反乱の予兆
「閣下。どうやらスナ族が不自然に大集合しており、怪しい動きが見られます。
超高解像度監視衛星からの情報では、彼らは、一人のニンゲン族の少年のもとに束ねられているようです。
これが、例のマハク使いでしょうか?」
「砂漠の蛮族を軟弱なニンゲンがまとめ上げるとはな。
今のところ確証は持てないが、可能性は高いだろう。引き続き、監視を怠るな」
「了解」
「それと、念のため、サン・キラーは移動形態から攻撃形態に変形し、いつでも撃てるようにスタンバイしておけ」
「ハッ」
魔王公邸の一室で、サイバネティック監視辺境伯は、報告を受けつつ、指示を出していた。
そこへ、チキュウ魔王がやってくる。
「どうやら、本当に反乱が起きそうなようだな?
私の方でも、魔装機兵の増派を指示しておいた。まあ、本当に彼らに原子級の力があるのだとすれば、魔装機兵如きはせいぜいお慰み程度だろうがな。
だが、私としては、まずは彼らの意図をつかんでおきたい。目的が分かれば、反乱を未然に防ぐ平和的な方法も見つかるかもしれんしな。
ということで、貴君には今しばらく情報収集を頼む」
「仰せのままに、陛下」
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チキュウから遠く離れた、別銀河の辺境の星、ボラピーク。
緑深く覆われた森林惑星で、深い茶色の毛に覆われたケブカ族の彼らは、会合する。
「スナ族から知らせがあった。
大英雄アマカケの末裔と思われるマハク使いが、彼らの新たな王となって、魔族に挑もうとしているらしい。
この機を逃すべきではないだろう。今こそ、我ら辺境部族同盟は、独立の狼煙を上げるべき時のようだ」
「ああ、諸部族にも連絡しておこう。
魔族配下の自治領などではなく、誇り高きわれらケブカ族が完全独立を取り戻すべき時が来たのだ」
「オーッ!」
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魔宙皇国首都惑星ダヴィリオーニで、宇宙魔皇はある報告を受けて、ただならぬ面持ちをしていた。
「大陛下、ドラグーン監視辺境伯から連絡がありました。
森林惑星ボラピークのケブカ族自治領から、各辺境部族に同時多発的に発せられる通信を不審に思って傍受したところ、辺境で自治権を認められているいくつかの部族が結束し、魔宙皇国に対し独立戦争を仕掛けようとしているようです。
彼らが中心的な旗印として掲げているのが、例のチキュウの原子級のマハク使いのようで、どうやら彼らは、このマハク使いを、1000年前の大賊アマカケの末裔として祭り上げているようです」
「アマカケの血は滅びているはずだが、それでも名前だけで、それほどの求心力があるというのか」
「はい。皇国の普通教育の範囲内では、アマカケのことも、マハクのことも、一切触れられませんが、独自教育が盛んな自治領の辺境部族では、ある程度までこれらの情報が浸透しているようです。
その結果、彼らの中ではアマカケ神話が様々な形で残されている模様です」
「厄介だな…」
「サイバネティック監視辺境伯に、サン・キラーによるタイヨウ系殲滅の大陛下勅令を出しますか?」
「いや、チキュウ魔王は、どうやらマハク使いの生け捕りを図っているらしい。正直に言えば、私も700年ぶりに現れた原子級のマハク使いが何者なのか、興味がある。
原子級の力があれば、真空中や超高熱下でも、しばらくは活動できる。万一サン・キラーでの攻撃を受けても生き延びた場合、反撃によって貴重なサン・キラーを一基失うことになりかねないし、今すぐ命令を出すのは早計であろう」
「承知しました。一応、連中の意図はサイバネティック監視辺境伯とチキュウ魔王には、伝えておきますか?」
「そうしておこう。それは、私から直接やっておく。
それと、念のためボラピーク付近にも、サン・キラーを待機させておくように」
そう言ってから、宇宙魔皇はため息をついた。
やれやれ、サン・キラーを二基同時に派遣する事態など、先々代が治めていた630年前以来じゃないか…。
反乱が、これだけで止められれば良いが、一度ついた火を消し止めるのは容易ではないし、そう簡単にはいくまい。
「戦争は、避けられなそうだな」
そう独り言ちて、彼は再びため息をつくのであった。





