新たなうねり
魔宙皇国首都惑星、ダヴィリオーニ。
宇宙魔皇フィンは、若干の焦りを感じていた。
「テンシ族が壊滅したか。アマカケの末裔は、とうとう倒せないままに。
まずいな。ラウラ暗殺に失敗した以上、ラウラは反乱軍扱いされる腹を決めて彼らに合流する可能性が高い。
敵の勢力はいや増すばかり。
だが、私に打つ手がないわけでは…ないな。禁術と称して人を狩りに来る集団がいなくなった以上、古のマコクの秘術、生体複製を、遠慮なく行うことができる。
とすると、これは、むしろ勝機が増したと言って良いかな?
仮にも先代を倒した私自身を、何万、いや、何億体レベルで複製してやろう。
フハハハ。史上最強の軍隊の誕生だ」
焦りは、急速に余裕へと変わっていく。
フィンの笑い声が、独り高く響く。
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現在は新連邦共和国軍の新たな総本部となった、旧タイヨウ大魔王公邸。
ふと、近づいてくる気配を感知したリンが、言う。
「何か、来る。銀河級程度の力を持った強力なマコク使いだが、敵意はなさそうだ。レイ、対応できるか?」
「いいわ」
レイは、やってきた小型魔宙船を出迎えに、出ていく。
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「結構すんなりと入れてくれるのね。私が皇国軍の者だと知っていてかしら?」
反乱軍総本部に単身駆け付けたラウラは、そう言って降り立った。
サラと同じ黒髪だが、サラよりもやや大きな角が生えており、長身で、どちらかというとスレンダーながらも、最低限のラインはしっかり備えている彼女は、皇族一の美女として、長く皇国中に知られており、広く皇国市民から親しまれていた。
先代の宇宙魔皇が、その人気を生かして治安を維持してもらおうと考え、彼女をアマノガワ魔帝に任命したのであったが、その影響力は、アマノガワ銀河一つにとどまらず、全宇宙に及んでいる。
ちなみに、アマラージャの姓は、その時に魔皇より授かったものである。
傍系皇族の姓は、銀河魔帝でなければ、ウラージャに変更される。
が、銀河魔帝に就任した者と、その子孫は、その銀河の名前の冒頭二音+ラージャの姓を、時の魔皇から授かり、名乗ることが許されており、彼女もその例に漏れていないのであった。
そんな彼女を見て、出迎えに来た金髪碧眼の美少女が、驚きの色を浮かべる。
「ようこそ、新連邦共和国軍総本部へ。あなたは…」
「お察しの通り、アマノガワ銀河魔帝、ラウラ・アマラージャよ。あなた、もしかしてサラちゃんのお友達?」
「え?」
ラウラの問いに、少女は更なる驚きを隠せないが、それを見つつ、ラウラは口調を改めて、言う。
「まあ、いい。私は、反乱軍総司令官、リン・アマカケと交渉するためにここに来た。案内を頼むぞ、レイ・ストーミー副司令官」
「は、はい。どうぞ、こちらへ」
彼女は、案内をする。
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経済都市惑星、ギラン。夜側の半球が妖しい美しさを以て光る。
その一角で、魔宙皇国、元第二皇子にして、現魔皇の弟である、オトは、配下の者に語る。
「諸君、私は、先代魔皇の第二皇子、オト・ラーシャである。
私は、現魔皇を一方的に名乗るフィン・ラーシャのことを認める気はない。
彼は、親殺しであり、また、妹殺しでもあるからだ。
私は、感知した。彼が、私たちの父上である先代魔皇、並びに末の妹である先代のタイヨウ大魔王を、確かに殺したのを。
妹とは面識がないが、それでも、家族同士の殺し合いは、断じて許せぬ。
ましてや、魔皇大陛下を殺めてまで成り上がろうとする不届き者には、断じてラーシャの名を継がせるわけにはゆかぬ。
だから、諸君、この私は、私こそが、この魔宙皇国の新たな魔皇となるべきだと確信する。ついては、フィンの僭称する皇国から独立し、このギランを含む、私と諸君の管轄領を、真魔宙皇国として独立させようと思う。
諸君、是非とも、諸君には、フィンではなくこの私についてきてもらいたい!そして、真の皇国を取り戻そうではないか!」
「「おう!」」
怒号とともに、第三勢力が産声を上げる。
これで、第三章は完結です。次から、いよいよクライマックスへと入っていきます。





