聖魔法とテンシ族の予感
今話はちょっと短めです。
族長アンジェラが率いるテンシ族は、母星エアロから、アマノガワ銀河の外縁星系アフォリトスに転移し、反乱軍艦隊を相手に戦闘を繰り広げていた。
生身のまま真空空間でも生息できる彼らは、自らの小回りを生かして、艦隊相手に優勢に戦闘を進めている。
彼らは、一般に増幅型魔法と呼ばれる魔法を使う。
原理としては、集団全体で魔力を共有し、任意の個体に必要量の魔力を流して魔法を発動させることで、その規模によっては時に銀河級から魔宙級に迫るほどの威力の魔法を使うことができる、というものである。
但し、テンシ族自身は、これを聖魔法と呼んでいる。
テンシたちの魔力がアンジェラに集中する。
アンジェラが、唱える。
「アマカケに従う邪宗徒は滅ぼさねばならぬ。邪な心を浄化せよ、聖核」
すると、アンジェラの目の前に光球が生じた。光球は、瞬く間に膨れながら、艦隊を覆いつくす。
そして、いよいよ光が強まったかと思うと、突然しぼんで、後には何も残っていない空間だけが残された。
「進むぞ。目指すは、アマカケの本拠地、タイヨウ系だ」
アンジェラがそう言い、テンシたちは目的地を目指して進んでいく。
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レイとゴーティマは、それを察知した。
「何か、強大な魔力が発動されたわね。マコクとも違う何か」
「テンシ族だろう、恐らく」
「それで、ナガハナ族の動かしていた第三艦隊が丸ごと消された…」
「しかり」
「私達で食い止めるしかないわね。少なくともリンが立ち直るまでの間は」
「しかり。相手になろう、彼らの、我が」
「魔皇がサラの仇になり、原因不明のままテンシ族が侵攻を開始し、リンはサラの死から立ち直れていない。
私達は、随分と苦しい状況に置かれているようね」
「しかり。いないしな、ガーゼインも」
「はあ…」
いくらなんでも、司令官として働く間ぐらいはしっかりしてほしいわ、落ち込んだリンは可愛くて守りたくなるけど、と思いつつ、レイはため息をついたのだった。
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リンは、旧タイヨウ大魔王公邸の、サラが息を引き取ったその場所で頽れる。
「サラ、私は、どうすれば良かったんだ…」
リンは、あれ以来、名目上はここを総本部にしたという口実で、ずっとこの公邸内にとどまっていた。
そして、レイやゴーティマさえも追い払って、たった一人で悲しみに暮れていた。
「…感じる。私を狙って、テンシ族が来る。それなら、それでいいや。もう、殺してくれよ、いっそのこと。
そうすれば、サラ、また君に会えるし、今度はもう、君のお父さんとも戦う必要はないのだから……」
うつむいて見えない表情。その頬を、一筋の涙が滴る。
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ガーゼインは、旧友アーンが所有する防寒洞穴に隠していた、母艦ブラックタイガーに戻る。
「ティグル。アタイらは戻るよ。タイヨウ系に」
「ガーゼイン様。それはまたどうして?」
「テンシ族が、リンに目を付けたらしい。リンは、姉御の愛する男性だからね。いざってときは、アタイも力にならなきゃさ」
「ガーゼイン様。お言葉ですが、本当にそれだけでよろしいのですか?」
ガーゼインは赤面する。
「な、何さ。アタイがアイツを好きだからだなんて、誰も言ってないんだからね!」
「そうですね」
「あ、ティグル、アンタ今笑ったね?」
「いえ」
「まあいいさ」
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魔宙皇国首都惑星、ダヴィリオーニ。
新たな宇宙魔皇、フィンは、新たな動きを感じ取る。
「テンシ族が動き出したようだな。奴らもなかなか厄介なところがある。うまく、反乱軍と共倒れになってくれればよいが…」
先が見通せないと考えるのであった。





