バードクラッシュは侮れない(それが宇宙だとしても)
聖痛による痛みを何とか乗り越えたレイたち3人は、それぞれブラックタイガーの砲台を操作する。
レイとゴーティマは、それぞれ目をつぶり、意識を集中させて、言う。
「とりあえず、こんな感じに砲身に魔力を流して…魔光線、発射!」
「行くぞ、我も。…実弾か、これは。こうだな、ならば。魔宙花火、発射!」
レイの放つ光線が四方に散らばりテンシたちの光の輪を射抜く。
その生き残りを、ゴーティマの放った実弾からの魔力の爆発が蹴散らす。
それを見て、自らは操縦席からしか操作できないガーゼインが、苦笑いを浮かべながら、言う。
「全く、下手なアタイの部下よりも、思いのままに砲台を操っちまってさ。でも、宇宙一の魔銃使いの、このアタイも負けてられないっての。
行くぞ、魔動砲。全てを灰燼に帰せ!」
その掛け声とともに、少し前からうなり声をあげてスタンバイ状態にあったブラックタイガーの主砲から、極太の青い光線が、テンシ族の集団の中心に向けて迫っていく。
----
テンシ族の族長、アンジェラは、相手の思わぬ反撃に焦っていた。聖痛の発動に魔力を回していたため、結界を維持できなくなっていたからだ。
そんな中、自らに、ブラックタイガーの口から発せられた青く猛き光が迫る。
「くっ…ならば!」
全てのテンシを守るだけの結界を張ることはできないと判断した彼女は、自分の周囲にいる、生き残りの二割のテンシにほぼ全ての魔力を集中させ、彼らだけを守る選択的な結界を張る。
青い光が直撃し、逸れ、結界の外側のテンシたちを焼き払っていく。
結界が震える。
結界の端の方が、光によって少しずつ削られ、結界ギリギリにいるテンシが巻き込まれる。
結界が震える。
結界にヒビが入っていく。
「ここまでか?」
アンジェラは覚悟を決める。
しかし、結界が破れるより前に、青い光は弱っていく。
----
「ちっ、アタイの魔動砲を結界で防ぎやがったようだね。最大出力なら小さめの惑星ぐらいは吹き飛ばせるってのに…」
魔動砲の光が拡散するさまを見て、ガーゼインは言う。
その魔動砲の光が収まる。
「やっぱり…」
ガーゼインが唇をかむ。
すると、テンシ族の思念が、再び流れ込んでくる。
『危ないところでした。こんなに追い詰められたのは、初めてですよ。感動しました。
本当に惜しいことです。あなた方が禁術使いの肩を持っていることは。
ですから、せめて私は、あなた方に敬意を表して、あなた方を殺す前に名を名乗りましょう。我が名は、アンジェラ。テンシ族の族長です。
若いころは禁術を破った魔宙皇国の皇族を、一人で狩りに行ったこともありましたっけ。ですから、今でも噂は残っていると思います。この我が名に恐怖するといい。
しかし、困ったものです。お陰様で、凱旋パーティーの喜びが、本来の4.9%まで減ってしまいました。
この穴埋めは、せめてあなた方の苦しみを見せてもらうことによって、行うとしましょう。
テンシ族の本来の機動性を見せるべき時が来たようです。
皆の者、散れ、削れ、揺らせ、切り裂け。彼らが一人残らず苦痛に身悶えるまで』
テンシたちが散開し、高速で宇宙戦艦に体当たりして揺さぶりをかけたり、艦船に微細な穴を開けて酸素を流出させたり、砲台の方針をゆがめて使い物にならなくしたり、と即死ではないが敵を絶望に追いやる攻撃を繰り出していく。
「速いわね…」
「しかり」
「ちっ、ここが艦船じゃなければ、アタイの銃で何とかできたってのに…」
揺らされながら、レイたちは、三者三様の反応を示す。
「今は大丈夫でも、墜とせなければ勝ちはない。ガーゼイン、残った砲台で何とかできないかしら?」
「厳しいね。出来なくはないけど、仲間も巻き込んじまうから…」
レイは、ため息をついて、ポツリと言う。
「リンがいれば…」
助けて、リン。
声にならぬその言葉が、脳裏をよぎる。





