サラシャフォーの深層
レイには悪いんだけど、この子、思わぬ魅力を持っていたので長めになってしまいました。
2600字ちょっとです。
サラシャフォーは、何もない宇宙空間を漂っていた。
目を開けると、その前には、三人の少女。
顔は見えないが、そのまるで三つ子のようにそろったシルエットに、彼女は思い当たる。
「サラシャ様に、ツー、そして、スリーですか?」
宇宙空間なのに音声が発せられる不思議に気付かず、彼女は声を漏らす。
真ん中の少女が、答える。
「あなたがそう思う私、そして、私達です」
サラシャフォーは、その返答に違和感を覚えて、言う。
「『あなたがそう思う』、ですか。どうやら、また何か面倒なことを、作者が私に押し付けたようですね。
状況を推測するのに、時空の声を聞き取ろうかと思ったのですが、ここではどうも感度が悪いようです。
大方ここは、私の元々いた世界とは別の世界ということなのでしょう。
それなら、あなたたち三人を相手に、思う存分、これまでの鬱憤を晴らすこともできますね。
サラシャ様のマスターの気配が感じられないこの世界、ここでなら、後の穴埋めは、私が複製体を作り直せばいくらでもできますから」
そして、サラシャフォーは、問答無用で魔剣を起動する。
「まずは、サラシャ様。あなたから言わせてもらいますね。
あなたが完璧すぎるせいで、私は、いつまで経っても一番になれないのです。私は、あなたのことが憎いです。
別にサラシャ様のマスターには興味はありませんが、私が一番でないことは、全く気に入りません」
サラシャフォーの魔剣が、真ん中の少女に迫る。
しかし、彼女に刃が届く前に、彼女は消えてしまう。
「ちっ、避けられましたか。
それなら、ツー、あなたにも言わせてもらいますわ。
あなたのようなナルシシストが、私たちサラシャ軍団の二番手だなんて、気に入りませんわ。もちろん、実力的には、私の方が上ですから、今ここであなたを倒してしまえばいいのですけどね。魔宙攪乱」
サラシャツーということにされた右側の少女は、ここで初めて言葉を口にする。
「こんなに美しい私ですから、ごちゃごちゃにされても、きっと美しいことでしょう。お好きにどうぞ」
そして、彼女は、無抵抗のまま、あらぬ位置に体の各所をかき回されたにもかかわらず、血の一滴すら流すことなく、フッと消えてしまった。
サラシャフォーは、笑みを浮かべる。
「うふふ。やはり、ツーはその程度でしたか。
最後は、スリーですね。あなたは、何でも雑過ぎるんです。力任せで、私達に必要な気品と美しさのかけらもない。
あなたにも、いなくなってもらうとしましょうか」
サラシャスリーにされた残った一人は、答える。
「死ぬのは嫌ですね。ここが異世界なら、私が元の世界に戻ればいいことですから。異世界転移」
「え?」
サラシャフォーが戸惑っている間に、彼女は、フッと消えて、どこかに行ってしまう。
「逃げるにしても、やっぱりやり方が雑過ぎなんですよ。ですが、逃げたところで追うだけです。異世界て…」
言いかけて、ふと、背後から優しく手を握られるのを感じる。
振り向くと、最初にどこかに逃げたはずの、最初の少女がいた。
「そう。サラシャフォーは、周りの欠点の分まで補うべく、頑張ろうとしていたのですね。
よく頑張りましたね。でも、無理はする必要はないんですよ。
頑張りが空回りすれば、自身の喪失にもつながり、その焦燥から、レイを含む他の人に嫌味を言い垂れることにすらなるのです」
サラシャフォーは、握られた手に伝わるぬくもりに動揺しつつも、返す。
「サラシャ様のような完璧すぎて私達の自信を奪う人に言われても、困ります。あなたが、完璧すぎるから、私は、あなたを越えられないで、いつでも悔しい思いをしてきたのです。
ツーやスリーには勝てます。彼女たちが、たとえ番号こそ私より若くても、私はあなたを目指して頑張ってきたので、勝てます。
ですが、あなたにはどうしても勝てそうに思えません。だから、自信なんて、持ちようがないじゃないですか?」
「うふふ。自信を持っていいと思いますよ。マスターの理想の女性として創造された私と異なり、私は、全ての複製体達に、私にはない魅力が生まれるように願って、あなたたちを生み出しました。
だから、ツーにも、スリーにも個性があるのです。そして、あなたにも。
あなたは、根っこが優しい頑張り屋さんなんですね。だから、自分より番号が若い二人の欠点を補おうと、やっぱり頑張り過ぎてきたのです。
でも、無理はしなくていいんですよ」
そして、サラシャということにされた少女は、サラシャフォーを抱きしめる。
有無を言わせぬ抱擁に、サラシャフォーは、最後の抵抗を試みる。
「あなたの、そういう完璧すぎるところが嫌いなのです。サラシャ様」
少女は、優しく笑って返す。
「うふふ。でも、時空の声を聞けば、あなたには思わぬ可能性があることに気付けるんじゃないかしら?
理想の女性として描かれる、隙のない私よりも、その私を目標にしながら、そして他の仲間の欠点を想いながら、頑張るあなたの方が、読者の心はつかめているかもしれないのですよ?」
思わぬ可能性を見せられて、サラシャフォーは、遂に、抵抗を諦める。
涙が、彼女の頬を伝う。
「私は、私のままで、私ができることをやれば、それでいいのですね」
「そうですよ。完璧でないことも、立派な魅力なのですから」
サラシャフォーを抱きしめる少女は、そして、一息ついて、言った。
「もう、あなたなら大丈夫でしょうね。後は、元の世界でやるべきことを見失わないでください」
そして、彼女は、光へと変わり、サラシャフォーの胸に吸い込まれていく。
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そして、気付いたら、彼女は、元の世界で、同士討ちをしようとしていた。
サラシャの複製体の一人と、魔力の速さに近い速さで、超高速戦闘を繰り広げていた。
『まさか、こんなことになっていたとは、思いませんでした。一度退かねばなりませんね。転移』
そして、彼女は、この戦場で唯一戦っていない二人の元へと転移した。
『サラシャ様、それに、サラシャ様のマスターではありませんか…』
そのまま彼女は、無性にそうしたくなって、サラシャに抱き着く。涙があふれる。
『サラシャ様、今までごめんなさい。ごめんなさい…』
サラシャは、穏やかな笑みを浮かべて、言った。
『よしよし。今まで、よく頑張りましたね。もう、大丈夫ですよ』
『でも、やっぱりサラシャ様は完璧すぎなんですよ…。それでも、私には、私の魅力があって、いいのですね?』
『ええ。何しろあなたは、自分自身との戦いに勝ったのですから、それは誇っていいことですよ』
サラシャの胸元に顔を埋めていたフォーの口元が、微かに上がった。
曲がりなりにもサラシャの複製体なので、早いところで自力帰還に成功しています。
今回とサラシャの場合とを比較すると、色々考察し甲斐があるかも。





