降伏するオトと苦しむフィン
工業惑星タヨトを擁するザオキカ星系の、つい先ほどまで戦場だった宙域。
魔装機兵を無力化したサラシャの力に、オトは恐れを感じる。
それでも、真魔宙皇国の魔皇を名乗る人間としての教示から、まだ抵抗を試みる。
『確かに、魔装機兵は無力化されたかもしれない。
だが、フィンがやったのと同じ攻撃、サン・キラーによる遠隔攻撃を行えば、お前たちの本拠地であるタイヨウ系を滅ぼすこともできよう。
いくつかのサン・キラーは、私の手元に残っているのでな。
さて、どうするかね?』
尋ねられたサラシャは、またもやにっこりと笑って、返す。
『あなたにそんな力があるとお思いですか?
レイとゴーティマは、マスターの命令に反して戦場に行ってしまったようですが、それでも、タイヨウ系に残されている戦力は、サン・キラーの攻撃ぐらい跳ね返せますよ。
残っているのは、私の、可愛い複製体達ですから』
そして、更に続ける。
『それに、魔装機兵が無力化されたサン・キラーは、今非常に無防備になっています。
もしも別動隊が動いているとしたら、今頃どれぐらい残っているでしょうね』
(バーで似合いもしないミルクなんか啜って、呑気に恋愛の余韻に浸っている暇があったら、さっさと動いて欲しいものです)
オトは返す。
『それこそハッタリだろ?サン・キラーを破壊できるほどのマハク・マコク使いがいれば、私が感知できないはずはないからね』
『サン・キラーを破壊するのは、何もサン・キラーだけではありませんよ。それに、内部には、魔装機兵しか乗っていないのですから、通常の攻撃で破壊しても、強い魔力は発生しませんしね』
『乗っ取ったとでも?』
『どうでしょうね』
サラシャの問いを前に、オトは沈黙する。
そこで、サラシャが続ける。
『しかし、そんなことはどうでもいいことです。私やその複製体よりは弱いレイやラウラ、ゴーティマたちでさえ、フィンが保有するサン・キラーを次々と破壊していること、あなたも感じ取れるでしょう?
つまり、そういうことです』
『いつでも壊せるうえに、戦力にはならない、というのか。
ダハハハ、皇国最強の兵器に対して、随分な言いようだな。
だが、今はそれよりも気になることがある。
ラウラと言ったな。
あの、アマノガワ魔帝ラウラ・アマラージャが寝返ったのか?』
『ええ。フィンに襲われたから、とかいう理由でしたね』
オトは、少し目をつぶって考えてから、覚悟を決めたように念じた。
『そうか。ラウラが寝返ったか。
皇国の他の皇族も既に合流しているのであれば、問題はなかろう。
よろしい。この私、オト・ラーシャと、真魔宙皇国は、以後新連邦共和国の加盟国として活動することとする』
サラシャは、それを受けて、返す。
『それでは、一緒に参りましょうか。最後の戦場、メガリオーニへ』
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そのメガリオーニ星系の、ある宙域。
リンは、フィンに対して、一方的に、しかし、死なせない程度に、攻める。
『サラシャの複製体たちの動きを見るに、慎重にやらないと死んでしまうようだからな。
サラの気持ちが分かるまでは、君にはまだ死んでもらっては困る。ちゃんと、回復魔法もかけてあげるから、安心してほしい。
ただ、それでも、攻撃手段が限られるなあ…。
とりあえず、魔剣でいたぶってあげよう。剣の筋を、見せてもらおうか』
そして、リンは、20本ほど魔剣を起動する。
『もっと起動してもいいけど、複製体同士の戦いぶりを見る限り、これだけあれば十分だろう。かかってくるがよい』
言われて、恐怖に歪んでいたフィンの顔が、邪悪な笑顔に変わる。
『フハハハ。この私をなめてかかったことが、お前の終わりとなる。魔剣転移』
リンの背後に、フィンの魔剣の赤白い刃が突き立てられる。
だが、リンは動じない。
『その程度か?』
フィンは、動揺する。
『効かないだと?』
『当たり前だ。むしろどうして効くと思った』
『不意打ちだから…』
『そんなこともあろうかと思って、常時結界で自分自身を覆っているさ。魔宙隔離などとは違って、必要なものを世界から受け取ることもできるし。
というか、フィン、君だってこれぐらいの防御はやってるじゃないか』
『ウッ、確かにそうだな…』
『あの時の仮死状態のサラとは相手が違うということを、存分に思い知るがよい。魔剣浸食』
すると、フィンの魔剣がその意思に反して浮遊し、フィンに向けて青黒い刃を放つ。
『あ、でも、こっちの方が気味が悪いかな?』
リンがそう念ずるなり、それらの刃の色は、次々と赤白く変わっていく。
『私は、マコクの力も身につけたのでね』
そして、サラの形見のラフートを、手に取り、口に加える。
『一曲奏でながら、君には、彼女の苦しみを味わってもらうとしようか』
赤白い刃が、フィンの表面を次々にかすめ、ちょっとしたかすり傷を多数つけていく。
フィンの表情が、今度は苦痛に歪む。
いよいよクライマックスに近づいています。





