、誰の責任だと言うんですの!


 口にするのはほとんど飲み物だけの状況で、他の侍女の給仕の時に毒を混ぜて犯人に仕立て上げるだなんて、ほぼ不可能ですわ。

 それでわたくしが給仕の時にしたら、一発でわたくしが疑われるじゃありませんの!


「全く腹立たしいったらありませんわ……!」

 何が一番腹立たしいかと言えば、お父様の工作で、わたくしがあの成り上がり者の平民の入浴の介助がメインの仕事となったことですわ!


『お前はすぐに顔と態度に出るから、今はまだ詳しくは知らなくていい。まずは侍女として採用されることだけを考えろ。追って指示は出す』


 お父様のあの物言いには、色々と反論したいところもありましたが、今その話はいいでしょう。

 採用されて、我が家の息の掛かった王城の下働きから、お父様の指示が書かれた封書がこっそり届けられたのもいいでしょう。


 ですがその内容が――


『出戻ったとは言え十四歳で結婚し、六年間人妻として過ごしたのだ、男を喜ばせるテクくらい実地で覚えただろう。入浴の介助で仕掛けてその気にさせ、寝室に招かせろ。何度か抱かせてお前に溺れさせてやれば、油断もするだろう。そして機会を見て殺せ。後は裏切られたとか、弄ばれたとか、脅されたとか、泣いて痴情のもつれを演出して被害者になればいい。所詮は成り上がりの男爵だ、お前に罪は問わせん』


 ――などと懐剣まで届けさせて、このわたくしに、あんな成り上がり者の平民に抱かれろと!?

 そんな恥辱に耐えられるわけありませんでしょう!?


 しかもわたくし、その…………処女ですのよ!?


 ええ、ええ、結婚しましたとも。

 結婚生活は六年続きましたとも。


 ですが相手の男は、愛してもない女を抱きたくないと、指一本わたくしに触れてきませんでしたのよ!?


 わたくしだって、あんなうだつの上がらない不細工な男に、貴族の義務とは言え、世継ぎを産むための道具として抱かれるなどプライドが許しませんでしたわ。

 だから別にそのことはいいのですわ。


 ですがあの男は、形だけわたくしの寝室に来ては離れて寝るだけ。

 仮面夫婦は貴族の間で珍しくもありませんが、本当にわたくしは清い身体のまま。

 おかげで、わたくしは不妊症を疑われ、不妊治療までされましたとも。


 そして本命の女を側室としてそちらと世継ぎを作って、わたくしは子供を産めない身体の女として、離縁されて実家に戻されるという屈辱を味わわされましたわ。


 お父様からは責められ嘆かれましたが、本当の事など言えるわけありませんわ。

 結婚して六年、ただの一度も抱かれなかったなど、女として仮面夫婦になる価値もないのかと、口さがない連中に嘲笑(あざわら)われるに決まっていますわ。

 そんな屈辱、耐えられるわけないでしょう!?


 結局、言うも地獄、言わぬも地獄。


 実家に戻って二年、『そろそろ心の傷も癒えただろうから……』そう気を遣ってくださるのなら、何故新しい縁談ではありませんの!?

 何故こんな娼婦か密偵か分からない真似をさせますの!?

 このわたくしに、男を籠絡できるはずありませんでしょう!?


 しかもこんな年になって今更侍女になるだなんて、再婚を諦めて生涯独身で仕事に身を捧げると言っているようなものですわ!

 これでも再婚を諦めていたわけではありませんのよ!?


 だから毒殺……だからこそ毒殺で済ませて欲しかったと言うのに……!


 しかも最悪なのは、愚か者達が早速四人も仕掛けて失敗した挙げ句解雇されて、警戒が厳重になってしまったことですわ。


 そんな中、わたくしが仕掛けられるわけありませんでしょう!?

 誰か一人くらい、どうして成功させられませんでしたの!?

 こんなどこぞの貴族の息が掛かった使用人が十六人も集まっていたのですから、誰か一人くらい、暗殺を成功させられませんの!?


 あの成り上がり者の平民は、面接でわたくしを馬鹿にしましたのよ!


『うわ、すごっ……金髪ドリルツインテールにその言葉遣い、いつの時代のどこの典型的なお嬢様キャラだよ』


 意味はさっぱり分かりませんでしたが、わたくしを馬鹿にしていることだけはしっかりと伝わりましたわ。

 思い出すだけで腹立たしい!


 お父様の指示の書かれた手紙と封書を、腹立ち紛れにビリビリに破いて火を付けて燃やし、証拠隠滅してやります。


 ええ、ええ、いいですわ、他の者達が当てにならないのでしたら、わたくしがなんとかしてやりますわ。

 毒殺も娼婦の真似事も無理となれば、今すぐ他の、わたくしに絶対に嫌疑が掛からない有効な手立ては思い付きませんが……。

 いつか絶対に目に物を見せて、暗殺してやりますわ!

 その時が楽しみですわね。


「お~~っほっほっほっ!」



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