世界の魔力を感じ取れ
「希望を託されても困ります。私は、ただ恋人を取り戻したいだけなので。でも、マハクの力は欲しいです」
リンは、ベンの眼差しを受けて、ひと呼吸おいてから、そう答えた。
ベンは、それを受けて、少し考えてから言った。
「宇宙に圧政を敷く魔宙皇国の打倒…それはマハク使いの悲願。その意味での希望まで君に託すのは、今はまだ荷が重すぎるようだな。
だが、少なくともマハクの力を継ぐ者がいるというだけで、最低限の希望は果たされるのだ。
だから、今は君の願いが恋人の奪還に過ぎないとしても、私はそれでも、魔族に一矢報いようという君に力を…教えようと思う」
レイが割り込んだ。
「私にも、教えてください。サラは、リンの恋人であると同時に、私の親友でもあるので」
ベンはまた少し考えて、言った。
「辺境で細々と受け継がれるようになってから、少なくともこのチキュウでは、マハクの道は一子相伝であった。
だが、アマカケの血を継ぐ者が来た以上、その伝統にこだわる理由もない。良かろう。
君がついて来られるのなら、だが」
「ついていきます!」
レイは、珍しく熱を帯びてそう叫んだ。
「分かった。では、まず君たちには、宇宙を満たす魔力の流れを感じ取ってもらいたい。
こんな感じですわって、目をつぶるんだ」
ベンは、そう言うと、胡坐をかいて座り、目をつぶった。
リンとレイもそれに続く。
しばらくして、リンがつぶやく。
「感じる。世界は、こんなにも力に満たされていたのか」
「私も、感じるわ。力強く、それでいて、温かいこの流れ…」
ベンが言う。
「早いな。私はこれでも10日もかかったのに。流石というべきか。
では、次だ。そのまま、魔力の流れを、自らに取り込むイメージをしてみるんだ。宇宙に対して、心を開いて…」
再びしばらくして、今度はレイが先に口を開く。
「すごいわ。力が、流れてくる…」
「私も感じる。だが、これが魔法になるのか?」
「魔法についても、思い込みを取っ払う必要がある。君たちは、魔法を使うとき、詠唱するだろう?
だが、あれは本質ではないんだ。魔法で何よりも重要なのは、イメージ。詠唱は、それを鮮明にするための手段に過ぎない」
聡明なレイが言う。
「だから、魔法語が使えないスナ族でも魔法を使えるのですね」
「あのスナ族もスナ族なりの詠唱はしているがね。
私もその域にはまだ達していないが、師匠の話によると、マハクの道を究めると、属性の壁も取っ払われるという。
必要な時に、必要な魔法が使える。言葉にせずとも。そしてまた、自然な魔法は、時として自然そのものを素材にする。
どこからともなく炎を出す魔炎のような魔法は、その意味では、チキュウではやや不自然だ。
砂の魔法、水の魔法、そして植物の魔法辺りが自然なところだろう。だから、チキュウにいれば、マハク使いは理論上これらの魔法を使いこなせるようにもなる。
更には、チキュウに縛られない宇宙の力を手にすれば、魔宙船に乗らずとも、外宇宙を泳いだり、他の星へ瞬間移動したりすることすら可能になるとさえ言われている。
大英雄アマカケは、その全ての魔法を使いこなしたという。
私は、元々使える回復魔法以外では、まだ砂の魔法しか使えないが、君たちならあるいはできるかもしれないね。
…さて、話が長くなり過ぎた。飯でも食って今日は休むとしよう。
マハクの道を究めたければ、常に精神的なゆとりを保つことも、重要な修行だからね」