サラの回想:目覚め
『それでね…』
サラがラフートで奏でる曲が、更に一層盛り上がる。最後のサビだろうか。
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私は、自分の中に、ニンゲンではない自分がいるのを感じ取ったの。
「…これは?」
「君の、もう一つの姿だ。だが、どちらも真の姿ではない。両者は、本来、別物ではないんだ。育て方の問題だが、ニンゲンの中で育った君は、ニンゲンとして今まで育ってきた。
でも、そろそろ、真の姿に戻るべき時が来たと言っていいんじゃないかな。
そうすることで、君は、君にふさわしい力を手にすることができる」
「私にふさわしい力?」
「マコクの力。…それを手にするだけの器を、君は、持っている」
私の中に、彼から差し出された力が流れ込むのを感じた。
そして、その力によって、私の、最も奥深くに眠る記憶が、引き出されていく。
「あなたは、私の、本当の…パパ?」
「さすがだね、サラ。君なら、自分で感じ取ってくれると思っていたよ」
そうか。これまでパパだと思っていたのは、育てのパパ。でも、それなら、何故今になって?
パパは、私の思考を読み取ったかのように語りだす。
「どうやら真の姿に戻り始めたようだな。真実を悟れば、姿を取り戻すのも易い。さて、私が君の前に姿を現さないできたのは、そして、君がこれまでチキュウなどの様々な星を経験してきたのは、そうすることで、君に皇女として世界を見る目を養って欲しかったからだ。
君は、支配階級に立つ者として、どうすれば彼らから反抗の可能性を取り除けるか、常に考えなければならない。その為に、民が何を恐れるかを知らなければならないのだ。
だから、私は君を私のもとには置かないで、世界を飛び回る実のままのところに預けてきた。
だが、私は、君の前に姿を見せこそしなくとも、常に君を見守ってきたのだよ、サラ」
「そうね。今思えば、そんな感じがするわ。それができるのが、マコクの力…。
世界にあふれる魔力を自らの強い意志、激しい意志によって操作する力ね」
「さすが私の娘だ。何もかも理解が早いんだね」
「うふふ」
「いい子だ。そして、君は、公の場での私の呼び名も、もう知っているな?」
「宇宙魔皇大陛下、かしら?」
「正解だ」
「でも、これだと、リンに何といえばいいのかしら?」
「リン?」
「私の彼氏よ」
すると、パパは目に見えて狼狽した。
「か、彼氏だと…。なんてこった。それだったら、私は、…いや、これも、必要な帝王学の一環だ、割り切ろう。
だが、その彼氏に会う前提なのはどうしてなんだ?ニンゲン族なんだろう?よほどのことがない限り、彼が魔王公邸に住む、ましてやラーシャ家直系の皇女には会いには来ないはずなのに」
「私が呼び寄せる…というのも厳しいそうね。公邸の防衛メカニズムが、それを許してないようだし」
「どのみち、それは朕が許さん。朕の大事な一人娘に手を出す不届き者など…」
「パパ、口調が宇宙魔皇大陛下のそれになっていて、怖いわ」
「済まない。だが、いずれにせよ、会いに来る前提なのは、何故なんだ?」
「…リンには、それだけの力を身に着ける意思があったからよ。彼は、私のためならそれだけのこともしてくれるの」
「信じているのか?」
「それが、リン・アマカケという男よ」
ここで、パパの顔が、またもや硬直した。
「アマカケ、だと?」
「ええ。それがどうかしたの、パパ?」
「まさか、大賊アマカケの末裔が、今なお生き延びていただけでなく、この私の娘に手を出していたとは…」
「パパ?」
「いいか。アマカケの末裔であれば、確かに彼が来るのは避けられないだろう。だが、その時、彼は倒さねばならぬ」
「え?」
「彼の生が知られれば、それはこの魔宙皇国全体の秩序と存続を揺るがしかねないんだ」
「…考えさせて。パパも好きだけど、リンも同じぐらい愛しているの。だから、その時になるまでの時間、考えさせて」
「そうか」
すると、彼は、いきなり私に口づけした。
「…これで良し、と」
「え?」
「君の身を守るためだ。君がどうしても彼を愛する道を選ぶのなら、君は死ぬ。彼を愛する気持ちが残っている状態で、私以外とキスしたら、君が死ぬように呪いをかけた」
「そう。…パパ、やっぱり親バカでしょ?」
「いや、そういうことではなく、これは政治的な決断を促すためであってだな…」
「それなら、リンとキスした時だけに絞ればいいじゃないの?」
「いや、それでは君がリンを愛したまま第三者と結ばれてしまうかもしれない。いくら愛すべきではない存在を愛してしまったのだとしても、想いに反してまでだれかと付き合って欲しくもないからな」
「うん、やっぱり親バカだわ。でも、まあいいわ。何とかするから」
「それでこそ我が娘だ!」
とは言ったけど、どうしたらいいものかしらね…。
とりあえず、マコクの道を究めて、解呪の道を探すか…。
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『ってまあ、そんな感じでパパの分身体相手にマコクの力を磨いているうちに、いつの間にかリンが本当に反乱軍のリーダーとしてやってきて、あの場で出会うことになったのよ』
そして、遂にラフートの演奏が終わり、彼女はラフートを腰に差し、言った。
「結界の外に投げ捨てたら、絶対壊れるからね。生きてこの場を終えられたら、その時また吹けるように、今はここに差しておくわ。
さあ、そろそろお互いの本気を見せましょう」





