嫌味なサラシャフォー/ヒュリーゼにて
一方、リンと共に転移してきたサラシャの複製体達の一人、サラシャフォーは、全体に対して念ずる。
『どこかのおバカが、サラシャ様や私達は、範囲攻撃しかできない無能だとか言い出すのも面倒ですから、ここは、個人戦で参りましょう。
これだけの数、たまには生かしなさいとは、読者としての作者の至上命令です。サラシャ様の命令は勝つことだけですから、それには反さないようにしつつ、やるとしましょうか』
『『了解』』
ところが、その思念をたまたま拾ったレイが、念を挟む。
『何で異世界からの声がそんな命令を出すのよ?というか、何でこの戦いの中で、それに従うのよ?』
サラシャフォーは、その念を拾って、ゆっくりとレイがいる方角へと振り向くと、返す。
『さあ、そういうシーンもあった方が、絵になるから、でしょうかね?
ついでに言いますと、これは異世界の声ではありません。マルチバース級の力すらない万年副ヒロインのレイ・ストーミーさんでも使えるような安っぽいものでは、決してありません。これは、それ以上の性能を誇る、時空の声です。
どうやら、異世界の時間軸を通じて、私達の世界においては少しばかり未来に起こるはずの情報が、私の中に流れてきているらしいですね。
例えば、まだ戦っているはずのサラシャツーが、フィンの複製体達の周りの部分だけ時間を超加速させて勝つシーンなどは、はっきりと頭に浮かびます。
あんな風にナルシシストじゃなければ、番号通りにサラシャ様に次ぐ存在になれたのに、その辺は、まだまだ私の方が格上のようですね』
『なんかすごく嫌味に聞こえるのは、気のせいかしら?』
『あ、ご安心ください。サラシャ様のマスターには、私からは手を出すことはありませんから。彼は、サラシャ様のものですから。サラ・ラーシャでもなく、サラシャフォーでもなく、もちろん、万年副ヒロインのレイ・ストーミーさんのものでもなく』
『つくづく嫌味なのね。サラみたいに良い子だったら良かったのに』
『万年副ヒロインだけあって、見る目がないですね』
『そういうあなたは、サラシャの複製体の一人、モブでしかないじゃないの』
『作者は、あなたのことに言及しても、私については一言も触れていませんから』
『どうせ私は万年副ヒロインの万年二番手よ。でも、あなたは四番手じゃないの。フォーなんだから』
『大雑把すぎるスリーと、ナルシシストのツーにはまず負けませんから、実質二番手ですよ』
ここで、レイが、別のことに気を取られて動揺する。
『ああ、もう、こんな話をしている間に、ラウラにサン・キラーの撃墜スコア、持っていかれちゃったじゃないの。どうして私はこんな目にばかり遭うのよ…』
『万年副ヒロインですから』
レイは、返事を返さなかった。
サラシャフォーは一人で考える。
(ほんの少しだけオーバーに言い過ぎましたね。でも、あの程度で折れるのなら、元々サラシャ様とマスターをめぐって競うほどの存在ではないので、むしろ安心できます。
サラシャ様、私はやりましたよ。
それよりも、このまま暢気に構えていては、他の複製体達の前での面目が立ちませんし、行きますか)
そして、彼女は、戦場へと向かって行った。
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その少し前、氷結惑星ヒュリーゼにて。
一面雪と氷で覆われたところに、ふとリンが姿を現す。
「一度やってみたかったんだよね、この分身体を作る魔法。
さて、と。ガーゼインが立ち寄ろうとしているあのバーは、確かあそこだから…」
そして、彼は姿を消す。
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同じ惑星で、アーンは、自分の営む店に、赤みがかった茶髪の少年が入ってくるのを見た。
「アン、ンアーッ!」
「え、ここは坊やの来る店じゃないって?」
「ンア!」
「まあ、そう言わないでよ。私には、ガーゼインに伝えるべきことがあるので」
アーンの目の色が変わる。
「アン?」
少年は、胸元からメモを取り出した。
「このメモ、彼女に渡しておいて欲しいんだ。その気なら直接転移して本人に渡すこともできるんだけど、一歩引くという彼女の姿勢を尊重したい。
一方で、私の仲間として、彼女にやっておいて欲しいことがあるんだ。
だから、伝えてくれるか、アーン?」
アーンは、そのメモを眺める。
そして、ある部分が目について、言う。
「ンア、ンアンアアーーン?」
「大英雄の末裔かって?そういうことらしいね。だから、フィンの魔宙皇国と、確かに戦っているよ」
聞いて、アーンは、少年を一通り見まわした後、笑顔で言った。
「ンア、アーン、アンアーーン、ンア!」
「一杯飲んで行けって?でも、私は子供だし、いくら分身体だとは言っても、本体に酒が回るリスクがないとは言い切れないからなあ…。
それなら、アーンのおやじ、ミルクを一杯頼むぜ」
アーンは、微笑んで言う。
「アーン!」
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ガーゼインは、後からリンのメモを受け取って、飲み干されたグラスに残る僅かなミルクを見て、アーンに頼んだ。
「アーン、今日はアタイもミルクにしとくよ。全く、ヴォドマはまだ飲んでないのに、今日は何かに酔っちまったような気分だよ」
「アンアンアンアンアアンアンアンアンアンアアン!」
アーンは、爆笑した。
「チッ、アーンまで笑わないでよ。アタイだって、そういう気分になることもあるさ。リンは、もうここにはいないんだろう?だったら、少しぐらい、浸らせてくれよ…」
アーンは、ガーゼインの頭を、そっと撫でた。





