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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第五章 トロルと決戦で忙しいので密偵令嬢はハーレムにいりません

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118 精神の精霊キリ 2

 では自分はどうであるのか。


 我が君に精神の精霊と名付けられたとおり、他の属性の精霊と比べて人間の精神活動に理解が深く、常に我が君の望みを逸早く正確に把握し、周囲の人間の感情の動きに目を配っている。


 おかげで、我が君には、敵対する者達から身を守るために頼られることが多い。

 なんと誇らしいことだろうか。


 またそのような役目から、他の七体の契約精霊達からも、判断を任され頼られることがある。

 我が君の言葉を借りると、人間の思考や感情を情報として他の七体へ伝達し状況に合わせた判断と指示を下す司令塔、という立ち回りらしいのだが、ピンとはこない。


 なぜなら、自分達は属性が違い、我が君に任される役目も違うため、我が君を頂点として従う対等な存在であり、そこに優劣も上下もないからだ。


 どうやら人間も他の動物と同様に、二体以上集まると優劣や上下関係を定めずにはいられないらしい。

 その顕著な例が、我が君が貴族に列せられたことだ。


 人間の階級など、自分達精霊に言わせればなんら関心を払うべきものではなく、平民、貴族、王族など、人間が勝手に名乗っているだけであって、等しく人間という存在に他ならない。


 しかし人間にとっては、その階級による上下関係が非常に重要なようだ。


 平民という階級にあった我が君が、王族という階級にある人間の覚えがめでたく親しくしていることが、貴族という階級にある人間には面白くなく、さらに同じ貴族という階級に列せられたことで同格となったことが腹立たしいようだ。


 だから、そういう人間の我が君へ向ける感情は、非常に興味深い。


 嫉妬、羨望、隔意、興味、野心、敵愾心、敵意、悪意、害意、殺意。


 我が君に近づき、取り込み、利用したい者。

 羨み妬ましく思いながらも、関わり合いを避けて距離を取りたい者。

 自尊心と誇りが傷つき、(おとし)めたい者。

 気に入らない、許せない、邪魔だと、排除したい者。


 さらにそれら感情の強さ、理性的か感情的か、その違いでも行動に移すか移さないか、どのような行動に移すかが変わってくる。


 だから、そのような精神活動を観察し、人間を知っていくことがとても面白い。

 また、そのような人間の感情や目的を我が君に伝えたとき、我が君がどのように考え判断するのかを知ることが、何よりも楽しい。


 そう、自分は、他の人間を知り比較することで、より深く我が君を知ることに無上の喜びを覚えているのだ。


 だから、知りたいのはそのようなネガティブな感情ばかりではない。


 希望、尊敬、崇拝、敬愛、友愛、親愛、家族愛、恋愛。


 我が君の『力』に未来と自らの命運を託す者。

 我が君の精霊魔法と知識と知性に感心し、敬意を払う者。

 慈しみ、育もうとする者。

 (つがい)となり、共にあり、子孫を残したい者。


 ネガティブな感情を持つ者達の行動は幾つかの種類に集約されるが、これらポジティブな感情を持つ者達の行動は実に多様だ。


 トトス村の村人達の尊敬や敬愛と、先頃我が君の部下となった農地生産改良室の者達の尊敬や敬愛とは、同じような感情を抱いているのに、明らかに別物だ。


 またトトス村の村人達の共同体故の家族愛と、実の家族の家族愛とは、また違う。

 同じ家族愛でも、父親、母親、兄、兄嫁、妹など立場によってもまた違う。


 だからこそ、それらの感情はなお興味深い。


 そんな一層興味深い感情の中で、最近特に注目しているのが、恋愛感情だ。


 フィーナシャイア殿下の抱く我が君への恋愛感情は、恐らくは大多数の女性が抱く類いの恋愛感情だ。

 自らの命の恩人である我が君へ対し、頼り甲斐のある男性への羨望や憧れと同時に、まるで夢の中にいるような浮ついた感情となっている。


 何やら、夢のように思い描いていたシチュエーションで出会ったおかげで、恋に恋して夢心地と言えばいいだろうか。

 言い換えれば、地に足が付いていない、とも言う。


 しかし、弟のアイゼスオート殿下との関係を知り、現実に立ち返ることとなった。


 ではそれで夢から覚めて、その恋心が消えてしまうかと思えば、より強い愛という感情へと変わり大きく育っていった。

 さらに、我が君がプロポーズをして結婚が現実味を帯びたとき、しっかりと地に足が付いた恋愛感情へと変わっていった。


 嫉妬や殺意などは、強くなったり弱くなったりはしても質は変わらないというのに。

 恋愛感情はその質が時と状況の変化に合わせて変わっていく。


 なんと興味深い感情だろう。


 それに加えての、アイゼスオート殿下だ。


 性別などない精霊である自分にとっては、人間の性別の違いによるこだわりは十分に理解しきれないところだが、アイゼスオート殿下は人一倍それを気にしている。

 我が君と同じ男でありながら、女のように振る舞い、女のように男と恋をする、そのことに躊躇いを抱いて葛藤している。


 男である自分を捨て女として生きられれば、フィーナシャイア殿下と同様に、我が君への愛情を隠すことなく、躊躇うことなく、恥じることなく、向けることが出来るのにと、悩みを抱えているのだ。


 我が君はアイゼスオート殿下を、フィーナシャイア殿下同様に女性としてしか見ておらず、我が君の中では当然のように男女の恋愛として成り立っている。

 それを知っている身としては、アイゼスオート殿下が何故そこまで躊躇うのか、自らを女として割り切って我が君に愛されることを心の奥底では望みながらも、どうして選べずにいるのか、理解しがたい。


 我が君に言わせれば、その躊躇いや葛藤こそが尊いらしいのだが……。


 尊いという感情は複雑怪奇すぎて、自分にはまだ理解が及ばない。


 また、これらとは違う恋愛感情を我が君へ向ける者がいる。

 我が君の妹君のエフメラ様だ。


 実の妹という立場で家族愛を持ちながら、我が君を精霊魔法や学問の師として敬愛し、尊敬し、さらに一人の女性として、我が君を一人の男性として見て愛している。


 我が君がトトス村で暮らしていた頃は、それが日々ゆっくり育っていたが、我が君がトトス村を出て離れて暮らすようになってからは、以前に比べてより早く大きく育つようになったようだ。

 その証拠に、我が君がトトス村へと帰り再会するたびに、爆発的に膨らんでいる。


 それら愛情という感情を全て合わせるのなら、他の家族はもちろん、アイゼスオート殿下やフィーナシャイア殿下を遥かに上回るほどの強さと大きさだ。

 それほどまでに我が君を愛しているのだから、一番の番の相手はエフメラ様でいいと思うのだが……。


 やはり、番や生殖行為とは無縁の精霊であるため、兄妹で恋愛して番になり生殖行為をすることの何がいけないのか、理解出来ない。

 それを我が君に尋ねたところ、法律や遺伝子や疾患について説明された。


 しかし自分には、意味は分かったが理解出来なかった。


 法律は、自然の法則とは違う。

 人間が自分達で自分達を律するために作ったのだから、不都合があるなら自分達で変えてしまえばいい。


 そして、生殖行為に何か不都合が生じるのであれば、ユニに頼み、その不都合を生じないようにしてしまえばいい。

 我が君はユニに頼み肉体改造して、人間という種を遥かに超える強靱な肉体と運動能力を手に入れているのだから、生殖行為に不都合が生じないように自らを改造することなど今更だろう。


 そう提言したのだが、我が君は頭を抱え、その複雑な心中はより一層複雑なものとなってしまったようだ。

 あと、エフメラ様の前ではその話は絶対にするなと、口止めされた。


 よく分からないが我が君がそう言うのであれば、そうしようと思う。


 我が君はトトス村にいた頃は、家族と村人達に対して、それぞれ家族愛や友愛を抱いていた。

 それが、アイゼスオート殿下と出会い、フィーナシャイア殿下と出会い、幾つもの複雑な恋愛感情を新たに抱くようになった。


 だからこそ、自分は恋愛感情を何がなんでも理解したい。

 とにかく自分は、我が君を知り、理解したいのだ。

 どの精霊よりも、どの人間よりも、誰よりも一番我が君のことを知っていたい。


 しかし……そこに葛藤が生まれる。


 自分は精霊だ。

 精霊である以上、性別も生殖行為もない。


 それがない以上、本当の意味で我が君を知り理解することは適わないのではないか?

 どれほど精霊魔法を駆使して精神活動を読み解こうと、ユニと同時に使う我が君に禁術とされた精霊魔法を用いて記憶を読み解こうと、人間と精霊の違いで、その本質を理解することは出来ないのではないか?


 そう思うと、自分の中で精霊力が渦を巻いて落ち着かない……。


 もし自分が人間であったら、我が君を理解出来たのだろうか?



「キリ、これからまた面接があるんだ。いつも通り、相手の感情と目的を読み取って教えてくれ」


 我が君に願われ、たっぷりと精霊力が貰える。


『はっ、我が君、お任せを』


 その魔法は望むところだ。


 我が君へ敵意や害意を抱いて近づいてくる者達がいれば、我が君を守るために容赦なく排除する。

 我が君へ敬意や友愛を抱いて近づいてくる者達がいれば、我が君の味方とする。

 そして何より、我が君へ向けられる感情、我が君が向ける感情を知れば知るほど、我が君を理解していける喜びがある。


 これを繰り返していけば、精霊の自分も、いつか必ず我が君の本質を全て理解出来るようになるに違いない。

 そう信じて、今日も自分は、我が君のために自らの力を振るうのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] キリの語りに興味深さを感じます。 精霊の成長を感じると共に精神の精霊と言う難しい表現をうまく生かしているのが素晴らしいと思いました。 こう言う内面の表現って漫画やアニメだとうまく表すことが…
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