気配遮断は強さのために(スカートもタコ足もめくってはいけません)
気配遮断をかけたゴーティマは、フッと消えてしまった。
少なくとも、レイにはそう見えたので、言う。
「リン、ゴーティマ姉さん、消えたよね、今?」
「…そういうことか。レイ、消えてはいないよ。ゴーティマ姉さんは、世界の魔力の流れに限りなく自分自身を同化させたんだ。
その結果、気配が消えた…否、弱まったように感じているんだよ。
世界そのものに近づければ、確かに最強も近づく。だから、気配遮断には、確かに意味があるみたいだね」
「リン、…そういうことじゃないと思うわ。多分、それはちょっと発想として違ってる」
「どこが?結局は、強くなるための手段なんでしょ?それよりも」
と言って、リンは、宙をつかんだ。
「さっきからめちゃくちゃに私の頭を撫で回しているの、やめて欲しいんだけど、ゴーティマ姉さん」
「気付いてたのか、瞬時に原理を見抜いたのみならず、本当に、我の気配に?」
「いや、あんな風にしてたら、気付いてくださいって言ってるようなもんだと思うけど?」
「グランドマスターと呼ばれてこの方1100年、初めてのことだ、気付かれたのは、我が。撫でたくなるだろう、可愛い弟分、妹分は?」
そして、気配を戻したゴーティマは、リンに掴まれた腕をそっと振りほどいて、ニッコリと笑う。
「か、可愛いって…。男の子に言うと、結構傷付く言葉なの、知ってる?ゴーティマ姉さん」
「青いな、まだまだ、宇宙の英雄も。照れないの、ほら。もっと撫でようか、我が?」
「…私は蚊帳の外なのね。リンばっかり、ずるいわ」
「おっと、済まなかったな、レイ。ほれ、よしよし」
すると、レイは、突如ゴーティマに抱き着いた。
「本当に、お姉さんみたいだわ、…だから、少しだけ、こうさせて」
「ホッホッホ。当たり前だ、人生の姉さんだからな、悠久の時を生きた我は。
時に、寂しい思いをさせていないか、レイに、リンは?」
「え?」
「知らない訳ではなかろう、リンは?彼女の、想いを」
「…何でもお見通し、か。ゴーティマ姉さんは伊達に1200年を生きてきたわけじゃなさそうだね。
一つ、試してみるか」
そして、今度は、リンが、気配を消した。
「お、おい、ないだろう、それは。…というか、感じられぬぞ、お主のことを、この我が。
逃げたのか、空間転移して?いや、まさか…」
ゴーティマが驚いていると、突如ゴーティマの腰回りのタコ足がふわりと持ち上がった。
「こ、これ、タコ足めくりするでない、我の。スカートではないのだぞ、タコ足は」
ゴーティマが赤面する。すると、リンが、気配を戻して現れた。
「悪かったな、ゴーティマ姉さん。でも、姉さんと呼ばせる割にはウブなんだね。
めくっても何も見えないことは、お互い分かっているはずなのに。
ゴーティマ、ってシンプルに呼んでもいいかな?」
「バ、バカ…。女殺しか、お主は、あの大英雄以上の。…留めよ、我を、1000年の想いよ…」
「嫌ならやめとくか?ゴーティマ姉さん」
「い、いいぞ、ゴーティマと呼んでも…。強き英雄よ」
「了解、ゴーティマ」
そして、リンは意地の悪い笑みを見せて、言った。
「これで、レイが寂しい思いをすることもないでしょ?頼れる姉御肌のお仲間がいれば…」
レイは、色々悟ったため息をついて、言う。
「これは、ゴーティマ姉さんの負けね。
タコ族の女性は、普段から迫る男たちにタコ足をめくられないように防いでいるけど、言い換えれば、その防御を突破してめくってくれる強い男性を求めている。
昔、学校で習ったわ。
そしてそれ故に、いくら魔力で気持ちを制御していても、タコ族は、ああまで見事にタコ足めくりされたら、受け入れない訳にはいかない。
強力なマハク使いの姉さんも、もうリンの魅力に抵抗できないのよね。それは、よく分かることだわ。
でも、リンは、サラただ一人を愛してるのよ、残念ながら」
「サラ?」
「私の親友にして、魔宙皇国の皇女でもある、サラ・ラーシャ。ニンゲンと魔族のアイノコで、向こう側じゃなければ文句なしにいい子だわ。
だから、色んな意味で、私には勝てそうにないのよ」
「罪だな、リンは。放っておくとは、1200年の英知の結晶たる我のみならず、こんなに可愛い子さえをも。
張るぞ、共同戦線を、レイ」
「…私も、ゴーティマと呼んでいいのなら」
「いいぞ、よしよし。見えるぞ、我には。こんなかわいい子と二人でかかれば、リンが振り向かぬ未来はないことが!」
「フッ、そうね」
レイは、同じくリンに届かない身であるゴーティマの想いを知るだけに、こうして自分を励ましてくれることをありがたく思い、少しだけこぼれそうになる涙を抑えて、寂しく笑った。
すると、ゴーティマは、ハッとして、勢いよく頭を振りながら、言った。
「って、脱線してしまった、この我としたことが。行うぞ、次の修行を。気配遮断については、学べばよいであろう、我よりもうまいリンから、レイは」





