奥手男子と訳あり女子のアオハル物語
夏の匂いがしてきたら衣替えの季節だ。
お気に入りの自転車を漕ぎながら僕はそんな事を思った。
まだ6月に入ったばかりだというのに少し動くと汗が滲んでくる。
容赦のない陽射しを浴びて更に汗を掻いているのをリュックを背負っている背中が語っている。
色々語ってしまったが、汗をかこうがなんだろうが僕はこの学校までの片道約三十分の道のりが好きだ。
好きな音楽を聴きながら自転車で街中を駆け抜ける。
憂鬱な一日の些細な幸せだ。
しかし最近はそれ以上に気になる事がある。
僕の家から学校までの中間くらいの位置にあるバス停で毎朝読書をしている女の子。
一目見た時から気になってしまっていた。
毎朝見かけるのでいくつか分かった事がある。
僕の通っている高校の制服を着ている事から同高という事。毎朝違う本を読んでいる事からかなりの読書好きだという事。
まだこれくらいしか彼女の情報がないにも関わらず学校で探してみたりもしたが見つからなかった。
「その子可愛いの?」
放課後に友達からそう聞かれた。
「大衆受けするビジュアルではないと思う…。」
人の容姿をどうこう言うのは良くない事は分かっていたがこう答えてしまった。
友達はいわゆるリア充で彼女がいなかった期間が無いんじゃないかと思うほどのキラキラした生活を送っている。
対照的に僕は生まれてこのかた十七年間まともに恋愛をした事がない。
そんな僕が女の子の話をしているものなら食いつかないはずがない。
直ぐに探しに行こうと提案してきたが学年すら分からないので却下した。
「それなら明日の朝、俺がお前と一緒に登校するからその時に見つけたらその子に声かけようぜ。」
流石の行動力だなぁと、今まで声をかける事すら考えていなかった自分が恥ずかしく思えてきた。
「とりあえず部活終わったらマックで作戦会議な!」
友達はそう言い残して部活に行っていった。
時計を見ると16時。
「やばい!!」
僕も急いで部活に向かった。