ツンデレガーゼイン、うっかりリンの地雷を踏みぬく
そのガーゼインの言葉を聞いて、リンは言う。
「そう。それなら、今からゴーティマも一緒に連れてタイヨウ大魔王公邸に行こうと思うから、必要な助けは任せたよ」
あまりに唐突な申し出を、サラッと言われたことで、ガーゼインは一瞬硬直した。
「は?アタイらは辛うじてあの艦隊から逃れたばかりなのに、助けたりなんてする訳ないっての。アンタ、正気かい?」
「ああ。繰り返すけど、ゴーティマも一緒に行くからね」
「姉御をダシに使うなんて、アンタ、アタイらよりも汚いやり方するんだね。英雄の名が泣くってものだわ」
「別に、宇宙海賊を正規軍の枠に縛る気はないからね。君たちを動かすには、自発的に、従うのがベストだと思わせるしかないだろ?」
「そう。それなら、見返りは?」
「は?」
今度は、リンの表情が固まった。
「アタイらは海賊。たとえ姉御を守る目的でも、何の見返りもなしには動けないっての」
「何が欲しいかによるけど」
「そうね…。この戦争が終わったら、アンタと姉御が、アタイらをリーダーとして引っ張ることを要求するわ。
姉御はトラ族の救世主様だし、アンタはその姉御が認めただけの器だってんだから。アタイたちを導いて、新たな宇宙海賊のリーダーになってくんない?」
「え?」
「だって、こんな辺鄙なところじゃ金になる資源も取れっこないし、アタイらはせめて強いメンバーでも引っ張ってこないと。皇国軍にも連邦軍にも潰されたくないからね」
すると、レイが口を挟む。
「どう見てもあなた、ツンデレね。ガーゼイン」
「は?」
「あなたは、正直な話、ゴーティマが認めたリンにも、興味があるんでしょ?」
「そ、それは姉御のためなんだからね!姉御たちタコ族は、認めた男にベタ惚れする習性があるからなんだから!アタイが引っ張りたいのは姉御だけだけど、それじゃ姉御がかわいそうだからついでに誘っただけなんだから!」
「真っ赤になっちゃって。トラ族の女性も、強い男が好きなんだもんね。リンの強さを、感じ取ったんでしょ?」
「ふ、フン、姉御がそう言ったから、強いんだろうと思っただけさ。こんなひよっ子のニンゲン族にそんなに期待できるかい?普通」
「まあ、いいわ。どっちにしても、この反応だったら、既に交渉は成立している、と言って良さそうね」
「あ、アンタ…。はあ、アタイは、こんな若い小娘にも押し負けるのかい。落ちぶれたものだわ」
「それじゃ、そういうことで、任せたわ、ガーゼイン。後、私は小娘じゃなくて、レイよ」
「フン。アンタは、姉御の男に決まっているリンにくっついた悪い虫だから、どこまでも小娘だってのさ」
「えっと…、それなら、多分一番の悪い虫は…」
「サラだな、レイではなく。想っているのだ、リンは、彼女を」
「は?姉御のことよりも強くかい?」
「そうだ。彼女だけだ、愛しているのは、彼が」
すると、ガーゼインの怒髪が立つ。
「そのメスブタ、アタイが始末してやるよ。どこにいるんだい?」
そして、魔銃に手をかけようとしたが、ゾクリと悪寒が走って、そのまま硬直した。
気付くと、リンが、驚くほどの殺気を放って、いつの間にか起動していた5本の魔剣の刃を、手足と首に突き付けていた。
リンは、言う。
「私のことは、何とでも言うがいい。だがな、サラを侮辱することは、この私が許さない。次は、たとえ君が一番の宇宙海賊だったとしても、逃げ込んだ無法地帯ごと滅ぼしてやるから、そう思うことだ」
ガーゼインは、思わぬ殺気、実力を垣間見せられて、冷や汗を流しながら、言った。
「分かったよ。女をそこまで愛せるアンタは、確かに英雄の器さ。
でも、代わりにアンタも約束してくれ。姉御を、たとえ愛せないとしても、大事にすると」
すると、リンは、魔剣の刃をしまい、それらを身に戻して、ニッコリ笑って言った。
「彼女のことを悪く言いさえしなければ、ゴーティマも、そして、ガーゼイン、君も、私の大切な仲間だよ。
命令する気はないが、今の我々の敵は、皇国で共通している。共に、戦ってくれるな?」
「いいよ。こうなったら、とりあえず大魔王公邸を落とすまでは、アタイらもご一緒させてもらうさ。その後のことは知らんけどな」
「助かる。それなら、早速、艦隊編成を整え直して、出向くとしようか」





