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ラフートとクロノシンクロナイザー

今回は若干長め、かつ背景説明が含まれています。

「これは…」


 リンは、あの時、サラの育ての両親から、このラフートを形見として託された。

 サラが一番その音色を聞いて欲しかった相手のそばに置くことがあの子の望みだと思うから、と言って。


 サラの死のショックから立ち直れなかったリンは、それを見ては涙してしまうのに耐えられず、このラフートを無造作に部屋の片隅に、半ば捨てるような形で置いていたのだが、ふとそのラフートが目についたのだ。


「サラのラフート。…ああ、まるで君自身であるかのように美しいフォルムだ」


 リンは、それを手に取る。


 銀色に光り輝く横笛。


 何気なく、それに口を付ける。が、うまく音が出せない。


「結構難しいんだね、ラフートって…。ああ、君の見事な演奏が思い出されるよ…」


 リンの目から、また涙がこぼれる。


「…でも、いつまでもこうしてこの場に止まっている訳にもいかない。サラ、君は、私にできることをやって欲しくて、このラフートを思い出させてくれたんだね」


 リンが、もう一度口を付ける。すると、今度は自然に、音が出た。


「そうか。…行かなくちゃな。レイたちを助けに。ついてきてくれるかい?」


 笛の音はサラの答えではない。だが、何となく、その音が出るか、それこそが自分を導いてくれる気がしたリンは、もう一度笛に口を当てる。


 笛は、更に美しい音色を出した。


「分かった。行こう」


 リンは、涙をぬぐって、立ち上がる。サラのラフートを腰に差して。


----


 魔宙皇国首都、ダヴィリオーニ。


 宇宙魔皇フィンは、いくつかの動きを探知する。


「さすがにギガンテ伯と言えどもラウラには及ばなかったか…。それは、まあいい。

 サラが死ねば、大賊アマカケの末裔の望みが絶たれて心が折れると踏んでいたのに、どうやら立ち直ってしまったようだ。

 そうなると、やはり、アマノガワ銀河用のクロノシンクロナイザーを破壊できなかったことは痛恨のミスだな」


 クロノシンクロナイザーは、今から10000年前、旧連邦共和国の黎明期、初の宇宙文明が誕生するにあたって異星間交流のために開発された時間の流れをそろえる装置である。


 この装置の制御に必要な魔力は、制御すべき範囲が広がれば広がるほど大きくなる。かつては惑星単位から恒星系単位で制御を行っていたが、文明が拡大すると、やがて、銀河単位で制御を行わなければ立ち行かなくなり、どんな種族でも、生体が持っている個人的な魔力ではどうしようもなくなった。


 あわや文明の限界かと思われたときに、魔力に関する理論を一新したのが、8000年前に旧連邦共和国と交流を始めた魔族たちが使う魔法、マコクであった。


 ただし、そのマコクの力は、魔族以外の部族の者がそのまま使うと、激情にのまれ、力を制御できなくなるリスクがかなり高いことが判明した。無論、アイノコを中心に、例外的にマコクを使いこなす者もいるにはいたが、それでも、実用的なレベルには達していなかった。


 そのことを踏まえ、より汎用性を高め、激情の発露なしに使えるようにしたのが、今から7800年前に誕生した、マハクの技術である。


 このマハクの力を学び、使いこなすようになったマハク使いたちは、様々な文明の利器の改良・革新を行ったり、戦闘力として働いたりして、旧連邦共和国が最初の宇宙覇権国家になるのを支えた。


 中でも大きな役割を担ったのが、銀河級以上の力によってクロノシンクロナイザーを制御し、宇宙全体の時間的同一性を確保することに成功し、銀河提督の役目を担ったマハク使いたちであった。


 彼らの成功と、マコクの道に進んだ非魔族の相次ぐ暴走とにより、旧連邦共和国は、やがて、マコクの道を弾圧するようになった。


 すなわち、魔族による邪流魔法であると認定し、非魔族がマコクを学ぼうとした場合、即刻処刑されることになったのである。これが、5700年前のことである。


 以後、マハクの道に関する教育は高度に洗練され、全体的にマコクのワンランク下の能力でしかなかったマハクは、弾圧により教育水準の低下したマコクに匹敵する能力へと変貌した。


 そして、2500年前、とうとうマハクの道のルーツがマコクにあったという事実が、旧連邦共和国の正式な歴史教育から抹消される。


 教育から消されたことでマハクのルーツを忘れた人々は、やがて、マコクを唯一使え、使うことが合法的に認められている魔族たちを恐れるようになった。


 そうして、マコク完全禁止論が高まり、1500年前に、遂に、一部の反対も通らず、マコクを使うものは魔族であっても処刑するというマコク完全禁止法が制定される。


 この結果、多くの魔族が殺され、魔族たちは苦難の日々を過ごすこととなった。しかしながら、いつかは認められる日が来ると信じた一部の魔族により、秘かにマコク教育が盛んになる。


 気配を消す技術や、転移などの高度な魔法が古文書から復元され、マコク使いたちは、秘かに力を蓄えていった。


 一方のマハク使いたちは、マコクが完全に弾圧されたこと、そして時既に旧連邦共和国の派遣が確立されていたことにより、徐々にマンネリズムに陥り、全体的に弱体化が進んだ。


 数少ない例外が、グランドマスターと呼ばれるに至ったゴーティマと、後の大英雄アマカケを中心とする、彼女の弟子たちであったが、それも、高い水準の教育を受けたからではなく、彼ら自身の元々の能力の高さゆえに過ぎなかった。


 そして、いよいよ1010年前、旧連邦共和国に対し、後の初代宇宙魔皇ダン・ラーシャ率いる魔族は、反乱の狼煙を上げる。


 魔宙大戦と呼ばれたこの戦争で、彼らが使った戦法こそが、クロノシンクロナイザーの乗っ取りであった。


 銀河総督制御下にあるクロノシンクロナイザーを、より強い魔力によって上書きし、自らの制御下に置く、というシンプルな作戦だったが、その効果は絶大であった。

 これにより、魔族たちは、各銀河の「時間の流れ」を人質にして一気に旧連邦共和国へと侵攻し、10年ほどで、宇宙全体をあらかた征服した。


 そして、それにより、彼らは「魔宙皇国」を建設するに至ったのだが、この時に、最後に残った、当時は旧連邦共和国の首都惑星であったダヴィリオーニ周辺で抵抗し、思わぬ反攻を見せたのが、アマカケ率いる義勇軍であった。だが、それは、今は別の話である。


 そうした経緯があるからこそ、その直系子孫であるフィンは、クロノシンクロナイザーの重要性を認識していた。だが、自力では、魔宙皇国の中枢となるクロノシンクロナイザーの維持がせいぜいで、上書き、乗っ取りの余力がなかったので、ギガンテ監視辺境伯に密命して、いざというときには、アマノガワ銀河のクロノシンクロナイザーを破壊するように命じていたのだが…。


(そのためには、最低限銀河魔帝を殺す必要があった。制御者が存在する場合、仮に破壊しても制御者の魔力によって勝手に復元されるから。

 しかし、制御者不在でも、あれは慣性で200年は機能を維持できる安全仕様だから、物理的に破壊する必要がある。

 そのために、腕力に優れたティタン族の監視辺境伯を向かわせたのに、それでもなお足りなかったか…)

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