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それぞれの交戦前夜

 敵地に向かうにあたり、リン、レイ、ゴーティマは、ガーゼインから提供された魔宙船で、作戦会議を開いていた。

 ちなみに、ガーゼインは、


「アタイの母艦の方が艦隊全体の指揮がしやすいからアタイはそっちに行く。

 アンタらには別の艦船を提供する。

 艦隊の指揮はアタイに任せといて、アンタらはアンタらの必要と思う攻撃のために、それを使いな。艦隊戦で必要な作戦は、アタイに連絡してくれれば、後はこっちで何とかしとく。

 アタイの母艦ブラックタイガーは、アタイら宇宙海賊の象徴であるから、たとえ姉御の仲間であっても、軍人を入れる訳にはいかないのさ」


などと赤面しながら早口で言って、一人母艦に戻っている。


「敵軍の構成は、生け捕ったムルリから大体読み取ったわ。

 規模は約50隻、中央にタイヨウ大魔王公邸が配置されている球形の布陣ね。

 対する私達は、せいぜい20隻ちょっと。倍以上の戦力を相手にすることになる。難しいわね」

「そうでもないかも」

「え?」

「私とゴーティマで、皇国側の魔宙船を、内部から破壊する。幸い、転移は分解に比べてかなり楽にできそうだからね。

 その間に、レイはムルリをうまく使って、大魔王公邸に皇国側のふりをして入り込めるか試して、準備が整ったら伝えてくれ。

 私達は合流して、皆で大魔王公邸に侵入する。後の艦船は、艦隊戦に慣れている宇宙海賊のガーゼインに任せておけば、大丈夫だろう。

 あのブラックタイガーには、何やら秘密兵器が隠されているようだし、彼女も伊達に宇宙海賊をやっている訳ではなさそうだからね」


----


 ガーゼインは、母艦ブラックタイガーの艦長室に閉じこもり、一人考えていた。


 ニンゲンの癖に、アタイより強いなんて。アタイは、あんな子どもなんか好きじゃないんだから。

 なのに、何なのよ、何でアタイは、こうして反乱軍に協力しちまってるのさ?

 姉御のため?ご先祖の救世主様かもしれないけど、それにしても宇宙海賊のアタイらは生き延びることが最優先。せいぜい一貫だけ貸しておしまい、が相場だろうさ。

 アタイらの魔宙船を全部、しかも大魔王公邸クラスを含む、アタイらの倍以上の規模の皇国艦隊に差し向けるなんて、アタイはどうかしてるわ。


 ティグルは何も言わずに納得してくれたけどさ、なんか地味にニヤついてたし。

 何なのさ?アタイは、どうかしちまいそうだよ。とりあえず、リンから一度離れて良かった。あのままアイツと一緒にいたら、アタイは本当に狂っちまってたわ。


 はあ…。言っても仕方ないよな。

 とりあえず、大魔王公邸に乗っているサラにリンたちは用があるんだろ?

 いきなりブラックタイガーの最終兵器で一掃したいけど、あれは強力過ぎる。大魔王公邸すら壊しちまうだろう。

 そうなったら…。ああ、あの殺気、何なのよ、女を想った結果としてのあんな殺気、カッコ良すぎて、怖さ以上にそっちでぞくぞくしちまう、ってのさ。

 でもその分、分かっちまうんだよ。次は、本当にないだろうって。だから、壊しちまったらダメだ。大魔王公邸にリンが入れるようにするしかない。


 そうなると、久々にあれやるか。乗り込み戦法。

 敵船への転移は、感じられる相手の魔力抵抗の強さがこのレベルならどうにかできるはずだから、内部破壊を進めちまおう。

 そうして、一隻残らず使い物にならなくしちまえばいい。


 となると…。


 ここまで考えて、彼女は、通信モニターを起動し、ティグルを呼び出した。


「ティグル。敵の数減らしも兼ねて、久しぶりにアタイは、乗り込んでやろうと思う。とっておきのあの魔銃を持ってきてくれ。

 アタイがいない間の艦隊の指揮は、アンタに任せたよ」

「承知しました、ガーゼイン様。しかし…」

「魔動砲は、威力が高すぎる。アマカケの末裔たちは、大魔王公邸に用があるみたいでさ」

「まさか、鹵獲しようとでも?」

「さあな。お偉い方の考えることなんて、いつも訳分らんからね。ただ、確実に言えるのは、アタイらが大魔王公邸を消し飛ばしちまえば、それだけでアタイらはアマカケの末裔にまとめて消されるってことさ」

「そんなに強い訳…」

「あるんだよ、それがさ。とんだ英雄だけど、確かにありゃあ英雄の器だったわ」

「そうですか。承知しました」


 そう言ったティグルが、また何かを見透かしたかのようにニヤけたので、彼女は通信を斬って、ため息をつくのだった。


----


 その少し前、タイヨウ大魔王公邸。


 その一室で、ドラグーン監視辺境伯は、艦隊指揮を委ねていた部下の男から、連絡を受け取っていた。


「ドラグーン監視辺境伯閣下、チキュウより発進する艦船部隊があります。件の武装商船ども、やっぱり反乱軍の一味だったようですね」

「せっかくネズミに過ぎないからと見逃してやったのに、奴らは竜の温情を理解できないようだな」

「どうしますか?」

「できるだけ引き付けてから、一気に殲滅しろ。殿下に反乱軍の敗北を、しかと見せつけてやるのだ。詳しいやり方は、任せるぞ」

「了解しました、閣下」


----


 そのタイヨウ大魔王公邸の別の一室。


 黒髪でスレンダーな容姿の美少女が、一人目をつぶり、表情を目まぐるしく変えながら、かみしめるように何か言っていた。


「感じたわ。リンの確かな愛を。私のことを悪く言う人は許さない、という純粋な正義の殺意。

 私だって、あれぐらい愛しているのに。皇女だから、どうしても大賊の末裔と呼ぶしかない。

 少なくとも、臣下の前では、あんな風に素直にはなれない。

 パパだって、あんな親バカだし。

 あなたにしか打ち明けられないのに、そのあなたは敵なのよね。つくづく悲しい運命だわ。

 それにしても、リンには、もう一人強い仲間が増えたようね。

 ドラグーン伯が見逃したと報告した、例の武装商船は、多分宇宙海賊の類だったんだわ。それも、皇国軍艦隊を相手取れるぐらいに熟練の。

 監視辺境伯の割には、見る目がないのね。戦った感じからしても、力だけでのし上がった口なんだろうけど、それにしても彼の目の節穴ぶりはひどいものだわ。戦争が終わったら左遷するよう、パパに言っておかなくちゃ。

 えっと…、後は、ムルリが失敗したことも、何となく感じられるわね。何故かリンたちと一緒にいるみたいだし、生け捕られたのかしら?

 そうなると、どうやらリン以外の敵も、そう簡単には倒せなそうね」


 サラは、ドラグーン伯が見逃した猛虎の脅威を、しっかりと感じ取っていた。

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