暗殺兵団長vs監視辺境伯
タイヨウ大魔王公邸に、見慣れぬ脱出ポッドが近づいていく。
それに気づいた砲撃担当の魔装機兵は、理論上脱出ポッドが適正である確率を検証した。
「脱出ポッド接近。ポッド接近予定の情報あり。予定乗員、識別コードAFX-112-3597-D0、一名。熱源スキャン。推定乗員、4名。
敵性である可能性、99.99%。撃墜可能性、99.93%。よって、砲撃シークエンスを起動します。
同時に、大魔王陛下への迎撃申告シークエンスも起動。大魔王陛下、現在休憩中。よって、代理者権限発動。
砲撃します。3,2,1…」
一筋の光が、ポッドに迫っていく。
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「別にこのポッドが壊れても、この距離なら生身のまま乗り込めるけど、そうすると完全に迎撃理由与えることになるから、一応防いでおくか。
サラも大変なんだな、先走る部下がいるということは」
そう、リンがつぶやくと同時に結界が展開され、光はそらされていく。
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「それが効く相手なら、初めからこの隙を狙っているというものよ。まあ、所詮辺境に回される旧式の魔装機兵に、対マハク戦を想定すること自体が過剰な期待というものだけど」
出迎える準備を整えつつ、サラは、そらされた光を見て、そうつぶやく。
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「迎撃失敗。目標、いまだ健在。
撃墜可能性、0.05%に修正。迎撃シークエンス、解除します。
邸内戦用魔装機兵に出陣準備を勧告。現在ドラグーン監視辺境伯指揮下にて自由行動不能の旨受信。
万策尽きぬ。これより、休眠プロセスへ移行」
砲撃担当の魔装機兵は、こうして休眠に落ちた。この情報が他の砲撃魔装機兵にも伝播し、やがて、タイヨウ大魔王公邸の対外攻撃システムは、完全に停止する。
結果、大魔王公邸側も、本来であれば使えたはずの長距離狙撃の代理者権限が公使されることはなく、宇宙海賊ガーゼインの艦隊と睨み合うだけとなったのであった。
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「諦めたようね」
「機械的な攻撃だと感じたが、機械でも諦めることってできるんだね」
気配を感じ取ってリンとレイが互いに確認し合うと、ムルリがポツリと口をはさんだ。
「皇国の魔装機兵は貴重な資産につき、撤退行動、休眠行動も学習しているのだ」
「負ける準備万端万端ってことね」
「より強い者が多数いるからだ。弱きが倒せぬ戦力は、強きが出て倒す、というだけのことだ」
「そうかしら?」
「陛下も、ドラグーン閣下も、強いからな」
「さて、着いたようだな。ムルリ、君が先に出ろ」
ポッドは、魔王公邸の離着陸ベイに入り、着地した。そして、ムルリは、震えながら、ポッドを降りた。
すると、それを待っていたとばかりに、ムルリの前、上方から、翼をはやし、全身を鱗で覆われたた男が舞い降りてきた。
男が、言う。
「皇国の恥さらしが、いまさら何をしに来たのだ?」
「お言葉ですが、閣下、私は閣下のように大艦隊を失ったりはしていませんよ」
「貴様、殺されたいのか?」
「いえ。大魔王陛下にお伝えしなければならないことがありますので。通らせていただきますね?」
「ならぬ。今のお前は、マハク使いに生け捕られた上に操られている、傀儡だ。お前を通せば、殿下に危険が及ぶ。
お前が通りたいなら、私を先に倒すことだ」
ムルリは、その半透明な体を一度大きく震わせて、言った。
「では、そうさせてもらいます」
そして、形を崩しどこかに流れていき、気配を消した。
だが、男は動じることなく、魔剣を起動して、壁の一角を切り裂いた。
「こんなぎこちない動きしかさせられないのでは、このスライムを殺してやれと言っているようなものだぜ?操っているお嬢ちゃん」
「それは分身体でした」
「何?」
男が振り向こうとすると、翼にチクッと痛みを感じた。
「終わりです。ドラグーン閣下。あなたに、竜族専用の毒針を刺しました。あなたの負けです」
ドラグーン伯は、向きかえり、半透明の楕円球を見ながら、ニヤリと笑った。
「そうか、お嬢ちゃんは、私を竜族だと思っていたんだな?残念ながら、私は竜魔族だから、ただの竜族向けの毒などちょいと痒いぐらいで済むのだけどな!」
そして、目を閉じ、虚空のある一点を魔剣で斬った。
すると、ドラグーンの目の前の楕円球は、崩れ、灰になってしまった。
「だが、今のは危なかった。お嬢ちゃんが私を竜魔族だと知っていたとしたら、本当に私の負けだったよ。
気配を注意深く読んで、本体を特定しなければいけない。それが基本なのに、分身体の気配が分かりやすすぎて、ちょっと油断してしまったからね。
だが、前座はここまで。そろそろ出てきたらどうだ?3人とも」





