ゴーティマの本気
訓練場で、ゴーティマは言う。
「道具にすぎぬ、魔剣は。作れる、道具無しでも、魔力の流れは。打ってみよ、リン、レイ、我を、魔剣で」
「え?」
「打ってみよ、いいから」
「あ、ゴーティマ、結界を張ったな?」
「リン、感じ取れるの?」
「ああ、レイ。多分、結界を作る要領で、魔剣無しで魔力の剣をイメージせよってことなんだ。こんな感じで…。エイッ!」
パリ―ン。
「え?…リン?」
「やっぱり、斬れたか。大丈夫。ゴーティマには当ててないから」
「いや、そうじゃなくて…」
「ん?」
「また、ゴーティマのタコ足がめくれてるんだけど?」
レイが、闇を含んだ微笑を浮かべてリンをにらむと、リンは、その様に気付き、やや狼狽しながら言う。
「あっ…。勢い余ったみたいだね。悪かったよ、ゴーティマ」
だが、それ以上に狼狽している様子なのは、めくられて赤面しているゴーティマであった。
「に、二度も、一日で?初めてだ、こんなこと、1200年の人生で。しかも、飛びすぎだ、結論まで、一気に。なくなるだろう、教えることが、我の」
「そんなことはないさ。少なくとも1200年の人生経験は私達には再現できないしね。
とりあえず…レイもやってみ?」
「イメージするのね…。あ、こんな感じか。でも、これは使えないわね、見えない魔剣なんて、絵にならないから」
レイは、また謎めいたことを言う。それを聞いて、リンは尋ねる。
「絵?」
「いつものあれよ…私にもよく分からないけど」
「異世界の声、か。でも、まあ、強ければいいんじゃないの?戦争になってしまった以上、勝たなくては意味がないんだからさ」
「光の反射とかで何とか表現すればいいのよね。後は画家の技量の問題だわ」
「また、異世界視点の声?」
「そうね、何でもないわ、気にしないで」
そう言ったところで、ゴーティマが、驚きを隠せない表情でレイを見つめて、言った。
「待った、レイ。聞こえるのか、異世界からの声が?聞こえぬのに、我にも」
「私にも、よく分からないわ。ただ、時々、ふと意味が分からないセリフを口走ってしまうのよ。それを、仮に異世界からの声ということにしているの」
「二人もいるのか、天才が、我を超える。末恐ろしいものぞ、アマカケの末裔と、その仲間とは」
「そうね。そうしなければ、リンに釣り合う存在にはなれないから」
「更に強くならなければ、我も。ぶつけてみよう、一度、我の本気を。受け止めて見せよ、リン、レイ」
そう言うと、ゴーティマは、一気に、1200歳にふさわしい老婆の姿へと変貌した。
「え?年を取った?」
「でも、確実に、魔力は増したようね。…若作りに割いていた魔力を、余さず私達の鍛錬用に使う、というところかしら?」
「聡いな、流石に、レイは。その通りだ。行くぞ、二人とも」
そして、ゴーティマは、気配を消した。すると、リンが目を閉じて、言う。
「なるほど。さっきよりも格段に速いし、気配も薄い。本気になると、能力は三倍増しというところかな?」
「え、リン、感じ取れるの?」
「何とかね。ちなみに、このモードのゴーティマは、長続きしない。しのげば勝ちだろうから、今はとりあえず防いでいる。レイに向かう刃も含めて」
「しのげば?」
「ゴーティマは、既に本来の寿命よりも大分長く生きている。そんな中若作りに割いている魔力を戦力に回すことは、長くやり過ぎると、それだけで死にかねない危険な本気なんだ。
だから、これは感じられるだろ?一気に仕留めようとする焦りの感情は」
「…言われてみれば、何か切羽詰まったものは感じられるわね」
「その分、まともに戦えばかえって危険だが、受け流す分には単調で、どうにでもなる訳さ」
「そうなのね。私は、リンと同じくらい強くなれるかしら?」
「レイは、私よりも賢いから、その点でいつも助けてもらってるじゃないか。
さて、そろそろ終わらせるか、そこだ!」
言うなり、リンは魔剣を起動し、ある点に向けて突き出した。
すると、刃を寸止めされたゴーティマが、気配を戻して、言った。
「ホッホッホ。伊達にめくったのではないな、二度も、我のタコ足を。負けだ、我の。成す術がないな、原理まで見抜かれては」
そして、光がゴーティマへと集まり、彼女は、元の若い女性の姿に戻った。
それを見て、レイは、言う。
「やっぱり絵にならないわ、これも。あんなにきれいな人をお婆さんに変えちゃうなんて、作者は頭がおかしいのね」
「我だ、おかしいのは。逆らっているのだから、自然の摂理に。気にするな、だから」
「なるほど、レイ、その作者とやらは、異世界から干渉する力を持つマルチバース級のマハク使いなんだな。きっと強いのだろう。だが、私は越えてみせるぞ。サラのために」
「そこなの?私の感じる異世界の声じゃなくて?」
「ホッホッホ。楽しいの、こうして話すのは」
レイは、それぞれに感覚がずれている自分たちの先行きを案じて、秘かにため息をつくのであった。





