ハンター、声にならぬ願い、そして形見
ミーキガウ、アマノガワ銀河魔帝公邸。
ギガンテ監視辺境伯の顔が恐怖に歪む。
「来るな、来るな…アーッ!」
絶叫とともに、焼けゆく拳をめちゃくちゃに振り回す。
アマノガワ魔帝、ラウラは、余裕を持ってかわす。
「おお、手負いの獣は怖い、怖い。どうしようかな、とりあえず…」
魔剣を巨大化した拳の根元に飛ばす。
焼けた肉塊が落ちる。
「これで少しはやりやすくなったな」
「く、クソ…」
ギガンテ伯は、うめきながら、全身を巨大化させていく。
全長、10メートルはある巨体が出来上がる。
対するラウラは、余裕を崩さない。
「それでこそ、料理のし甲斐があるというものだ。大きければ得られる肉も多いし、何より、攻撃を当てやすいからな」
そして、無数の結界を繰り出して、一方的に蹂躙する。
「グアアーッ!」
ギガンテ伯は、もはや完全に獣である。知性の光は消え、ただ迫りくる結界の刃に抵抗するだけの、無力な獣。
ラウラは、余裕の笑みを浮かべてそれを眺めている。
やがて、その抵抗も止まった。
「結構しぶとかったね。さすがにティタン族が巨大化すると、その生命力はまあまあ高いか…」
そして、ラウラは、この先のことを考える。
「これで、嫌でもフィンからは反乱軍扱いね。それなら、一度リン・アマカケ、あのサラちゃんが愛したという男に、会いに行こうかしら?
それと、クロノシンクロナイザーは維持しておく必要があるわね」
そこで、もしかしたら、フィンは、自分を殺すことによって、アマノガワ銀河の時間的な流れを皇国本土からずらし、その差異によって、反乱軍を困惑、避ければ壊滅すらさせようとしていたのかもしれない、と思い至り、彼女は身震いするのであった。
「一般市民をも巻き込んで時間をずらすことも、あのフィンならやりかねないわね。フィンは、あの立派な伯父様とは大違いだから…」
そう言いながら、彼女は、自分の首にかけたクロノシンクロナイザーを握りしめる。
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チキュウ近辺では、あのティタン族のように、ブラックタイガーもまた、手負いの獣のように、テンシ族に一方的に追い込まれていた。
「結界で塞いでいるのに、空気の漏洩が止まらないわね…」
「しかり」
「ちっ、これじゃ、アタイらは後5分も持たないっての。姉御、何とかできないのかい、アンタらのそのマハクの力でさ」
「厳しいな。手一杯だ、我も」
(お願い、リン、助けて!)
レイの脳裏に、再びその言葉がよぎる。しかし、彼女はそれを口にはしない。できない。
何故なら、レイは、リンがサラの喪失によって、自分たち以上に苦しんでいることを知っているから。
(欲しいな、助けが、リンの)
ゴーティマの頭にも、その言葉が浮かぶ。しかし、彼女もまた口にはしない。できない。
最年長のマハク・グランドマスターとして、自らを敬う二人の前で、弱音を出したくはなかったから。
(ちっ、べ、別にアイツの助けなんかいらないんだから…リン)
ガーゼインは、いつも通りのツンデレである。脳内まで徹底してその思考パターンなのは、心理戦も必要な宇宙海賊という商売柄ゆえ、だろうか。
しかし、誰も言葉にせずとも、それぞれの思いは高まり、複雑に混じり合いながら、確かに発信されていく。
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旧タイヨウ大魔王公邸。
リンは、自室にうずくまったまま、首を横に振り続ける。
「できないよ、できないよ。サラ一人守れなかった私に、君たちを守る力なんてないよ…」
しかし、レイたちの思いは、更に強くなっていく。
リンは、うずくまったまま。
「何で私に頼るんだよ?私には、何もできない。君たちの方が、しっかり戦えているじゃないか…」
リンの独り言が悲痛さを増し、涙を含んだ色になっていく。
「状況が悪くなっている?でも、サラ一人守れなかった私が、君たち全員で戦っても歯が立たないテンシ族相手に、今更何をできるんだよ。
もう、今更、私になんか、生きている意味はないんだ…」
リンは、遂に言葉を発するのをやめる。
後に残るのは、今にも消え入りそうな弱々しい泣き声と、肩を震わすリンのみ。
溢れる涙。
「……っ!」
ふと、リンは、目に痛みを感じる。
泣き過ぎか、いや、サラに捧げる涙はこれじゃあ足りない、と思いながら、リンは目をこするために顔を上げる。
そして、ふと、彼の目に入ったのは、……サラの形見のラフートだった。
いよいよリンに差す一筋の光。彼はそれをどう捉えるのか。
お楽しみに!





