表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/82

ハンター、声にならぬ願い、そして形見

 ミーキガウ、アマノガワ銀河魔帝公邸。


 ギガンテ監視辺境伯の顔が恐怖に歪む。


「来るな、来るな…アーッ!」


 絶叫とともに、焼けゆく拳をめちゃくちゃに振り回す。


 アマノガワ魔帝、ラウラは、余裕を持ってかわす。


「おお、手負いの獣は怖い、怖い。どうしようかな、とりあえず…」


 魔剣を巨大化した拳の根元に飛ばす。


 焼けた肉塊が落ちる。


「これで少しはやりやすくなったな」

「く、クソ…」


 ギガンテ伯は、うめきながら、全身を巨大化させていく。


 全長、10メートルはある巨体が出来上がる。


 対するラウラは、余裕を崩さない。


「それでこそ、料理のし甲斐があるというものだ。大きければ得られる肉も多いし、何より、攻撃を当てやすいからな」


 そして、無数の結界を繰り出して、一方的に蹂躙する。


「グアアーッ!」



 ギガンテ伯は、もはや完全に獣である。知性の光は消え、ただ迫りくる結界の刃に抵抗するだけの、無力な獣。


 ラウラは、余裕の笑みを浮かべてそれを眺めている。


 やがて、その抵抗も止まった。


「結構しぶとかったね。さすがにティタン族が巨大化すると、その生命力はまあまあ高いか…」


 そして、ラウラは、この先のことを考える。


「これで、嫌でもフィンからは反乱軍扱いね。それなら、一度リン・アマカケ、あのサラちゃんが愛したという男に、会いに行こうかしら?

 それと、クロノシンクロナイザーは維持しておく必要があるわね」


 そこで、もしかしたら、フィンは、自分を殺すことによって、アマノガワ銀河の時間的な流れを皇国本土からずらし、その差異によって、反乱軍を困惑、避ければ壊滅すらさせようとしていたのかもしれない、と思い至り、彼女は身震いするのであった。


「一般市民をも巻き込んで時間をずらすことも、あのフィンならやりかねないわね。フィンは、あの立派な伯父様とは大違いだから…」


 そう言いながら、彼女は、自分の首にかけたクロノシンクロナイザーを握りしめる。


----


 チキュウ近辺では、あのティタン族のように、ブラックタイガーもまた、手負いの獣のように、テンシ族に一方的に追い込まれていた。


「結界で塞いでいるのに、空気の漏洩が止まらないわね…」

「しかり」

「ちっ、これじゃ、アタイらは後5分も持たないっての。姉御、何とかできないのかい、アンタらのそのマハクの力でさ」

「厳しいな。手一杯だ、我も」


(お願い、リン、助けて!)


 レイの脳裏に、再びその言葉がよぎる。しかし、彼女はそれを口にはしない。できない。


 何故なら、レイは、リンがサラの喪失によって、自分たち以上に苦しんでいることを知っているから。


(欲しいな、助けが、リンの)


 ゴーティマの頭にも、その言葉が浮かぶ。しかし、彼女もまた口にはしない。できない。


 最年長のマハク・グランドマスターとして、自らを敬う二人の前で、弱音を出したくはなかったから。


(ちっ、べ、別にアイツの助けなんかいらないんだから…リン)


 ガーゼインは、いつも通りのツンデレである。脳内まで徹底してその思考パターンなのは、心理戦も必要な宇宙海賊という商売柄ゆえ、だろうか。


 しかし、誰も言葉にせずとも、それぞれの思いは高まり、複雑に混じり合いながら、確かに発信されていく。


----


 旧タイヨウ大魔王公邸。


 リンは、自室にうずくまったまま、首を横に振り続ける。


「できないよ、できないよ。サラ一人守れなかった私に、君たちを守る力なんてないよ…」


 しかし、レイたちの思いは、更に強くなっていく。


 リンは、うずくまったまま。


「何で私に頼るんだよ?私には、何もできない。君たちの方が、しっかり戦えているじゃないか…」


 リンの独り言が悲痛さを増し、涙を含んだ色になっていく。


「状況が悪くなっている?でも、サラ一人守れなかった私が、君たち全員で戦っても歯が立たないテンシ族相手に、今更何をできるんだよ。

 もう、今更、私になんか、生きている意味はないんだ…」


 リンは、遂に言葉を発するのをやめる。


 後に残るのは、今にも消え入りそうな弱々しい泣き声と、肩を震わすリンのみ。


 溢れる涙。


「……っ!」


 ふと、リンは、目に痛みを感じる。


 泣き過ぎか、いや、サラに捧げる涙はこれじゃあ足りない、と思いながら、リンは目をこするために顔を上げる。


 そして、ふと、彼の目に入ったのは、……サラの形見のラフートだった。

いよいよリンに差す一筋の光。彼はそれをどう捉えるのか。


お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
小説家になろう 勝手にランキング
感想を書く! / レビューする!
小説家になろうアンテナ&ランキング
カクヨムコンに全部門1作ずつ、計6作エントリー中です!こちらもよろしくお願いします。
カクヨムの小説一覧
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ