それぞれの戦局
咄嗟に、レイとゴーティマは結界を張ってテンシ族の聖魔法を遮断しようとする。
が、その前に、生き残り全員に激痛が走る。
「…ぐっ、作者は、こんな時だけ絵になるシーンを作ってくれるのね」
「アンタ、何さ、その作者って。しかも苦しんでいる姿が絵になる?悪趣味にもほどがあるね。あ、アタイは、こんなもの…」
「笑えないの、強がりを見ても」
「姉御…」
「痛いからな、魔法のせいで、テンシ族の」
この3人は何とか会話できているが、他の者は会話どころではない。
見る目も当てられないほど悶え、転げまわり、叫び、泣き、苦しんでいる。
阿鼻叫喚の地獄絵図と言っていいさまである。
「テンシなんて、名ばかりじゃないの。これじゃ、むしろアクマだわ」
「アクマ?声か、異世界の?」
「異世界って何さ。どうせマハクを使えないアタイは置いてけぼりですよー、だ」
「気にしないでいいわ、ガーゼイン。それよりも、仕組みが分かったわ。魔法にかけられたと感じた身体が痛みのシグナルを送り続ける、というものよ。
だから、対策法は二つある。
魔法になどかけられていない、と感じ直すか、シグナルを止めるか。
ただ…」
「精一杯だ、自分たちのことで、我らは。治せんのだ、他の人までは」
「そう。この魔法にかけられる魔力が流され続ける限り、自分自身を守るのがやっとなのよ。だから、ガーゼイン。あなたはあなたで、自分のことは何とかするしかないわね」
「フン、小娘に負けたり、姉御の前で恥を晒したりはしないさ。アタイにも意地があるからね。もっとも、アタイもティグルたちにまで手を貸す余力はないけどさ」
「珍しく素直じゃないの」
「ホッホッホ」
「まあ、アタイだってそんなに余裕がないってだけさ。だけど、こうなっちまった以上、アタイらだけで…」
「反撃開始ね」
「しかり」
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アマノガワ銀河の中心惑星、ミーキガウ。
夜も賑やかなこの惑星の中では、魔帝公邸が現在置かれている場所は、比較的閑静な場所にある。
その公邸内で、アマノガワ魔帝は、ぐっすりと眠っている。
そこに、こっそりと影が忍び寄る。
(寝首を掻くのが一番の安全策だからな)
影は思う。そして、影は、暗殺用に飼い慣らしておいた二匹の毒魔蛇を解き放つ。
魔帝に迫る毒蛇。
今にも、魔帝に噛みつかんばかりになる。
「…って、魔力を含んだ存在が近づいてきて、私が気付かないとでも思ったのか?仮にも私は傍系とはいえ皇族、ラウラ・アマラージャなのに?」
言うなり、いよいよ毒魔蛇をぎりぎりまで引き付けたアマノガワ魔帝、ラウラは目を覚まし、軽く指を一振りして、二匹の蛇を切り裂く。
「でも、これではっきりした。フィンは、お前を使って私を殺そうとした。これも監視辺境伯としての任務か、ギガンテ伯?」
答えはなく、巨大化した拳が彼女に迫る。
彼女は、ひらりと身をかわして、言う。
「そうだった。ティタン族は体に魔力を込めて、局所的に、あるいは全身的に巨大化する能力があるんだっけ。でも、そんな小細工が聞くほどには、私だって弱くない」
そして、彼女は、魔剣を起動させる。
浮遊する5本の魔剣の刃が伸び、ギガンテ伯の本体に迫る。
が、彼の体と魔剣の間に、彼の巨大化した拳が挟まる。
ラウラは、魔剣の動きを止めようとしたが、時すでに遅く、2本が拳に食い込み、抜けなくなる。
「厄介なことに、巨大化を応用すれば、刺さった刃が食い込んだ空間を、がっしりと埋めてしまうこともできるんだったな。
それなら、ちょいと技を変えさせてもらおうか…」
彼女は、魔剣の刃をしまう。抜けなくなっていた2本の魔剣も、斬撃によって抜くことは不可能でも、刃そのものを消す方法では抜くことができ、それらはすべて彼女の元へと戻っていく。
そして、彼女は舌なめずりをする。
「こんなに大きな肉の塊、焼いたらさぞかし美味かろう。魔雷」
雷が拳に向けて走る。拳が、雷撃を受けて焼けていく。
「くっ…」
初めて、ギガンテ伯が声を漏らす。
「お前は強いが、殆どマコクの道は使えないからな。ならば、マコクの道にて料理するだけのことだ」
ギガンテ伯が声の主を見ると、その目は、狩りに出る猛獣のそれだった。





