サラシャの創造
名もないガス惑星の上空で、リンの魔法により渦を巻いていた魔力は、やがて、人の形を形成していく。
そして、チキュウでリンやレイと過ごしていた頃のように、角が生えていない状態だが、その他の点では、タイヨウ大魔王としてリンと戦った時と全くそっくりと言って良いほど、サラに似た形になり、魔力の渦は収束する。
目を閉じていた彼女は、ゆっくりと目を開ける。
「おはようございます。ご用件は、何でしょうか?マスター」
マスターと呼ばれたリンは、戸惑いを覚える。
「えっと、マスター?」
「はい、私を作ってくださったお方ですから」
「なるほど。君のことは、何と呼べばいい?」
「私は…サラシャです。サラシャと呼んでください、マスター」
「分かった。サラシャ、私は、リン、リン・アマカケだ。これからよろしくね」
リンは、サラシャに手を差し出す。サラシャは、その手を取り、ポッと頬を赤く染めた。
リンが問う。
「どうした?」
「マスターの手、温かいな、と思いまして。それに、ちょっと…私に似ている気がしましたので」
「まるでサラだな」
「サラ…」
「いや、何でもない。気にしなくていいよ」
「どこか、懐かしい名前です。サラ……ラーシャ。私がモデルにしている女性、ですね?」
「分かるのか?」
問われて、サラシャは微笑んだ。
「ええ。だって、私は、マスターに尽くすべく、マコクの力も身につけていますから」
「そうか。正直に言うなら、あの時点でも、まだサラは、私以上の力を持っていたと思う。私が生きているのは、彼女が口では皇女としての義務を果たすと言いながら、無意識に抵抗していたからに過ぎない。
君は、そのサラの力、私が記憶できた限りのサラの力を、受け継いでいる。
だから、その力を使って、君自身の複製体を、今君がこの宇宙で戦うのに必要だと思う限り作って欲しい。
できるかい?」
「ええ。マスター。私にお任せを」
サラシャは、リンの手を取り、恭しくキスをした。
そして、言った。
「高速複製」
フィンがプロセスごとに意識的に言葉にする必要があった魔法を、たった一言で片付け、サラシャは、自らの複製体を次々と生み出していく。
その姿を見て、リンは、思う。
(まるで、サラその人のようだ…。マスターとしてではなく、対等に接したいかもしれない)
しかし、また思い直す。
(しかし、彼女は、サラその人ではない。私の記憶から構成されている上に、サラ自身の記憶は持っていない。ある意味では愛したくもなるが、それは、私自身の記憶によって、少しばかり美化された彼女が再現されているからであろう)
リンは知らなかったが、事実その通りで、このサラシャは、サラ以上のマコクの力を身につけていた。
マルチバース級。
歴代の宇宙魔皇ですら殆ど到達できず、あの大英雄アマカケでさえ達していたか、意見が分かれる領域に、彼女は、否、彼女とその複製体たちは、軽々と達していたのだ。
瞬く間に、その、正真正銘、史上最強の軍隊の海が、リンの前に広がっていく。
そして、サラシャは言った。
「とりあえず、これぐらいあればいいでしょうか。全部合わせて、たったの1億人ですが、フィンの力程度の相手であれば、100億人単位でかかろうとも、全く相手にならないでしょう」
「さすがだな、サラシャ」
「うふふ。マスターに褒められただけで、この先10年は生きていけそうです」
「そんなにか?」
「ええ。食糧問題が起こると厄介ですから、自分たちを全員魔力摂取で生きていけるように改造しましたし」
ここでようやく、リンは、サラシャとして実体化したサラのイメージが、かなり美化されているかもしれないと思い始めて、つぶやく。
「サラ…以上かもな」
サラシャは、それを聞き逃さず、無邪気に笑って、言った。
「やった!マスターに、マスターが尊敬してやまない恋人以上かもしれないなどと言われたら、私は、もうそれだけで人生の目的を達成してしまいましたよ。うふふ」
はしゃいで宇宙を飛び回るサラシャ。
その姿を見て、リンは、結局のところサラが美化されただけでしかないにせよ、サラシャは間違いなくかわいいな、と思ってしまい、ついつい自身も微笑むのであった。





