面影と暗い影
新章開始です。いよいよ、全宇宙を巻き込むクライマックスへと、物語は向かって行きます。
新連邦共和国軍、あるいは皇国側からは反乱軍と呼ばれている軍隊の総本部。
かつてはタイヨウ大魔王公邸でもあったそれは、治安上の理由から、いつでも移動できる一つの宇宙戦艦の形になっており、何もない空間を浮遊している。
その、一室に、金髪碧眼の美少女に連れられて、角を生やした黒髪の美女が入ってくる。
その部屋の向こうには、デスクに身を置く少年。
秘かに燃える情熱を含む、赤みがかった茶髪の彼は、入ってきた二人を見て、言う。
「レイ、こちらがお客さんかな?」
「ええ、アマノガワ銀河魔帝、ラウラ・アマラージャさんよ」
リンは、そう言って指し示された美女の方を見て、ポツリとつぶやく。
「サラに、似ている…」
美女は、それを聞き逃さない。
「あら、やっぱりあなた、サラちゃんの知り合いだったのね?初めまして、ラウラ・アマラージャ、サラの従姉妹よ」
「初めまして、サラの…恋人だった、リン・アマカケです」
「だった?」
「サラは、もういないので」
「やっぱり、そうなのね。でも、彼女を殺したのは、あなたじゃないわね?」
「分かるんですか?」
「私も、こう見えても、マコク使いの端くれだから。あの気配は、あなたとは違った。むしろ、今の宇宙魔皇、フィンに近かったわ」
「その通りです」
すると、ラウラは、しばしの沈思の後、リンの目をしっかりと見て、こう言った。
「よし、分かった。あなたと手を組むわ、リン」
リンが、驚きの表情を浮かべる。
「え?」
「私ね、フィンに狙われたの。そしてその時に襲ってきた監視辺境伯を返り討ちにしたから、もう彼らにとっては反乱軍扱いなのよ。
だから、生きるためには戦うしかないの。
でもね、あなたと組むことを選んだのは、それ以上に、あなたがサラちゃんを愛していることが、よく伝わったからよ。
私にとっても、サラちゃんは可愛い従姉妹だった。
マコクの道では、早いうちに抜かれちゃったけどね」
そう言って、ラウラは、ペロッと舌を出す。が、すぐに真剣な表情に戻って、続ける。
「サラちゃんも、先の魔皇だった伯父様も、もういない。
私が守るべきこの銀河の市民も、反乱軍と戦う限り、リスクにさらすことになるのは目に見えている。
愛する人たちがいない今、そして、愛する人の記憶を伝える人たちも、殆どいなくなってしまった今、私は、あなたと組むしかないのよ。
あなたを、信じていいわね、リン?」
ラウラが、微笑みながら、リンを見つめる。その目に、微かに浮かぶ光。
リンは、応える。
「分かった。ラウラ、今日から君は、私たちの仲間だ」
ラウラは、ほっと一息を吐く。
「良かった。私、これでも魔宙皇国の皇族だから、処刑でもされたらどうしようかと、内心ビクビクしていたのよ。せっかくフィンの魔の手から生き延びたんだから、まだまだ生きていきたいじゃない?」
「…サラの分まで」
「そうね。
あ、そうそう、サラちゃんのことで思い出したけど、私あの子よりは、胸はあるわよ?」
「それは、サラが聞いたら傷付くだろうな。表には出さなくても、結構気にしてたから」
「それぐらい言わせてよ。じゃないと、私もプライドを維持できないからさ」
そして、ラウラはレイをチラ見する。
「…まあ、そう言われてしまうと、サラなら、笑って許してくれたかもね」
その後、ラウラがゴーティマとガーゼインに会った時にも、同じようなやり取りが繰り返されたのだが、これは、サラの名誉のために割愛する。
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魔宙皇国首都惑星、ダヴィリオーニの上空。
宇宙魔皇フィンは、狂ったように腕を振るい、叫ぶ。
「フハハハ、複製体生成!複製体生成!」
すると、振るわれた腕の先から、目に見えるか見えないかの大きさの、小さな粒子が飛び出していく。
「そろそろいいか。魔宙隔離、時間加速、そして、情報注入!」
粒子が飛び出した空間の一角にわずかに違和感のような輪郭が浮かび上がり、粒子たちは急速に胎児、乳児、幼児、少年、大人へと成長していく。
その姿は、全てフィンそっくりである。
「よし、魔宙融合。フハハハ、これで最強の兵ができるぞ、フハハハ」
魔宙公邸周辺の上空を覆う、大量のフィンそっくりの裸体。
それを見た市民は、何か恐ろしいことが始まる予感を、胸に抱いたのだった。
魔宙隔離は、魔宙切断を6面に対して行う技です。魔宙攪乱のプロセスの一つなのですが、先代の魔皇は、あくまで魔宙切断の一種としかとらえていなかったようです(47話参照)。





