それぞれの解決
オトは、思念を受け取っても、気にすることはなかった。
「大方そんなことなのは分かっていたさ。それこそが、兄さんが追い詰められた時の真の必殺技だからね。
これで、私は何度兄さんにごまかされ、見たくもないコンプレックスを見せられ、苦汁をなめさせられてきたことか。
でも、だからこそ、これがイメージに過ぎないとしても、そこに兄さんがいることは感じ取れる。
そして、だからこそ、私は、やめないぞ」
オトの刃が、遂に男に当たる。
男は霧散し、視界も元の宇宙に戻る。
そして、確かに目の前に兄のフィンがいるのを見て、オトは、更に攻撃を重ねていく。
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レイは、その思念を受け取って、ふと刃をしまう。
「つまり、これは、私の邪推で成り立っているサラのイメージ、ということね。だとしたら、見にくいのは、サラではなく、この私。
さあ、あなた。私を煮るなり焼くなり、好きにしなさい。
あなたは、私の内面。私は、それを受け止めて見せるわ。
そして、もう一度、サラ、それにサラシャたちを、全ての邪推を受け止めたうえで、信じて見せるわ」
レイが、両手を広げる。
すると、黒髪の少女もまた、魔剣をしまう。
「ようやく、気付いたのね。後は、あなたに任せる。
あなたには、ちょっとずれたサラやサラシャたちにはない、常識がある。
二番手でも、副ヒロインでも、あなたは、縁の下の力持ちなのよ。
だから、自信をもって、行くといいわ。私も、あなたを支えるから…」
黒髪の少女は、光となり、レイの胸に吸い込まれていく。
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ゴーティマも、その思念が流れ込んだことで、真実に気付く。
「そうか。私自身の不安だな、お主は。乗り越えることはできない、今は、まだ。
だが、できる、試みることは、克服を。自覚することで、お主を」
少年は、微笑む。
「分かってくれたんだね。それなら、僕の役目はここまでだ。僕とともに、進むべきところへ進むがよい」
少年は、光となって、ゴーティマの胸に吸い込まれる。
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ラウラもその思念を確かに受け取ってはいた。
が、彼女は、男に向けた刃をしまおうとはしない。
「仮にあなたが私の精神世界の中の存在だとしても、あなたを許すことはできないわ。
あなたは、私に言ってはならないことを言い過ぎたから」
しかし、外界でも同士討ちとして戦っていたという思念の情報を受け取ってはいたので、その戦いをコントロールし、精神世界の中のみにとどまる状態に調整する。
「これで、思う存分に戦えるわ。魔黒球」
男の魔力を吸い取る球体が発せられる。
ラウラは、言う。
「あなたが私の一部である以上、あなたには、魔宙隔離のような強力な技は使えないはずよ。それに、私の行動には、見方次第では暗い側面もあるかもしれないけど、それを理由に自傷行為することは、ただの自己満足でしかない。
だから、あなたには消えてもらうわ」
男は、魔力を吸い取られながら、笑う。
「消し去ることも一つの乗り越え方だが、そのやり方では、いつかまた出会うことになるであろう。ひとまず今は、さらばだ」
男の姿が、消えていく。
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レイ、ゴーティマ、ラウラは、こうして、ほぼ時を同じくして、現実世界に戻ってきた。
『戻ったのね』
『しかり』
『リンの流してくれたヒントのお陰ね。そのリンは、何やらサラシャちゃんたちと仲良くやってるみたいだけど』
ラウラが見ている方向を、レイとゴーティマも見る。
そこには、じゃれ合うサラシャとサラシャフォー、そしてそれを見つめながら、つい笑みがこぼれているリンがいる。
『マスター、フォーって、本当にかわいくていい子なんですよ』
『サラシャ様、おやめください。マスターの心はサラシャ様に向くべきなのですから、私などここにいるのも恥ずかしい限りです』
『君たちは、確かに可愛らしいんだね。でも、今はまだ、サラのことを想っていたいかな』
リンが、サラの形見のラフートをそっと撫でる。
『さすがですね、マスター』
『か、可愛らしくなんかありません。私なんて…』
レイが、ふと思う。
『サラシャはいいとして、フォーってあんな感じだったかしら』
その思念が、サラシャフォーに漏れ聞こえる。
『ああ、もう、サラシャ様のせいで、万年副ヒロインのレイ・ストーミーさんにまで言われちゃったじゃないですか』
『うふふ。いいじゃないですか。どんなに嫌味なことを言っても、本当はあなたは優しい子なのですから』
『…』
サラシャの前で赤面するサラシャフォーを見て、レイは、彼女も案外悪い子ではないのかもしれない、と思うのだった。
(毎回万年副ヒロイン呼ばわりするのだけは、やめて欲しいけどね)
だが、その時。リンの顔が急に引き締まるのが、目に入った。





