表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DARKSPHERE〜戦士たちの鎮魂歌〜  作者: 高見 燈
第1章 生き残りと幻獣と少年と
8/125

第7話 久我愁弥:『異世界へようこそ』

 ーー「なぁ? ここに一人でいるのか?」


 少し時間も経った。

 落ち着いたのか……彼は、そう口を開いたのだ。


 銀と白の縦縞模様の毛皮を、肩から掛けてくるまっている。洞窟の壁に寄りかかり、毛皮の上で座っている。


 こうして見てみるとやっぱり、デカい男だ。

 運んだ時も思ったが、なかなかいい体格をしている。


 戦士……では無さそうだが、この身体つきは近いものがある。


 何しろ服装が、それらしくない。

 胸当て一つもつけていないのだ。


 私もそうだが。


「一人じゃない。そこにいるよ。」


 私は彼の火の揺らめきで、煌めくライトブラウンの瞳を見つめた。枕元に置いてあるルシエルの黒い玉。


 それを指差した。


 すると、彼は気になったのか身体を横にしながら、黒い円球を覗いた。


「なんだ?? 寝てるな。つーか、犬っ!? にしては小さくね?」


 彼のこの“喋り方”は国の訛りなのだろうか。

 独特なイントネーションだ。


 余り聞いた事がない。


「犬じゃない。“幻獣”」

「は?? げんじゅー?? なんだって??」


 身体を起こすと直ぐにそう聞いてきた。


 会話から“状況”を把握したい。

 そんな風に見て取れる。


 

 どうせ今夜は吹雪いていて動けない。

 出るのは明日の朝だ。

 時間はたっぷりある。


 

 まるでーー、知らない世界にでも来たみたいな……驚き方だ。それに、“日本”と言う名前も気になった。

 聞いた事のない国だ。


 アルティミストは広い。

 もしかしたらあるのかもしれないが……。馴染みのない響きだ。


 

 私は肉が焼けたので、木のお皿を取る。

 里では家に住んでいたから、棚とかもあったが、ここは洞窟だ。棚なんてない。


 そこら辺に置いてあるだけだ。


 雪でちゃんと洗って使ってはいるが。


 丸い皿に骨付きの肉を置いた。

 スノーマウントの角の棒を、串代わりに使っているから、それも抜いた。


 

 私は木のお皿を彼に差し出した。


「食え。持たない。」


 彼は少し……怪訝そうな顔をしたが、お皿に手を伸ばした。肉の丸焼きを食べない民族なのか?

 男なら誰でもがっつくんだが。


「肉……。」


 と、そう言うと骨を手で掴む。


「アチ……っ!」


 と、直ぐに骨から手を離した。


 私は彼から離れると、正面に座る。


「直ぐに冷める。」


 ここは吹雪の中だ。

 気温の差で焼いた肉も直ぐに冷める。


 スノーマウントはまだいい。

 これがアイスタイガーだと硬くて食べれなくなってしまう。


「あーそう。ウマそうな匂いだな。」


 どうやら空腹だったのは間違いなさそうだ。

 彼は手をどうにかアチアチとさせつつも、齧りついた。


「お。ウマい。けど、なんの肉だ? 鶏肉みてーだな。サッパリしてる。」


 鶏肉?? スノーマウントが鶏肉だと?


 何を馬鹿な。こんな上等な肉は無いぞ。焼き立てで食うなら食用の魔物の中では、一番だ。


 それを鶏肉だと??


 私は少し……イラつきもしたが、まあ。仕方ない。


 好みとは人それぞれ。味覚も人それぞれだ。


「スノーマウントと言う獣肉だ。塩っ気が強いから味付けがいらない。燻製にするとウマい。」


 鉄の棒は火かき棒としても用意してある。

 それで、燃えカスを一点に纏める。

 私はそれをしながらそう言った。


 目の前の男は、がつがつと食べていた。

 ふむふむ。と、頷きつつ。


 どうやら気に入ったらしい。良かった。


 この雪の中を歩くとなると、肉は大切なエネルギー源だ。


「ウマい。やらけーし。」

「それは良かった。そういえば……名を聞いてなかったな。」


 なんだか、ルシエルみたいだ。

 夢中で齧りついている。


「あー……“ 久我愁弥(くがしゅうや)”。仲間には“シュウ”とか呼ばれてんな。アンタは?」


 ぺろっと親指を舐めながら、彼はそう言った。

 早い。もう平らげてしまった。

 良かった。口に合った様だ。


「久我……愁弥? 長いな。それは全てが名前なのか? それともファーストネームみたいなものか?」


 聞いた事のないパターンだ。

 ファーストネームは知っている。


 商人がこの里の出身では無かったからだ。

 彼も“クロイ•エスパーダ”と言う名前だった。

 クロイとみんな、呼んでいたが。


「ファーストネーム? ああ。“久我”ってのが名字だ。へー? てことは“外国の人”なのか? 日本人みてーに見えるけどな。その眼はちょっといねーけど。」


 彼は地面に皿を置いた。

 骨の乗った皿だ。


 みょうじ??


 なんだ? 日本人?? 

 ああ。そうか。この“愁弥”とやらの国の人間の事を言うのか。


 やはり異国人だったか。

 どうしてこんな“辺境の地”なんかに……。


「私は……“瑠火”だ。」


 そう言った時だった。


「ルカ……? なんだって? ルカって言ったか?」


 なんだ? とても驚いているみたいだが……。


「ああ。瑠火だ。」


 私がそう言うと……愁弥は身体を前のめりにしていた。

 とても必死な顔をして言ったのだ。


「それなら知ってるよな? なんで俺はここにいんだ? あの親父と知り合いか?」


 そう言ったのだ。


「……何の話? ちょっとわからないな。」

「ふざけんな! 俺はお前を頼むとか言われて、気がついたらここにいたんだ! なぁ? 知ってんだろ? 戻る方法は?」 


 愁弥のその必死な訴え。

 私はその顔を見ると……どうにも嘘をついているように、思えなかった。


 それに、彼は酷く興奮している。


「何があったのか……話をして貰える?」


 彼は……そう言うとぽつり、ぽつり。と、話を始めた。


 

 彼……久我 愁弥の話を纏めると。


 『東京都と言う所に住んでいる高校生とやらで、仲間と遊んで帰る途中で、立ち寄った“お店”でネックレスを買った。それを着けたら、光に包まれて気がついたらここにいた。』


 私は話の途中で、そのネックレスとやらを見せて貰った。


「その店主が、私の名前を?」


 とても綺麗なネックレスだ。

 金色の獅子を象ったものだ。

 繊細に作られている。鬣が一本……一本ていねいに、彫られていた。それに、この獅子の目も紅い石が使われている。


 裏側も獅子の横顔だ。

 裏表巧妙に作られていた。


「ああ。“ルカを頼む”。って言ってたな。それに俺の名前を知ってたんだ。」


 愁弥は、さっきまでの困惑した様子ではなくなっていた。この人の“眼”は、不思議だ。

 とても強い光を持っている。


 “心が強い”のだろう。


「その男の人に心当たりは?」

「ねーよ。言っただろ。たまたま寄ったんだ。」


 落ち着きを取り戻した彼は、リラックスしているようにも見えた。


「このネックレスは興味がある。凄く繊細で細やかな作りだ。こんな“手の込んだ装飾”をするのは、”土職人(ドワーフ)“しか思い浮かばない。」


 私は愁弥にネックレスを差し出した。

 彼は受け取りながら


「すげーよな。裏側までちゃんと彫ってあるもんな。表裏一体で顔になってんだ。これで千円は安い。」


 まるで子供の様な顔をして、嬉しそうに言ったのだ。


「せんえん? それは“価値”か?」

「ああ。金額だ。金の事だ。瑠火も金は使うだろ?」


 なるほど。愁弥の“とーきょう”と言う国の通貨のことか。“クレム”じゃないのか。

 “エン”……と言ったな。


 エンが通貨になるのか。

 何処にあるんだ? その国は。


「アレだな。“異世界”へようこそだな。」


 ルシエルーー、の声だった。

 奇妙な事を言ったのは。


「起きてたのか?」

「そんだけ騒いでれば、起きるだろ。」


 寝ているとばかり思っていた。

 どうやら目を覚ましたらしい。


「異世界?」


 聞いたのは愁弥だ。


「ああ。お前の話を聞いていたら……どうにも、この“アルティミスト”じゃなさそうだ。そのこーこーせい。とやらも、トウキョーと言うのも、聞いたことがない。」


 ルシエルは黒い檻篭の中から、話をしている。


「日本。なんて国もここにはない。俺様はこれでもこの世界を、隅から隅まで知っている。長い時を生きてきてるしな。」


 ルシエルの紫の眼は、愁弥の事を見ていた。

 聞きながら愁弥の顔が、どんどん暗く沈んでゆくのを感じていた。


 

 彼は……コチラに来てしまった。

 そう言う事になるのだろうか。


 

 吹雪は洞窟の向こう側で、まるで泣いている様に舞っていた。


 


 


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ