レイ、ゴーティマvs監視辺境伯
ドラグーン伯がそう声をかけると、ポッドから、まず二人、レイとゴーティマが出てきた。
「今のでわかったわ。あなたの相手は、私たち二人で十分だと」
「しかり、勝てる、戦えば、二人で」
「…反乱軍副官レイ・ストーミーと、かつてのマハクグランドマスター、ゴーティマか。良かろう。その傲慢な鼻を、へし折ってやるまでだ」
その合間に、リンが降りて、レイとゴーティマに声をかける。
「そっちは任せたから。私は先にサラに会いに行く。片付いたら合流してくれ」
「そうね。私もサラに言いたいことはあるし」
「しかり、言わねばならぬ、我も」
そして、ドラグーン伯、レイ、ゴーティマのそれぞれの魔剣が何本も浮遊し、赤白いマコクの刃と、青黒いマハクの刃とが交わり始めた。
----
一方、サラは、精神を整えた後、趣味のラフートを吹いていた。
「これが、吹き治めになるのかもしれないのね…」
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれた。
----
リンは、その音色を、聞くというより、感じた。
サラらしさが出ている、ラフートの音色。ラフートは、こちらの世界でいうフルートに似た横笛で、吹きながら佇む彼女の優雅な姿は、今もリンの心に残っていた。
魔宙皇国皇女。思えば、彼女は、皇女の気品を纏っていた。
同い年の周囲よりも一歩大人びていて、その一方で純粋さを失っていない彼女。
彼女は、リンにとって全てと言ってもよい存在であった。そして、そんな彼女らしさが一番よく出る、あの音色…。
リンは、思わず感傷に浸りそうになった。
「…だからこそ、私が守らなくて、どうするんだ」
言いながら、彼は、前方の魔装機兵を結界で切り裂き、彼女のいる場所へと突き進んでいく。
----
「二人合わせてやっと、私と同じ本数の魔剣が出せる程度か。銀河級でも下位程度の実力しかないと見た。
この勝負、早いところ終わらせてもらうぞ!」
ドラグーン伯は、翼を使って浮上し、魔剣を操りながら、上空から炎を吐きかける。
炎は二人にグングンと迫る。
そして、いよいよ二人を焼き尽くすかと思われたとき。
突然、ゴーティマが笑い出した。
「ホッホッホ。飾りにすぎぬ、魔剣の数など。習わなかったのか、その程度のことも?魔力逆流」
そして、吐き出された炎は、ドラグーン伯の元に戻っていった。
「小癪な!だが、竜魔族たる私に、炎など効かぬわ。でなければとっくに口周りを中心に火傷してるからな」
「随分と小さいこと気にするのね」
「小さいことだと?お嬢ちゃんは若いから知らないんだろうが、口内炎になるとどんな美味いものも苦痛でしかなくなるんだぞ?
火傷で延焼起こしたら、焼肉もステーキも苦痛になるんだぞ?」
「そうなのね。お陰であなたの意識がそれて、助かったわ」
「何?」
ドラグーン伯が気付いたときは既に遅く、いつの間にか生成されていた結界の空中チェーンソーが、彼の翼を斬り落とした後であった。
「ウグッ、小癪な。翼など落としても、浮遊魔法で浮いていられるわ!」
「かもね。でも、痛みは確実に魔力を扱いにくくする。それだけで十分だわ」
「しかり。こちらの番だ、今度は。魔吸盤」
すると、光り輝く巨大なタコ足がドラグーン伯に巻き付く。
「こんなもの、結界で防げば…」
パリ―ン。
「ああ、魔力が、吸われていく、だと?私の、魔力が?」
タコ族特有の業である魔吸盤は、魔黒球と異なり、接触している対象の魔力しか吸い取れないが、吸い取った魔力を自身のものにできることもあって、中々強力な魔法であった。
ただ、普通に使う限りでは、強い魔物やマハク・マコク使いを倒すことができず、強敵と戦う際には、サポート技になる程度でしかなかった。
それを、マハク使いゴーティマは、「クラーケンの足」という異名が持つほど巨大化させ、強力な敵に対しても十分使える兵器に昇華させていたのであった。
無論、世界の魔力をもらい受けることによって。
そして今、その魔法に魔力を吸い取られていくのに抗えず、また一人、クラーケンの犠牲者が生まれたのだった。
「もう、虫の息のようね。トドメは、私が刺すわ」
レイがそう言って、結界を振り回すと、既に魔力を吸い取られて骨と皮だけになっていたドラグーン伯の首が落ち、彼の魔力は消失した。





