1 衝撃の事実
新作の投稿開始しました。
男の娘とのイチャラブが苦手な方はご注意下さい。
初回なので一時間ごとに三話連続投稿します。
第一話。
「義隆と柚輝の奴、最近付き合い悪過ぎじゃね?」
日曜になると用事が用事がって、サークルにも顔を出さずに二人して毎週なんの用事があるってんだよ。
せっかく『ズバッシュブラザーズ!』の新作買ったのに、ほとんど対戦してねぇし。
「はん、いいさ、今日は頼まれたって遊んでやらねぇし? 『ぷるぷるシスターズ』の発売日だし? じっくり新しい『嫁』を愛してやらねぇといけねぇし?」
雑踏の中、ゲームショップを目指して少し歩く速度を上げる。
気分がささくれ立つんで、目の前でイチャイチャ腕を組んで歩いてるカップルを視界から消し去ろうと、さらに早足になって脇を通り過ぎると、苛つく会話が聞こえてきた。
「じゃあ今日はまずホテルな。ユズユズの可愛いところ、たっぷり可愛がっちゃうぞ」
「もうヨシリンのエッチ。ホテルは最後。今日はヨシリンと見たい映画があるって言ったでしょ?」
チッ、何が『ユズユズ』だ『ヨシリン』だ『ホテル』だ! バカップル爆発しろ!
俺だって彼女欲しいよ!
エロいことしたいよ!
けどな、どんだけそう思ってたって、俺みたいな最底辺の不細工なキモデブ野郎は、相手にもされねぇんだよ!
所詮俺なんか、二次元の『嫁』を相手に一人シコシコやってるのがお似合いさ!
世の中のリア充ども全てを呪いながら、さっさと追い越して――ふと何かが引っかかって、見たくもないバカップルの顔をチラッと見る。
「……義隆!?」
よもやのまさか、見知った顔に面食らう。
道理で引っかかったわけだ、男の方の声、義隆じゃん!
「お前いつの間に彼女なんて作ったんだ!?」
「げっ、孝太郎!?」
「えっ、孝太郎!?」
なんで彼女の方まで俺の名前を?
俺を名前で呼ぶ親しい女子なんていない……ん?
彼女の顔、どこかで見たような……。
「…………もしかして柚輝か!?」
そうだ、大学祭のサークル出店で『ご主人様と始めるイチャラブ異世界生活』のコスプレ女装メイド喫茶やったとき、ウィッグ被って化粧した柚輝が確かこんな顔してた!
「柚輝逃げるぞ!」
「うん!」
「あっ!? おいちょっと待てよ!」
踵を返して脱兎のごとく走って逃げる義隆と柚輝を、慌てて追いかける。
「はぁ、はぁ……ど、どういうことなんだよ!?」
お前ら付き合ってんのか!?
しかも、ヤることヤっちゃってる!?
いつからだ!?
そういや二人が付き合い悪くなったのって大学祭が終わった頃くらいだったか!?
女装メイドで目覚めちゃったのか!?
「はぁ……はぁ……お、おい……はぁ……はぁ……ま、待てって……!」
話くらい聞かせろよ親友だろ!?
男の娘もいいよな、可愛ければありだよな!
『嫁』にツイてるのは、むしろご褒美だよな!
親友同士がってのが微妙だけど、お前らが本気なら、親友としてちゃんと祝福してやるし、協力もしてやるからさ!
「ぜぇ……はぁ…………はな、し……ぜぇ……はぁ…………!」
二人とも逃げ足速すぎだ、デブを全力で走らせんなチクショウ!
「危ない君! 今は赤信号――!」
「ぜぇ……はぁ……え?」
キキキィィィィィーーーーーッ!
ドン!
◆
「あいたたた……」
なんか変な夢を見ちゃったな……。
寝相の悪い兄ちゃんの足が、俺の頭をグイグイ押してくる。
古臭い板張の壁のあちこちにある隙間から、眩しい朝日が差し込んできていた。
むっくり起き上がって――
「――あれ?」
俺、一人っ子で兄ちゃんなんていないぞ?
って言うか、ここどこ!?
うわっ、俺、ちっちゃくね!?
「あら、エメルもう起きたのね」
「おう、早いなエメル」
エメル。
俺が呼ばれたってすぐ分かった。
途端に、すうっと二人分の俺の記憶と人格が混ざり合って一人になる。
「おはよー、おとーさん、おかーさん」
土間の台所を振り返りながら、勝手にそんな挨拶が口から出た。
台所では、お父さんがぐずる赤ちゃん、妹のエフメラを抱っこしてあやしてて、お母さんが竈の薪に火を付けながら朝飯の準備をしていた。
うん、二人ともまだ若い。前世の俺と同い年の二十歳くらい?
って言うか、若っ! お父さんもお母さんも若っ!
兄ちゃん、五歳だぞ!?
もうそんな大きな子がいるのか!?
しかも三人の子持ちって!
リア充爆は…………はさすがにないな、うん。
俺を産んでくれたお父さんとお母さんだもんな。
ともあれ、あれだ。
これ、ラノベと漫画とアニメとゲームで何百回も見た。
異世界に転生しちゃってるよ俺!
俺の名前はエメル。今は二歳でもうすぐ三歳。
丁度物心が付くタイミングだったからか、それとも寝相が悪い兄ちゃんの蹴りを頭に食らったせいか。
前世の自分、望月孝太郎、大学二年生、享年二十歳、だったのを思い出した。
義隆と柚輝を追いかけるのに必死で、赤信号に気付かずに車道に飛び出して、トラックがドン!
あれだな、絶対。
……義隆と柚輝、元気にやってるかな?
俺が死んじゃったことに、責任感じてないといいな。
あれが原因で、別れちゃったりしてないよな?
世の中、男同士でどうとか、色々煩い連中も多いけどさ。
女装して女の子の自分に目覚めたのなら、それはもう立派な女の子で、普通に男女のカップルでいいと思うぞ。
俺はこうして第二の人生始めたからさ、異境の空の下から、お前達の幸せを願ってるよ。
「な~にぼけっとしてんだよ……っと!」
ドカ!
「あいたたた……なにすんだよにーちゃん!?」
いきなり背中を蹴飛ばしやがった!
乱暴だな、この兄ちゃんは。
それとも、世の中の兄ちゃんの弟に対する扱いは、みんなこんなもんなのか?
一人っ子だった俺にはよく分かんないけど。
「あれ? いつもならビービー泣くくせに、きょうは泣かないんだな?」
そりゃあ、二十歳の大学生が、たかが五歳のガキのすることに、本気で腹を立てたり泣いたりするわけないって。
「こらバメル、エメルを苛めないの。喧嘩してないで顔を洗ってきなさい」
「は~い」
兄ちゃんの後に付いて、建て付けが悪い戸を開けて外に出る。
家のすぐ目の前に畑があった。
さらにその向こうには、異世界転生じゃ定番の中世とか近世とかの古臭い、田舎の農村って感じの風景が広がっていた。
チラホラ建ってる小さいボロ小屋と、それと大差ないうちとを見比べるに、どの家も貧乏農家って感じだ。
俺のことなんてお構いなしでさっさと歩く兄ちゃんに遅れないように小走りで付いて行って、俺達のこの村、トトス村の中央にある小さな広場の井戸までやってくる。
桶に水を汲んで、顔を洗おうと覗き込むと、水面に映った俺の顔は……。
「……ふつうだ」
特に可愛いわけでもなければ将来イケメンになりそうでもなく、かといって悲観するほど悪くない。
強いて言うなら中の上くらい?
普通にそこらにいそうな男の子の顔だ。
そして藍色がかった黒髪と紺色の瞳、日本人だった頃に比べるとやや白みがかった黄色い肌。耳が尖ったりしてることもなければ、獣っぽいパーツもない。
顔だけじゃなく身体も同じで、極々普通の人間って容姿だ。
そういえば兄ちゃんも、そんな感じ。
お父さんも、お母さんも、そんな感じ。
平々凡々。
「ぃよっし!」
「エメル、なんでいきなりガッツポーズしてんだ?」
だって普通だよ、普通!
全然不細工じゃない、普通に未来に希望が持てそうな顔だよ!
これなら彼女とか嫁とか、今度こそ三次元で期待出来るんじゃないか!?
「バメル、エメル、おはよ~」
将来の希望を抱いて顔を洗ってると、村の子供達が数人ほど集まってきた。
俺と同じくらいの子供から、八歳とか九歳くらいの子供までいる。
顔を洗ったり、水を汲んで家に運んだり、毎朝の子供達の社交場って感じだ。
しかも、チラホラと女の子もいた。
これってつまりあれだ、全員、貴重な幼馴染属性を標準装備ってことじゃないか!?
小さな狭い村で子供の数なんて限られてるし、将来はこの子達の中の誰かと付き合って、幼馴染ルートで結婚エンド、狙えるかも!?
前世はどうせ不細工でデブだからって、自分磨きとかなんにもしなかったけど……今世ではちょっと努力してみようかな?
せっかく普通レベルの男の子になれたんだし。
しかも今世は憧れの実の妹までいるし。
誰だって妹に『将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さん』って、一度くらいは言われてみたいよな?
まあ、さすがに実の妹を本気で攻略して嫁にしようとは思わないけど、妹属性も大好物だし、せっかくだから憧れのお兄ちゃんになりたいじゃないか。
うん、そうだよ、またデブらないように気を付けて、運動とか勉強とか、農村だから農作業とか、とにかくなんかそんな感じで、村の女の子にモテそうなこと色々頑張ってみよう!
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「ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします」
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