ゴーティマ…姉さん(1200)
レイは、その声を聴いて振り向く。すると、そこには、タコ族の、若い女性らしき人かが立っていた。
「あなたは?」
「ゴーティマだ、我は。会いに来た、アマカケの末裔に。導き教えるために、マハクの道を」
「レイです。あなたは、マハク使いなんですか?魔力を感じませんでしたが…」
「ホッホッホ。マハク使いだな、お嬢も。するか、手合わせを?」
言うなり、ゴーティマは、魔剣を一本だけ起動させた。
「どうやら、戦わない道は選ばせてくれないようですね。それでは、遠慮なく」
そして、レイは、二本の魔剣を浮遊させ、刃をゴーティマに向けたが…。
ガキン。
刃は、音がして、見えない壁に弾かれた。
「魔剣を防ぐ結界?」
「結界だ、確かに。だが、それだけではない、これは」
「え?」
そして、レイは、見えない刃が、自らの首筋に当てられているのを感じた。
「刃にもなる、こうして。若き使い手よりも多い、知っていることが、我は。だから、教え導きに来た、アマカケを。会わせてくれるか、お嬢?」
「は、はい…」
レイは、内心冷や汗をかきながら、とんでもないマハク使いが来たものだと呆れたのであった。
----
リンは、感じた。強者が来る。
すかさず、身構えた。
すると、レイが、タコ族の女性を連れてやってきたところだった。
「強いんですね。感じましたよ。レイ、その方は?」
「ゴーティマさんよ。マハク使いで、私達を教え導きに来たんだとか」
「感じたか、気配を、我の。初めてのことだ、この1100年間で。流石、あのアマカケの末裔だ」
「1100年?」
リンは、目を丸くする。
「齢1200を超える、我は。知る、先の戦争と、かの大英雄アマカケを。共に戦った、かつて。育てもした、その前には、彼を、我は」
「なるほど。それにしては、随分とお若いんですね」
すると、ゴーティマは、ニッコリと笑って、言った。
「若い?…ホッホッホ。当たり前だ。女なれば、保ってきたのだ、美と若さは、魔力を割いてでも、我は。呼べ、ゴーティマ姉さん、と、我を」
今度は、レイが驚いた表情をする。
「流石に、1200歳の方をお姉さんと呼ぶのは難しいのでは…」
「関係ない、年齢は。老いる、調整し損ねれば、身体の魔力の流れを。どんなに若くてもだ、お嬢。かけてみようか、お嬢に、老化の魔法を」
ゴーティマが、そう言って、いたずらっぽく笑ったので、慌ててレイは言う。
「すみませんでした、ゴーティマ姉さん」
「良い、分かれば。知らなかった、我も、お嬢の歳ぐらいの頃は」
それを聞いて、今度はリンが口を挟む。
「ゴーティマ…姉さん。
確か、タコ族の寿命は700年ほどだったはずですが、長寿もマハクの力ですか?」
「ホッホッホ。良い、ため口で、二人とも。知らぬようだな、真の力を、マハクの。やはり教えよう、仮にも1000年前は、グランドマスターとも呼ばれていた我が。
気配遮断から試そう、まずは」
「気配遮断?」
「必要な技術だ、強者に挑む時に。得意技よ、我の」
「そんなの、自分が圧倒的な力を身につければいいのでは?」
「これだから、リンは真っ直ぐすぎるのよ。ゴーティマ姉さんの言うスキルは、重要だわ。
無駄に騒がれたくないとかにも使えるでしょ?それに、敵が逃げるのを防ぐこともできる。
どんなに強くても、逃げられてはおしまいでしょ?」
「聡いな、お嬢、…レイ、と言ったか。なれるぞ、優秀なマハク使いに、レイは」
「そう言われると、嬉しいわ」
それを聞いた時、ゴーティマの目には、伊達に1000年を生き延びたのではないであろう知性の光が走った。
そして、真剣な目でレイを見つめて、彼女は言う。
「だが、気を付けろ。嫉妬を感じる、心の奥に、ドロドロと渦巻く、嫉妬を。通じる、その感情は、マコクの道に。身を亡ぼすぞ、飲まれたら」
「し、嫉妬なんて…」
「まあ、よい。考えておくことだ、一人の時に。自由にしてやれ、受け止めてから。楽になるはずだ、そうすれば。
さて、アマカケの末裔、…リンよ。分かったか、お主は?」
「多分、レイが言うなら、間違いなく大事なことなんだろうな、とは思うよ。今ひとつピンとこないけど」
それを聞いて、ゴーティマはため息をついて、言った。
「実践あるのみ、か。昔からそうだった、アマカケの血筋の者は。気配を消して見せよう、我は。感じ取れ、できるものなら」
そして、ゴーティマは、気配を消した。





