決着
二人は、遂に魔剣を起動させる。
「あなたは、魔剣無しで倒せる相手ではないのね。私がまだまだ未熟だからかしら?」
「君が、強い子だからだと思うよ、サラ」
魔剣が交わる。
「あなたほどではないと思うわ」
「いや、正直互角だと思う」
起動される魔剣が増えていく。
「でも、あなたの方が強い心を持っているわ」
「そうかな?」
「そうよ」
「愛しているよ、サラ」
「知ってる」
魔剣が、生成されていく。
----
それを見ることしかできないレイとゴーティマ。
「サラがラフートを吹くのをやめたわね。終わりが近いわ」
「しかり。できない、何も、我らは」
リンとサラは、結界の中でいくつもの魔剣を起動し合う。赤白い光と、青黒い光とが、ほぼ対称的な形を成す。
----
「でも、君は、どうして宇宙魔皇に従うことにしたの?最終的に」
「従っているつもりはないわ。でも、皇国側につくしか、生きていく道はないじゃないの。私は皇女なんだから」
「本当にそうかな?」
「パパは強いわ。私も強くなったけど、それでも倒せる自信はない。だから、たぶんあなたでも無理よ。それなら、ここで止めるしかないじゃない。
愛している二人が殺し合う姿なんて、見ていられないわ」
「…君が見たくないのは、私が君のお父さんに殺される姿なんだね」
「え?」
「なら、逆ならどうだ?もしも、私に、彼に勝てる力があったら…」
サラは、一瞬ハッとした顔をする。
「…分からないわ。でも、そうなったらあなたに会っていい自信がない。いくら愛していても、パパを殺した相手と一緒に歩むのは、多分無理よ」
「サラ。私達が組めば、彼を倒せる力がある。二人の力を合わせれば、彼を殺さずに倒すことも可能だろう。だから、私と共に来て欲しい」
「それでも、新たな権力が、私はともかくとしても、少なくともパパの存在は確実に許さないわ。あなたが勝てば、あなたが殺さなくても、パパは処刑される」
「それなら、私たち自身が権力になればいいじゃないか」
「新連邦共和国でも、魔宙皇国でもない、第三勢力?」
「ああ」
サラは、目をつぶって、しばし考えた後、言う。
「…でも、それにも問題はあるわ。レイたちを敵に回すかもしれないじゃないの」
「そうか、そうなると、三つ巴になってしまうね。サラにとっての悩みは更に複雑になりかねない」
「だから、こうして、戦うしかないのよ。魔黒球」
サラが、敵の魔力を吸い取る必殺技を発動する。
「魔力の吸い取り技か。それなら、魔力を生み出す技を出せばいい。こんな感じで…魔白球」
リンが、魔黒球の吸い込んだ魔力を吐き出す球体を生み出す。二つの穴は、この宇宙の裏側でつながっているらしく、吸い取られる魔力と、吐き出される魔力とが拮抗している。
「流石ね。これでは、決まらないわ。でも、あなたはまだ本気じゃないわね?」
「少なくとも、殺す気ではないね」
「やっぱりそうなのね。…だったら、私を殺して」
「え?」
「あなたは、私を殺して、私の死を乗り越えて、為すべきことを為して頂戴」
「サラ…」
「リン。あなたに重荷を背負わせてごめんなさい。でも、あなたは、本物の英雄よ。だから、この宇宙のために、真に正しいと思うことをして頂戴」
そう言って、サラは微笑む。
サラの目がわずかに潤む。
「…できないよ」
リンは、力なく頭を振る。
「そうね。あなたは、優しいから」
サラは、リンに抱き着く。
そして、リンが抵抗する間もなく、その唇に、サラの唇が重なる。
唇が離れる。サラから、光が発せられていく。
「お、おい…」
「…愛してるわ、リン」
「知ってる、けど…」
リンは、残されたわずかな時間を意識しながら、魔力の流れを感じ取ることに集中し、この呪いの正体を悟る。
「魔力の強制的な発散によって、生命固有の魔力の流れを分断しているのか。それなら遮断結界を張って、拡散を防ぎつつ魔力の流れ道を再建し、魔白球と魔黒球を適切に配置して魔力の流れを人工的に生み出せば…」
そして、リンは、その全力を以て、サラに対し、その術を進める。
まず、体表を遮断結界で覆うことで魔力拡散を止め、体内の自然な魔力の流れ道に、魔力の身を選択的に閉じ込めることのできる結界パイプを組み立てる。
そして、魔黒球と魔白球を、パイプ内に一定の距離で交互に配置し、人工的に魔力の流れを復活させる。
流れが一方向にスムーズに向かうように、パイプ内には逆流防止弁も備えておいてあったので、これにより、一応サラの魔力の流れは維持できるようになった。
結果、サラからこれ以上の光が漏れだすことは防がれる。
しかし、サラは、既に意識を失っていた。
「サラ、私は遅すぎたのか?」
意識のないサラの手を、リンはそっととる。
「…脈はあるようだ。それなら、解呪すれば意識も戻るかな?」
----
レイとゴーティマは、結界が消え、後に残されたリンが、サラを抱えているのを見た。
「…やったの、リン?」
「いや。彼女はまだ生きている」
「仮死だな、正確には。感じる、マハクとマコクの力が組み合わさって、保っているのを、やっとのことで、彼女を」
「さすがにグランドマスターは何でもお見通しだな」
「ホッホッホ」
「それもリンの力かしら?」
「まあね」
「そう…」
レイは、複雑な表情を浮かべていた。
「とりあえず、帰りましょ」
その時だった。





