傀儡魔法は踊り、踊らせる
「リン、ゴーティマ、早かったわね。でも、こっちも準備できたわ。ムルリ兵団長、言ったとおりの方法で、皇国軍に連絡を取って頂戴」
レイは、戻ってきたリンとゴーティマを見て、言う。すると、ムルリは、何かに操られたようにビクンと震えた後、魔宙船の非常用脱出ポッドがある区画まで動いていき、その一つの扉を開けた後、内部の通信装置を起動させた。
そして、震えながら、言う。
「こちらは皇国軍暗殺兵団長のムルリだ。依頼された件について緊急で話したいので、大魔王陛下につなぎたい。応答を求む」
すると、相手方は、何やら機械音声で返事した。
「兵士識別コードをお答えください。通信識別コード解読。民間商船の脱出ポッド内であることを確認しました。
再度お答えください。所属次第では、不適切な状況として、問答無用で攻撃します」
「AFX-112-3597-D0」
「AFX-112-3597-D0。識別します。スライム族・暗殺兵団長・ムルリ。登録された声紋パターンと一致。
情報を確認しました。ただいま、タイヨウ大魔王陛下に問い合わせます。しばらくお待ちください」
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「大魔王陛下、たった今、暗殺兵団長ムルリと識別される皇国軍兵士より、連絡がありました。受け取りますか?」
サラは、その機械音声の通信通知を受け取って、呟く。
「恐らくは罠ね。でも…」
そして、音声に対して答える。
「いいわ。つないで頂戴」
「かしこまりました」
すると、ムルリの音声が入ってくる。
「大魔王陛下、例の件について、緊急でお話したいことがあります。つきましては、魔王公邸内でお話しすることはできませんか?」
「やっぱり、貴公、誰かに操られているわね。この感じは…レイかしら?」
「大魔王陛下、お言葉ですが、ご質問にお答え願えますか?」
「やっぱり生け捕られたのね。で、どうなの?結果は」
「それについては、ですから、魔王公邸内でお話ししたいと思います。ここでは、傍受の危険がありますから」
「理論上は、最も優れたマハク・マコク使いなら、どこで話しても、その気ならいくらでも傍受ぐらいできるわ」
「とにかく、参ってもよろしいでしょうか?」
「いいわ。どのみち、この距離じゃ解呪しようにもできないみたいだし。強くなったのね、レイも」
「かしこまりました、陛下。では、今から参ろうと思います」
そして、通信は切れた。サラは、通信を切り替える。
「ドラグーン伯。余に連絡が来てな。敵は、ムルリを生け捕ったうえ、彼を操ってこの魔王公邸に侵入しようとしている。
来た連絡は、あからさまな罠だ。だが、余はこれに乗ろうと思う。向こうからくるのであれば、こちらはホームで戦えるのだからな。
貴公も、侵入に備えておくように」
「かしこまりました」
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一方、こちらはリンたち。
ムルリを連れながら脱出ポッドに乗り込み、魔王公邸に向かう途中で、ふとリンが言った。
「完全にバレてたな、レイの傀儡魔法がかかっていること」
「お、織り込み済みだわ」
「おかげでかみ合わない会話が聞けて、なかなか面白かったよ」
「そんな言い方はないじゃないの、リン?」
「悪かったな。でも、レイ、ゴーティマ。これでわかったろ?サラは強い。気を引き締めていくぞ」
「それは、そうね」
「分かった、我も」
「向こうには強力な気配が二人分存在する。雑魚は来たら適当に片づけるとして、私はサラの相手をするから、レイとゴーティマはもう一人を頼む」
「「了解」」
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「よろしいのですか?ガーゼイン様」
「ああ。アイツらに倒せない敵は、アタイじゃどうにもならない。だから、アタイにできるのは、見守ることだけさ。それに、むやみに艦隊から攻撃すれば、かえってアイツらを危険に晒すことになっちまうし」
こうして、母艦ブラックタイガー率いる宇宙海賊は、ひたすらタイヨウ大魔王公邸と睨み合って、ことが済むのを待つことになったのであった。
(姉御の愛する男に惹かれているから、分を意識して一歩身を引いて頭を冷やしてるだなんて、死んでも言えないっての。だけど、死んだら許さないからね、リン)





