魔力の本質
「君は、魔力をどんなものだと思っている?」
「身体に溜められるエネルギーのようなもので、魔法を使うのに必要な力、ですね」
「1000年の間に、魔法教育はこうも後退したのか。まあ、支配者にとっては、魔力をその程度にしか使いこなせないようにしておいた方が無難だからな。
魔力は、この世界を支える大いなる力だ。マギウムとして物質化した魔力の結晶、魔結晶が、魔車を含む様々な形で文明を支えているのは知っているだろう?」
「ええ」
「つまり魔力は生体の外にも溜めたり、放出したりすることができるんだ。だが、それだけではない。
魔力は、そもそもこの宇宙全体に満ち溢れているんだ。君たちが教わる魔力と魔法の概念は、その片鱗でしかない。
確かにニンゲンであれ、魔結晶であれ、溜められる魔力には限度がある。だが、そもそも、魔力は体内に溜めなくても使える」
「そんな、魔力切れを起こしますよ」
「それはどうかな?君たちは、そもそもどうやって魔力を体内に溜める?」
「えっと、魔物を食べたり、回復薬を飲んだりして溜めますね」
「本当にそれだけか?」
「後は、自然回復があります。非常に遅いので、殆ど意識もされませんが」
「そう、その自然回復こそ、魔力が宇宙を満たしている証拠。
魔力は体内で生成されて回復しているのではなく、外から勝手に取り込まれるんだ。何もしなくてもね。生命は、パッとしないと言われるニンゲン族ですら、その力を持っている」
気付くと、いつの間にかレイもやってきていて、彼の話を聞いているようだった。
「だが、普通は生命は取り込む魔力を大きく絞ってしまっている。だから、体内に取り込まれた魔力が全てだという思い込みに陥りやすい」
「まさか…」
「そう。体内に溜められる魔力がどれほどであれ、この宇宙の魔力を自在に取り込み、使いこなせるようになりさえすれば、君はいくらでも強くなれる…。あの魔族よりもね」
「できるんですか?」
そうリンが尋ねると、レイが口を挟む。
「彼は、既にやっていると思うわ。でなければ、スナ族の魔法を無効化したり、手も触れずに魔車を走らせたりすることなどできるはずがない」
「察しがいいな。
私は、この1000年間、細々と伝えられてきた秘術、マハクが使える。白い魔法とも言われるマハクは、自然の魔力の大いなる流れに身を任せて、そこにちょっと意思を載せてやるだけで多大なる威力を発揮することができるんだ」
「マハク?」
「1000年前には、マハクとマコクという、二つの大きな流れがあった。
自然の魔力の流れを取り込んで力を発揮するのがマハク、激情を以て、自然の魔力の流れを積極的に操作して力を発揮するのがマコク。
かつてはマハクの使い手が治める、他部族からなる民主的な政権が、この宇宙を支配していた。だが、1000年前にマコクの道に通じた初代宇宙魔皇が政権を転覆し、現在の魔宙皇国が誕生した。
そして、マハク使いの殆どが殺され、マコク使いも皇国の一握りの上級幹部だけに絞られた。
反乱と大粛清から逃れたごく一握りのマハク使いは、こうして宇宙のいくつかの辺境の星のまた辺境で、細々とマハクの道を伝授してきた。
私も、偶然師匠から教わって、この力を得た。だが、伝授の中で失われたもの、歪められてしまったものも多い。
だから、私とてマハクの道を全て知っていると言い切ることはできない。だが、リン、アマカケの血を引く君なら、あるいは、マハクの道の全てを理解することも不可能ではないかもしれない。
私の知っていることをもとに、君自身で考えればね。どうだね?
君がその気なら、私は喜んで、君に希望を託そうと思う。
1000年前に残らず殺されたはずのアマカケの末裔に、こうして出会えたのも魔力の導きだろうから」
そう言って、ベンは澄んだ眼差しをリンに向けた。
世界から力をもらい受ければ、これは言うまでもなく、それができない人に対してはチートですよね…。