リンの帰還と、ガーゼインの離脱
リンは、タイヨウ系の、総本部、旧タイヨウ大魔王公邸に、サラシャを連れて戻る。
サラシャの複製体たちが、公邸の外側を取り囲むようにして、後に続くように転移してくる。
それを、ガーゼインは、少し離れた母艦、ブラックタイガーから眺めていた。
「何だい、ありゃ…」
気付かぬうちに、そんな声が漏れる。そして、彼女は、いろいろな意味で敵わないことを悟るのだった。
そして、傍らで、突如公邸を取り囲むようにして出現した人の群れを見て呆然としているティグルに、言うのだった。
「チッ、これじゃあ、アタイらの出番はなさそうね。ティグル、行くよ。
アタイらにできるのは、せいぜい、姉御の道を邪魔する皇国軍を、非公式に狩りに行くことぐらいのものだからさ」
「よろしいのですか?」
「何度も言わせるなっての。
姉御を守る軍隊があれだけいれば、アタイらのような宇宙海賊は、ひっそりと自分たちの生業に戻っていくのが筋というものさ。
アタイらは、何でもかんでも奪っちまればいいというものでもないんだから」
「かしこまりました。では、どこに向かいますか?」
「とりあえず、ヒュリーゼのアーンのところで、一杯ひっかけるさ」
そして、通信を切る。
「リン、姉御、…幸せにな」
ガーゼインは、寂しく笑い、ふと目に浮かんだものを、そっとぬぐった。
「結局、アタイには、恋も涙も似合わないのさ。さあさあ、行くよ!」
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レイ、ゴーティマ、ラウラの三人は、戻ってきたリンの傍らに立つ、黒髪の美少女を見て、それぞれに驚く。
「サラ…なの?」
「否、似ているが、更に強い。驚いたな、しかし。創造したとは、完全に新しい命を」
「そうね。見た目こそサラちゃんにそっくりだけど、まるで魔力そのものに生命を宿したように感じ取れるから、魔族でもアイノコでもないわね。
でも、リンもたいがいね。マハク・マコク、いずれの歴史でも、これほどの存在を生み出すだけの力は、聞いたことがないわ」
三人の反応を聞いて、リンは、答える。
「生命創造の魔法を使って生み出した、サラシャだ。私の中のサラの記憶をもとに生み出したが、サラその人ではないし、サラの記憶も持ってはいない」
「サラシャです。見たところ、マスターのパートナーの座を競っているお方たちでしょうか?」
ラウラが、プッと吹き出した。
「サラちゃんの好きだった人の後釜に座るには、私は年を取り過ぎているわ。
サラの従姉妹の、ラウラよ。サラシャちゃん、よろしくね」
すると、ゴーティマが反応する。
「歳?上限はないぞ、歳に。1200歳だからな、我は」
「そうだったわね。
でも、サラちゃんは、私から見れば妹のようでもあり、娘のようでもあったの。
だから、彼女の好きだった人を奪うのは、気が引けるのよ。
確かに、サラちゃんがリンを好きになったのは、全く自然なことだし、それなりの道理があるとも思うけど、それとこれとは別よ」
ここで、レイが口を挟む。
「あんまり理屈だけで、一歩引いた姿勢を取り続けていると、精神的につらくなってくるわよ?
どこかのガーゼインさんみたいに」
「しかり。行ったようだな、どこかに、彼女は」
「そうね。海賊なんだから、もっと乱暴でもいいと思うのに、案外繊細なところがあるからね。サラシャを見て、敵わないと思ったんじゃないかしら」
ラウラは、驚く。
「へえ、あの悪名高い宇宙海賊が、リンに従うばかりでなく、慕っているというの?あんな暴れん坊でも、恋をすることもあるのね」
「厳密には、従ってはいないけど、明らかにベタ惚れだったわね」
「しかり。突き放すような口調のつもりだったがな、本人は」
「ツンデレだったのね。でも、私は、そうではないわ。だって、リンには、サラちゃんが…そして、サラシャちゃんがいるじゃないの」
「サラシャ、ねえ…」
「しかり。壁だな、新たなる」
リンは、しばらく好きにガールズトークさせていたが、やがて、言った。
「ガーゼインなら、主戦線から外れたところでも、しっかりと私達を支援してくれることだろう。その点は心配はいらないさ。
それよりも、情勢は?
不在の間に、各地で強力な魔法が発動されたようだし、何よりも、あの魔宙皇国そのものが分裂したようにも思えるのだが」
「そうですね。マスター、私も感じます。各地で、強力な魔力の持ち主が大量に出現していることを」
ガーゼインは、この後本編にはあまり出てこないと思います。
ただ、本編では背景でしかない大英雄アマカケの物語のように、シリーズで個人物語を新たに書き下ろすことを、現在検討中です。





