タイヨウ大魔王、その名は
タイヨウ系の某所。サラの前に、それぞれに特徴的な二人が跪いていた。
そのうちの一人、うろこに覆われた体を持ち、背中から羽の生えた男が、言う。
「お会いできて光栄です。皇女殿下。
あるいは、こうお呼びしましょうか?タイヨウ大魔王陛下、と」
「余はいずれでも構わぬ」
「では、敢えて殿下とお呼びしましょう。既にどこかの星を失われたようですが、それでも皇女であることには、お変わりありませんからね」
すると、もう一人、半透明の楕円形をしたスライムが、隠し切れぬ怒りに震えながら言う。
「いくらなんでも殿下に対して、無礼が過ぎませんか?ドラグーン監視辺境伯閣下」
「爵位もない兵団長風情に何が分かる。長く誇り高い魔宙皇国の歴史の中で、失地がどれほどの失態か分かっておるのか?
ここ数百年間なかったことだぞ?」
「お言葉ですが、ドラグーン閣下も、管轄域でいくつかの星を失われたと聞いております。
しかも、サン・キラーをボラサン星系に対して使用したことで、反皇国の機運をかえって高めてしまったではありませんか?」
「貴様、あれは大陛下の命令だったんだぞ?」
「静まりなさい。二人とも。
確かに大陛下は、余に悪い虫がつくことを気にするあまり呪いをかけたりするなど、過激かつ過敏なところがある。
が、仮にも余の父上であり、この魔宙皇国の元首であるということを忘れぬように。
大陛下が何か失敗したとしても、それをなかったことにするのが、我々の務めであろうに」
「仰る通りです。さすがは大魔王陛下になられるだけのことはあります」
「それでご自身の失策がなくなるわけではないのですよ、殿下。ですが、心配はいりますまい。この私、宇宙に名を轟かせるドラグーンが、必ずや逆族どもを打ち取って進ぜましょう。
殿下は安心して、ご趣味のラフートでも吹いていなされ」
「貴様、…」
「良い。ムルリ暗殺兵団長。ドラグーン伯の言うことに理がないわけではない。余の分身体が倒されたことで、チキュウが敵の手に渡ったのは事実だからな。
二人のことは、既に大陛下から聞いている。
それぞれの務めを果たすように。だが、かの大賊アマカケの末裔は、可能なら生け捕って、余の前に連れてくること。余は、直にチキュウでの失態を取り戻したいと思っているのでな」
「そんな悠長なことをおっしゃるから倒されたのでしょう?殿下。
お言葉ですが、大陛下の右腕とも言われるこの私よりもお強いとでも?
大賊の末裔が殿下の前で暴れたら、いくら私でも殿下の身の安全は保障できませんぞ?」
「貴様、どこまで殿下に無礼を働けば…」
「良いであろう。ドラグーン伯よ。余の力を、試してみるか?」
「望むところです。本気の訓練である以上、泣いても手加減はしませんよ。殿下」
「力強い言葉だ。期待しているぞ」
「大魔王陛下、本当によろしいのですか?」
「ムルリ兵団長。心配は無用だ。余は、きっと彼に勝って見せよう。その間に、為すべきことを為してくれ。頼んだぞ?」
そう言って、サラは、ニッコリと笑った。それに対して、スライムは、今度は感動に震えながら、答える。
「仰せのままに」
これは、親バカにもなろう、神々しく威厳ある容姿だと、秘かに思いつつ。
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タイヨウ大魔王公邸は、宇宙ステーションですらなく、一つの大きな魔宙船である。
これは、治安の悪い辺境の星系で、星系レベルの事件がいつどこで起こっても、大魔王自らが陣頭指揮をとれるようにするためと、位置を固定せず、大魔王公邸が攻撃されにくくするために、初代宇宙魔皇によって導入された策であった。
このような策は、場所によっては、銀河レベルで採用されており、銀河魔帝公邸が移動するケースも存在する。
なお、大魔王公邸ともなると、転移防止結界、侵入防止結界も惑星レベルの魔王公邸より頑強になり、かつ公邸自体に防衛兵器が搭載される。魔帝公邸は、言うまでもなく、全ての機能が更に一段向上する。
このため、魔宙船型公邸は、そのまま、一つの宇宙戦艦といって良い姿になっており、かつそれだけの機能を有しているので、サン・キラーと並ぶ、魔宙皇国の恐怖の象徴となっていた。
今は、その公邸を更に取り囲む大艦隊が、宇宙の一角を黒く染めており、公邸内部から見るサラからしても、中々に恐ろしいほどの姿になっていた。
この大艦隊は、ドラグーン監視辺境伯直属部隊で、先の魔王戦のように容易に公邸に侵入される事態を阻止するために送られたものであったが…。
これによっていよいよ大きな戦火は不可避だと悟り、サラは、二人を下がらせた後、秘かにため息をついた。
だが、物憂げな気分のままでいる訳にも行くまい、時を取り直して、ドラグーン伯の相手をすべく、訓練場へと向かっていった。





