サラの回想:出会い
自身の向ける刃を防ぎつつも、決して攻撃には出ないリンを見て、サラは、ラフートを奏でながら、昔を思い出していた。
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あれは、初等学校の7年、私が13歳の時だったわね。
私は、商業魔宙船会社の客室乗務員として宇宙を飛び回っているママと、同じ会社の船長として働く育てのパパの、それぞれの受け持ち航路の都合で、何年かを故郷のチキュウから離れた惑星で過ごしてきた。
幼児の頃は、美しい湖水を中心に田園地帯が広がるのどかな星、スコッツで育ち、初等学校に入ってからしばらくは、夜景が見どころで、多くのビジネスパーソンが集う、経済都市惑星ギランでいろいろ学んだ。
そしてあの年、13になって、ようやく故郷に戻ってきたんだったわ。所謂、帰星子女として。
チキュウは辺境の星で、多くの子が12の時、初等学校後期課程に入る節目の年に、より発展しているアマノガワ銀河の中心惑星、ミーキガウの私立学校を目指して旅立ってしまう。
そんな中、一人アマノガワ銀河の外の世界を知っていた私は、チキュウに残された子たちが通う学校に転校したとき、当然注目の的となった。
その体験談、学業成績、ラフートの才能、更には、自分ではあまり気にしていなかったけど、彼らが言うには美貌もあったらしく、私は、気付いたらクラスの中心になっていた。
でも、私は、感じていたの。
彼らは、私を別世界のニンゲンとして、祭り上げていただけだということを。
そして、ここでも、結局は異質な存在でしかないということ、本当の意味での親友は、いないということを。
ここでも?
そう。
湖水惑星スコッツに住むエルフ族やドワーフ族は、温厚で寛容な人たちだったけど、私は少数派のニンゲンだったから、結局内に潜める寂しさを共有することができなかった。
経済都市惑星であり、一旗揚げることを狙う様々な部族が集っていたギランでは、ニンゲンであるがゆえに即異質であるということこそなかったけど、子供たちまでもが当たり前のように金の亡者が多くて、どうしても気を許すことはできなかった。
そして、この星、チキュウでは、私は帰星子女であるということ、そして偶然の要素がいくつか重なったというだけで、何故か祭り上げられてしまった。
唯一、対等な友人として振舞ってくれた子として、レイがいたけど、彼女とて、クラスのアイドルの座を奪われそうになって、プライドから無理矢理対等に接そうとしているのが感じられた。
いろいろあって、レイがそんなことを気にしなくなって、本当に仲良くなった後でさえ、結局彼女には、私に対する羨望の念が隠れていた。
だから、私は、またもや異質者、異邦人、あるいは、根無し草だった。そんな時に出会ったのが、彼、リンだったのよね。
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「おい、何でお前、魔法なんか使えるの?お前魔族なんじゃねえか?」
「や、やめてくれよ。私は、ニンゲン族だ」
「うそつけ。ニンゲン族なら、せいぜい生活魔法しか使えないのが普通だって、かあちゃんが言ってたぞ」
「や―いやーい、魔族、魔族やーい」
「あ、こいつ泣きそうになってやんの」
「だ、だって、私はニンゲン族だし。それに、君たち、良くないよ。仮に百歩譲って私がニンゲン族でなかったとしても、他の部族を差別する行為は蛮行だって、先生だって言ってたじゃないか」
「は?何優等生面してんだよ。魔法以外何もできない落ちこぼれの癖に」
あの時、リンは、そうやって3人の同級生に囲まれて、悪態をつかれ、小突かれ、それでも、自分の信ずることを主張して抵抗していた。
「い、痛いよ。やめてくれ」
「バーカ。悔しかったら、お得意の火の魔法で俺たちを焼き殺してみたら?」
「そ、そんな」
「そうか。できないよな。だって、お前、泣いてるし、涙で火も点かないんだもんな」
「泣いてなんかないし」
「え?あ、そうか。魔法使えるやつは魔族だから血も涙もないんだったよな」
私は、見ていて怖かった。男子一人とだったらけんかしてもなんとかできるかもしれないけど、3人も相手だったら、分が悪すぎる。
でも、リンを見て、助けなきゃ、って思った。だから、言ったんだったわ。
「あなたたち、何やってるの?その子が苦しんでるじゃない」
「うわ、出たよ。そういう正義感の塊みたいなやつ」
「でもこいつ、あの帰星子女じゃね?あっちのクラスでちやほやされてるっていう」
「それが本当なら、クラスメートでも呼ばなきゃ何もできないお山の大将だろ」
「き、君は?これは私の問題だ。君を巻き込む理由はないし、下がった方がいい。この3人は、私のクラスのボス格で、この学校最大の不良グループのメンバーでもあるから…」
「うるせえよ。泣き虫魔族の分際で、偉そうに口きいてるんじゃねえ」
私は、もう怒りを抑えられなかった。
「まったく、本当に、ひどい話ね」
不良の一人が、言った。
「だろ?こんな魔族、早く死んじまえば良いのに」
「違うわ。あなたたちよ。流れる滝に洗われてきなさい。魔水瀑」
3人に、私が唱えた水魔法による水が降りかかる。
「は?そうか、お前も魔族だったのか。帰星子女なんてそんなもんなんだろうな」
「貧乳のくせに生意気だぞ」
「ボ、ボスに言いつけてやるから、覚えてろよ!」
そして、三者三様の戯言を吐き捨てて、彼らは逃げていった。
私は、一人うつむいているリンに言ったの。
「大丈夫?」
「私は、大丈夫さ。ありがとう、でも、君のことが心配だ」
「うふふ」
「何かおかしなこと言ったか?」
「いえ、あんなことされても、自分自身よりも相手のことを気に掛けるなんて、素敵だなって。
私は、2組のサラよ。あなたは?」
「リン。1組の、リン・アマカケだ」
「リン。いい名前ね。良かったら、お友達にならない?」





