魔剣は飛び道具としても使えるのだ?
昼食を終え、再びさっきの砂地に戻ったリンたち三人。
今回は、何やら筒のようなものを持っている。
「魔剣は、マハクがまだ数多く活躍していた頃の、マハク使いの主力兵器だ。マコク使いも同じようなものを武器として使うというがね。
この筒の中に、魔結晶のレンズが入っている。そのレンズに向けて魔力の流れをかき集めると…」
ヴン、と音を立てて、青黒い刃が、ベンの持っている筒から生えた。
「こんな風に、剣として使えるようになる。
私も実戦で使ったことはないから、これは言い伝えでしかないが、通常兵器は殆ど無力化できるうえに、うまくやれば魔銃弾ですら弾き返せるという。
こう見えて、古のマハク使いの技術の結晶にして、中々洗練された武器なのだ。
尤も、最強クラスのマハク使いやマコク使いは、もはやこの剣に頼らずとも戦えるほど自在に魔力の流れを扱える、と言われているけどね」
レイが試してみる。青黒い刃は、こともなく生え出てきた。
「なるほど。流す魔力の勢いによって、刃の長さは変わるみたいね。こうやってもう少し勢いを上げると…」
刃は、レイの言う通り、更に伸びた。
「それはすごいな。なら、こういう使い方をすれば…」
リンはそう言って、筒を空中に浮かせた状態で刃を生えさせた。
そして、その刃を10メートル先ぐらいの砂地まで伸ばして…。
ジュッ。
砂が焼けるのを見て、言った。
「飛び道具にもなるわけだ。
複数の魔剣を同時利用すれば、魔空戦闘機を取り巻く自動攻撃型ドローンのように使いこなすこともできそうですね。
今の私なら、3本ぐらいまでなら安全に運用できそうです。やらせていただけますか、ベンさん?」
「フッ…。またすごいものを見てしまったようだ。
あんな使い方、大英雄アマカケをはじめとする、歴史上でも数名の高名なマハク使いしかできなかったと言われているのに、それを、こんなにあっという間に習得してしまうとは…。
魔剣3本を使った剣技など、見てみたいところではあるが、リンよ、ストックがない。
レイの訓練にも回さねばならぬし、やりたければ、もう何本か魔剣を調達してもらう必要があるな」
「魔剣が欲しいというだけなら、何とかできますよ。今、この場で」
そう言って、リンは目を閉じた。
すると、空気中の魔力が結晶化して、魔結晶が生成される。
そして、その周りを、砂粒の渦が覆う。砂粒は、ドロドロに溶けて、不純物は地面に落ちてこれを焦がし、残った部分が、魔剣の筒を構成する。
そして、筒は一気に冷却され、更に圧縮されることでしっかりと固まり…。
わずか1分足らずで、一振りの魔剣が出来上がった。
それを試すかのように、リンは魔剣を手に取り、刃を出した。
美しい青黒い刃が生えてきた。
「…ほらね、ベンさん?レイも、その気になればできるでしょ?」
レイは、目の前の光景に驚きながらも、何となくできそうだと思ったので、コクリ、と頷いた。
一方のベンは、何か途方もない世界の真理を悟ってしまった隠者の目をしていた。
「…言い伝えにしかないレベルだよ。少なくとも、私にはできないというのに、君たちが二人ともできるというのであれば、もう私の出る幕はないかもしれないね。
既に適量の金属の塊があるならまだしも、不純物がいろいろ混じっている砂から、一振りの魔剣を取り出すなど、そんなに簡単なはずはないのだが…」
「まあ、さっきの魔車の改造よりはちょっと大変でしたね。でも、初めてですので、魔剣としての質がどれほどかは分かりません。
一度、見ていただけますか?」
そして、ベンはリンが生成した魔剣を手に取り、またも驚く。
「私の知る限り、最高品質だ。この地のマハク使いに代々受け継がれてきている、今私が持っているこの秘剣以上といって良いな」
一連の話を聞いていたレイは、何を思ったのか、
「私もやります!見ていてください、ベンさん」
と言って、自身も魔剣生成を始めた。
…そして、危ういところもなく、彼女も成功した。
「私のは、どうですか?」
ベンは、それを手に取り、
「…やはり、君も天才のようだね。リンのにはわずかに及ばないが、それでも私のこの秘剣をあっさり超えてしまったようだ。
君たちは、どうやら世界から直に学んでいるように見える。そうなると、所詮は師匠からの聞き伝手の知識しかない私が教えることは、もう何もなさそうだ。
リン、レイ。君たちは、もう立派なマハク使いだ」
と言った。
それを聞いて、リンは喜びを浮かべたが、レイはやや複雑な面持ちだった。
究めれば、魔剣の高速生成と刃の長距離高速放射を組み合わせて、魔剣マシンガンなんかもできるかもしれません。
理論上は、搭載限界がないので…。
さすがに、今のリンにその力があるとは思えませんが…。