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見境なし精霊王と呼ばれた俺の成り上がりハーレム戦記 ~力が正義で弱肉強食、戦争内政なんでもこなして惚れたお姫様はみんな俺の嫁~  作者: 浦和篤樹
第一章 姫だと思ったら王子だったけどあまりにも可愛いすぎるから姫にして俺の嫁

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10 王都陥落

 トトス村から王都マイゼラーまで普通に歩くと一週間ほどかかるらしい。

 まあそれも無理もない話だよな。


 何しろ道は舗装されてないし、上り下りあるし、険しい山や深い森を避けるようにくねってるし、点在する村や町を繋いであっち行きこっち行きしてるし。

 さらに夜道や野宿は危険だから途中の村や町で泊まりながらになるから、どうしてもそのくらいかかってしまうわけだ。


 だけど俺には契約精霊がいる。

 風の精霊ロクに乗って空を飛べば、地形を無視して一直線。

 しかも前世で高速道路や新幹線、果ては飛行機の速度まで体験済みなんだから、この世界の人には想像も付かない速度で飛んでも平気なわけだ。

 って言っても、ロクはまだ自動車程度、ざっと時速五十から六十キロくらいの速度しか出せないけど。


 でもそのおかげで、昼過ぎに村を出て日が沈む頃には視界に王都マイゼラーの姿を捉えていた。



「あ~……これ、やばいな」

 王都が燃えていた。


 地平に日が沈んでいって辺りが暗くなっていくのに、王都は赤く明るかった。

 王都のあちこちから黒い煙が上がってて、城門から人々が逃げ出してる真っ最中だ。

 どうやら悪い方の予想が当たったらしい。


「ロク、王都の周りを旋回してみてくれ」

『キェェ』


 ロクが大きく翼をはためかせて王都へグングン近づいていくと、城壁の外をぐるっと旋回してくれた。

 まず目に付いたのが、大きく崩れた南門だ。

 外から内へ向けて、力尽くで壊されたってところか。


「ん? あれは……でかっ!? あれがトロルか?」

 王都南側の平原は広く戦場になったみたいで、人間や、青や緑の肌をした身の丈が人間の倍はある大きな人型生物の死体がいっぱい転がっていた。

 思わず背筋がゾクッと震える。


「ゴブリンとは全然違うんだな……人間より大きな人型生物って、それだけで本能的に恐怖だよなぁ。しかも青とか緑だし」

 進路を城壁内へ向けると、そのトロル達が小隊単位って感じの数でまとまりながら、王都内のあちこちを我が物顔で歩いていた。


 腰に布を巻いただけの蛮族スタイルで、トロルサイズの巨大な棍棒やメイス、戦斧を振りかざし、兵士と戦い、逃げ惑う市民を追いかけ、人間を殺戮して回ってる。

 その数は、ゆうに千以上……ってところか。


 すでに王城内でも戦ってて、どう見ても人間側が圧倒的に劣勢だ。

 それも無理ないって言うか、トロルの力任せの一撃で潰れるか吹っ飛んでほぼ即死。

 そんな敵相手にここまで追い詰められてちゃ、士気なんてどんだけ残ってることやらで、素人目に見ても組織的な抵抗が出来てない。


「これ、陥落したも同然だな……来るのが遅かったか」

 って言っても、最速で来てこれだから、どうしようもないけど。


「このままトロルに占領されるのを、指をくわえて見てるわけにもいかないし、遅ればせながら全力で介入するとして……」


 トロルにも一応指揮系統があるみたいだけど、指揮官はどこだ?

 今から王城に突っ込んで、王様達を助けられるのか?

 それ以前に、王族って何人いるんだ?

 よく考えれば顔と名前どころか、王家の家族構成すら知らないぞ。


「詳しい情報が欲しいな……この状況をひっくり返そうにも、勝利条件が不明じゃどっから手を付けたらいいのやら」

 トロルを虱潰しにするには手間もだけど何より時間が掛かりすぎて、仮にそれで目先の戦術的勝利を収めても、肝心な部分で手遅れになって戦略的に敗北しましたじゃ意味がない。

 しかもトロルがどんだけ強いか分からないから、万が一途中で力尽きたら逆転の目がなくなってしまう。


『でしたら我が君、あれを』

 俺の隣に、すっと姿を現した精神の精霊キリが、町の一角を指さす。


 そっちに目を向けると、四人の立派な鎧を着た騎士と、その騎士達に守られたメイド服の女の子が二人、大通りを西門の方へと走って逃げていた。

 その後方にはトロルが三匹、その六人を猛然と追いかけている。


『騎士達と背の高いメイドから、背の低いメイドを命懸けで守り絶対に逃がすと、非常に強い意志を感じます。そして背の低いメイドからは、かなり恐怖に駆られているようですが、生き延びることに強い使命感を覚えているのを感じます』

「もしかして落ち延びたお姫様か!? でかしたキリ、よく見つけた」

『我が君のお役に立てて光栄です』

 どこで覚えたのか、騎士っぽく一礼してすっと姿を消す。

 戦乙女が基本イメージだし、似合ってるので良し。


「ロク、大至急助けに行くぞ、急降下だ!」

『キェェ』



◆◆◆



「駄目だ、追い付かれる!」

「ここで足止めするぞ! 命に代えても殿下をお守りするんだ!」

「アイゼスオート殿下、振り返らず真っ直ぐ門を目指して走って下さい!」

 近衛騎士達三人が足を止め抜剣する。


「はぁ、はぁ! はぁ、はぁ!」

 侍女に(ふん)したアイゼスオートは答える余裕もなく、荒い息を吐き出しながら、もう一人の侍女に手を引かれ振り返らずにひた走りに走る。


 怖い。

 死にたくない。

 身を挺してくれた者達のためにも絶対に生き延びないと。

 この国の命運は自分に掛かっているんだから。


 恐怖で泣き叫びたいのを使命感だけで必死に堪えて、もつれそうになる足を叱咤(しった)して西門を目指し走り続ける。

 しかし、未だ門は遠い。


「ここは一歩も通さん! でやっ!! たあっ!! がふっ!?」

「おのれ! 今こそ我ら近衛騎士団の意地を――ぐあっ!!」

「人間を舐めるなトロルめが! どらぁっ!! ぎゃあぁっ!?」


 背後から次々に聞こえてくる剣戟と殴打、そして近衛騎士達の悲鳴と地に伏す音。

 三人の近衛騎士達の献身と犠牲で稼げた時間はわずかでしかなく、すぐにまた地響きを立てながら三つの足音が迫ってくる。

 侍女に手を引かれていなければ、今にも倒れて泣き出してしまいそうだった。


「殿下! 侍女殿! 危ない!」


 不意に背後から突き飛ばされて、アイゼスオートと侍女が地面に転がる。

 そのほんの一瞬後、唸りを上げて二人の頭上を棍棒が横殴りで通過していった。


「ぐあっ!?」

 それとほぼ同時に最後の近衛騎士の悲鳴が上がり、吹き飛ばされる。


 アイゼスオートが辛うじて身を起こし顔を上げると、眼前に立っていたのは三匹のトロルだった。


「ひっ……!?」

 死の恐怖に、手が震え、足が震え、涙が溢れ出してくる。

 身を挺してくれた四人の近衛騎士達は地に伏して、すでに守る者は誰もいない。

 一匹のトロルが殺戮に酔ったいやらしい笑いを浮かべて、アイゼスオートの前へ進み出てきた。


「アイゼ様、お逃げ下さい!」

 侍女はこんな状況でもアイゼスオートを庇い守ろうとするが、足が竦んでしまい動けず、手を伸ばし叫ぶことしか出来ない。


 しかしそれはアイゼスオートも同じだった。

 トロルを前に身体が竦み上がって、立ち上がるどころかもう這って逃げることすら出来なかった。


「……れか…………けて…………」

 弱者をいたぶり殺す喜びに笑い声を上げながら、高々と棍棒を振り上げるトロル。


「お願い……誰か…………」

 そして無慈悲に棍棒が振り下ろされる。


「お願いっ!! 誰か助けてーーーっ!!」





「間に合えっ! エアカッター!!」

 姿を消したロクから飛び降りながら、右手を振るい真空の刃を飛ばす。


「ギャああぁッ!?」

 切り飛ばされたトロルの右腕と棍棒が、振り降りした勢いのまま、あらぬ方へと飛んでいった。


 着地点の真下にいるそのトロルを蹴り飛ばし数メートル吹き飛ばすと、その反動を利用して勢いを殺し着地する。


「ふぅ、間一髪だった」


 青い肌で筋骨隆々のトロルが三匹。

 蹴り飛ばした一匹が切られた腕の痛みに悲鳴を上げながらも身を起こして、左右の残りの二匹が棍棒を構える。


 間近で見ると、どのトロルも顔の位置は見上げるほど高いし、体付きはガッシリしてるし、腕も太股も丸太のように太くて、腹筋も胸板も鋼みたいだ。

 そりゃあこんなんで力任せにぶん殴られたら、人間なんか騎士だろうと一発で鎧ごと叩き潰されておしまいになるよ。


「人間、ドコから現れタ!?」

「へえ、たどたどしくて聞き取りづらいけど、人間と同じ言葉を喋るのか」

 まあ、そんなことはどうでもいいか。


「どんだけ強いのかと思いきや、図体がでかいだけで虚仮威(こけおど)しもいいとこだな。警戒して慎重になったのが馬鹿みたいだ」

「何を生意気ナ! 弱っチイ人間のくせニ!」

「死ネ!」

 煽り耐性がないのか、あっさり激昂して、左右の二匹が棍棒を振り上げる。


「散々お姫様を追いかけ回して怖がらせやがって、死ぬのはお前らなんだよ。エアカッター!」

 分別した風の精霊力をロクに渡し右手を振るうと、ロクが俺のイメージ通り三発の真空の刃を飛ばして、三匹を真っ二つに両断した。

 血飛沫を上げながら上下に、左右に分かれて、あっさり地面に倒れてしばらく痙攣した後、ピクリとも動かなくなる。


「マジでこんなもんなのか……中級妖魔って言うから苦戦も覚悟で気合い入れてたのに、想像の斜め下過ぎる雑魚だな、トロルって」


 これじゃ畑を荒らす猪やゴブリンを駆除するのと変わらないぞ?

 わざわざ二十倍も精霊力を注ぎ込んだのに、四倍……いや三倍もあれば十分おつりが来そうだ。

 それどころか、正面切って殴り合っても余裕で勝てるよ、これ。

 っと、それはともかく。


「もう大丈夫ですよ」

 振り返ると、二十歳半ばくらいに見えるお姉さんの侍女も、俺より年下に見える女の子の侍女も、地面にへたり込んだまま茫然と俺を見上げていた。

 どこか怪我をして立てないのかなって思ったら、姿を消したままのユニが掠り傷程度で大丈夫ってこっそり教えてくれて、ほっと胸を撫で下ろす。


 へたり込んだままのお姫様の前にしゃがんで手を貸そうとして――


「お姫様、大丈夫でした……か!?」


 ――その顔を見た瞬間、頭の中が真っ白になってしまう。


 超可憐な美少女がそこにいた。

 夜の闇の中でも輝いて見える腰まで届く長く美しい金髪、海を思わせる深く青い瞳、薄く慎ましやかな桜色の唇。

 年の頃はエフメラと同じくらいなのか、小柄で華奢で、まるで乱暴に扱ったら折れてしまいそうな一輪の花だ。

 しかもメイド服なのに、溢れ出す気品って言うか、カリスマって言うか、オーラが全然違う!

 これが本物のお姫様……ゲームや漫画のキャラじゃない、本物のお姫様なんだ!


「すごい……格好いい……」

「……え?」

 いま、お姫様が俺のこと『格好いい』って……。


「っ!? ち、違っ、今のはそのっ……!」

 慌てふためいて俯いてしまったお姫様の顔も耳も真っ赤で、やっぱり今のって聞き間違いじゃないよな!?


 俺、女の子にそんなこと言われたの生まれて初めてだよ!

 しかもそれがこんな可愛い超可憐なお姫様にだなんて!


 やばい、なんだこの胸の奥が打ち震えるような感動は……もしかしたら俺、今このときのために転生したのかも知れない!



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