(仲間になりたそうにこちらを見てなんかいないのに)気取られたスライム
今回は、いつもより若干長めです(と言ってもなろうの一話としては軽いはず)。
(あの宇宙海賊ガーゼインまで合流したなんて、聞いてないぞ…)
皇国軍暗殺兵団長ムルリは、内心焦っていた。
うまい具合に気配を消して、反乱軍総本部に侵入したところまでは良かった。
だが、そこで見たのが、本来3人しかいないはずの空間に、4人目、眼帯にビキニアーマーで、皇国兵なら見間違えようもない、トラ族の宇宙海賊の姿もあるという状況である。
しかも、4人全員が、それぞれ気楽そうに見えながら、攻め入る隙も見出せない。
(しかし、ここで倒せなければ、任務は失敗だ)
ムルリは、そうも思う。
何故なら、彼は、4人が早速大魔王公邸を攻撃しようとしているのを聞いてしまったからだ。
敵が魔宙船に乗り込んでしまえば、仮に自身もうまく潜り込めて、ことを果たしたとしても、脱出経路を失ってしまう。
一応脱出ポッドの一つぐらいはある可能性も高いが、逃げればすぐに発覚し、撃ち落とされる羽目になる。
かといって、戦いが終わるまで暢気に構えていれば、任務が戦いの前に成功したことを証明する術がなくなってしまうので、やはり任務の趣旨を果たせなかったこととなる。それ以前に、友軍に消される可能性もあるのだが。
だから、結局彼らが魔宙船に乗り込むまでしか、猶予はないのであった。
(イチかバチか、仕掛けるか?)
しかし、かといって仕掛けたところで、隙がないから失敗する公算の方が圧倒的に大きかった。
(どうしたらいいものか。こんな依頼、受けるんじゃなかった。脱走して、気ままに辺境セカンドライフでも送るか?いや、そんなことしたら一生元同僚に狙われることになる。
それなら、いっそのこと、正直に申し出て仲間になるか?
だが、大陛下のことはまだしも、神々しいサラ大魔王陛下を裏切るのも忍びない。
ああ、私は、どうすればよいのだろうか…)
そんなこと考えていると、リン・アマカケ、アマカケの末裔とされる男が、突如言った。
「ところで、さっきから、誰かに見られている気がするんだけど、気のせいかな?」
「感じていた、我も。いる、誰かが、この中に」
「やっぱりそうか。えっと…こっちだな」
そして、リン・アマカケは、ムルリの方へとスタスタと歩いて向かってきた。
(いやいやいや、何でバレてるんだよ?おかしいだろ。仮にも私は、皇国軍暗殺兵団長、宇宙一の暗殺者だぞ?)
ムルリがいよいよ焦っていると、リン・アマカケは、
「あ、今ここが何か震えた。ちょっと掴んでみるか」
と言う。
(くっ、ここまでか…。サラ陛下、申し訳ありません)
そして、ムルリは、腹をくくって、元のスライムの形になって、リンの前に姿を見せた。
「ふむ。やっぱり生きてたんだね。君は?」
「姿を見せてしまった以上、ただの失格者だ」
すると、金髪碧眼の少女、レイ・ストーミーがムルリに迫ってきて、言う。
「スライム族ね。暗殺者の類かしら?リンを狙ったの?」
「失格者と言えども、矜持がある。話すわけにはゆかぬ」
「じゃあ、読み取るだけよ」
そして、レイは、ムルリに手をかざして、目をつぶった。
数秒が経ち、深く息を吸ってから、レイは言った。
「やっぱり、こういうこともできるのね、マハクの力を使うと。世界の魔力を読む要領で、生命の魔力から、ある程度まで情報を読み取ることもできる。
初めて試してみたけど、結構使えるわね。
そう思わない?ムルリ皇国軍暗殺兵団長さん」
「私は、何も言ってないぞ」
「そうね。で、今回のターゲットは、ゴーティマだった。宇宙魔皇は、どうやら彼女が今も生きていることに気付いたみたいね」
「ペラペラとよくしゃべる。劇作家にでもなった方がいいんじゃないか?お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんと呼ばれるほどの育ちではないわ。あなたが尊崇してやまないサラとは違って」
「貴様、大魔王陛下を呼び捨てにするとは…」
「あら、認めるのね。皇国軍の手の者だと」
「こ、小娘が…」
「まあ、いいわ。で、このムルリ、どうしようかしら?」
すると、いつの間にか間合いの距離に入っていたガーゼインが言う。
「姉御を狙う奴は、即刻処刑でいいんじゃない?少なくともアタイは、それだけでアンタを許せないからさ」
対し、狙われた当のゴーティマは、目をつぶり、しばらく何か考えていたようだったが、クワッと目を開いて、言う。
「感じる、迷いを、彼の。嫌いなのだろう、皇国が」
「そうね。彼の忠誠心は、宇宙魔皇ではなく、サラにあるようね」
「だから、サラなどと軽々しく呼び捨てに…」
「そう言われても、私はサラの親友だからねえ」
「し、親友?貴様、反乱軍に籍を置きながら、何を言うか!」
「それに、サラは、リンの彼女でもあるわ」
「はあ?あの大賊アマカケの末裔の?
もう何でもいいや。こんな妄想聞かされるぐらいなら、一思いに殺してくれよ」
「じゃあ、とりあえず生け捕りってことでいいわね」
「いや、だから、殺せって」
「だって、私達の言葉が妄想か、サラ本人に聞いて確かめたいんじゃないかしら?」
「くっ…」
「という訳で、そういうことで」
「アタイは、アンタと姉御がそう言うなら、我慢するけどさ。
それよりも、リン・アマカケ。サラの件については、ちゃんと話してもらおうか?アンタ、姉御のような素晴らしい女性を侍らせておきながら、敵の女に惚れてるってことなのかい?」
「今は確かに陣営の上では敵対しているけど、サラとは戦争前から付き合っていたしね。だから。確かにサラのことは愛している。皇女だろうと、何だろうとね。
だけど、だからこそ、究極的には敵じゃないとも、思っているんだ」
それを聞いて、ガーゼインは、大きくため息をついて、言った。
「…全く、アンタはとんだ英雄だわ。姉御も大変な相手を選んじまったな。ご苦労なこった」
「そういうところがいいんじゃないの」
「しかり。良いのだ、そういうところが」
「そりゃあ、女としてはそういう人に愛されれば最高だろうけどさ、アタイは愛されないのに愛するのなんて、つらくて耐えられないよ。
宇宙海賊には、しょっぱい姿は似合わないっての。フン」
「あら、ガーゼイン、ちょっとウルウルしてないかしら?」
「し、してないからな!アタイは、永久の一匹狼。アタイを従わせるのは、姉御だけなんだからな!」
「ホッホッホ。可愛いな、ガーゼインは」
「あ、姉御まで、アタイをからかわないでよな!」
ガーゼインが赤面したところで、リンは咳払い一つして、言った。
「みんな、仲が良いのは構わないけど、そろそろ気を引き締めようか。これから敵地に向かうんだから」





