サラの死、そして
サラを連れて、リンたちが帰ろうとしたその時。
一本の、赤白い刃が、サラの胸を貫いた。
「フハハハ。所詮は不純なアイノコよ。ニンゲン風情に負けるとはな。軟弱な敗北者には、この私、魔宙皇国第一皇子フィンがトドメを刺させていただいた。
大賊アマカケの末裔よ。このフィンを討ち取りたくば、あまたの銀河から本体を見つけ出し、狩りに来るがよい。
それでは、さらばだ。フハハハ…」
声だけが響いた。
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魔宙皇国首都惑星、ダヴィリオーニ。
「あのバカ息子が。大賊アマカケの末裔ですら守ろうとしたあの子の命。あの子の魅力。それを、微塵も理解せずに、なんてことをしたんだ」
宇宙魔皇の目に涙が浮かぶ。
「いや、理解したがゆえに、恐れたのか?どっちにしろ、許せん。朕の身に代えても、あのバカ息子は…」
「フハハハ。あなたも年を取りましたな、父上。やれるもんならやってみてくださいよ。私が、あなたの寝首を掻かないうちに」
「貴様…」
「フハハハ。あんな小娘に何ができましたか?反乱軍を増長させただけじゃないですか?ご存知の通り、魔族は、そして皇国の魔王・大魔王・魔帝制度は、実力主義で成り立っています。力がなく、破れた者に対し、なすべきことをしただけですよ」
「黙れ。あの子は、貴様などとは器が違う」
「聞き捨てなりませんね。やはり、今すぐあなたを刈り取ることにしましょう」
「黙れ。あの子のために滅びるのは貴様だ。魔雷」
魔皇が放つ雷を皮切りに、二人の戦いが始まった。
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空中に浮遊するいくつかの都市で構成された惑星、エアロ。
羽を生やし、頭上に光輪を浮かべているテンシ族の、族長アンジェラは、配下の者に対して言った。
「我らが神聖教の禁忌が犯されたことを確認した。呪術を、解呪ではない方法によって封じ込め、延命を図るという古の禁術である。
我々は、神聖教の命ずるところに従って、禁術を使った敵を殲滅しなければならぬ。この度の敵は、反乱軍首魁、リン・アマカケだ」
配下に動揺が走る。
「あの、アマカケの末裔が?」
「禁術を使っただと?」
アンジェラは言う。
「我々は、皇国とも反乱軍とも異なる。一応魔宙皇国に所属してはいるが、それは、我々の聖域であるこのエアロの自治権と、部族間紛争不介入主義によって、我らの教えを犯す者への攻撃が黙認されていることとの二点からのみである。
だから、大英雄、あるいは大賊の末裔と呼ばれていようが関係はない。我々にとっては、禁術使いは立場によらず敵だ。いいな?」
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リンは、しばらく呆然としていたが、やがて、絶叫した。
「NOOOOOOOOOOO!」
そして、サラを抱えたまま、泣き出した。
「サラ、守れなくて、ごめん。こんな私を、愛してくれてありがとう。私は、君に、生きている限り心をささげよう。
それが、せめて私にできることだから…」
リンが、膝を折って、泣き崩れる。
レイが、そんなリンの背中を優しくさする。
「あなたのせいじゃないわ。誰も、あの気配を感じ取れなかったから。だから、あなたのせいじゃないわ…」
そのレイも、言いながら、涙を流している。
ゴーティマは、無言だが、うつむいている。
「私は、もっと強くならなければ…。うう、うおーん、ああん、ええん、うう…」
リンの泣き声が、虚しく響く。
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ガーゼインは、直感した。
「終わったのね。宇宙が、悲しみに包まれている…」
目から一滴、ポトリと落ちる。
「泣いてる?アタイが、どうしてさ…」
リンの悲しみが感じられるから。
「見知りもしない恋敵の死、なのに、どうしてさ…」
リンが、それだけ彼女を愛しているから。
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サラの葬式は、リン、サラの育ての両親、そしてリンの気持ちを知るレイたちによって、しめやかに行われた。
リンの成長のために、正ヒロイン・サラはここで退場するしかなかったのです。
本当は、リンとサラが戦い合う中で…のはずだったのに、リンがそれに抵抗してしたので、こういう展開になりました。
次から、新章開始となります。
今後もよろしくお願いします。





