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8, 許せないこと

「うん、いい感じ!」

「よし!よしよしよし!!」

 美羽ちゃんのスパルタ練習にもすっかり慣れ、八島は二曲目も見違えるほど上達した。翌日に控えるライブハウスでのライブもこれならば心配ないだろう。

「光、最近すっごい声良くなった!ね、航さん?」

「ん?あ、ああ……」

「そうかな?へへ、ありがと」

 光は確実に歌唱力を上げていた。いい声、と言うだけでも十分魅力的だった彼女が俺や美羽ちゃんのボーカルレッスンを受け、凄まじい速度で技術を吸収していった結果だ。やはり俺の見込みは間違っていなかったと鼻が高くなる。が……。

「っ!」

「っ!」

 目があうと、とっさに逸らしてしまう。俺たちは、わかりやすくギクシャクしていた。

 ライブの日、俺と光は憧れと夢を重ねて、その勢いで手も重なって、それからなんだか離れ難くなって、最後に……少しだけ触れ合って。その日の俺は頭がぐるぐるして、約束していた美羽ちゃんとの電話も忘れて布団にくるまってしまった。寝てないこともあってかすぐに眠りにはつけたものの、光とライブに行くことを許してくれた美羽ちゃんに対する罪悪感や、光に対する感情がもうよくわからないこともあって、うまく光と話せないのだ。

「…………」

「美羽?」

「なんでもない。八島は油断しないで明日もしっかりこのパフォーマンスを見せること!よし、今日は早いけどここで練習終わり!体を休めて明日しっかりやろう!」

 美羽ちゃんが号令し、練習は終わった。いかんな、余計なことばかりに気を取られていたら、本番で失敗するのは目に見えている。それに、今日は大事な話があるのだ。

「三曲目の話をしようと思う」

 気持ちを切り替え、後片付けを終えたみんなに譜面を渡した。

「これは、正真正銘、このグリーナーズのために書いた曲だ。デモがあるから、聞いてほしい」

「ちょ、ちょっと待って?これ、いつ作ったの?」

「ん?普通に家で作ったり授業中にも考えてたかな」

 美羽ちゃんは心底驚いた様子で絶句している。そして、俺は自分のスマホに入れたラストナンバーを流し始める。

「……しかもいい曲だし」

「美羽ちゃんもそう思うだろ!みんなはどうだ?」

「いいと思います!叩きがいがありそうだ!」

「光は……これでいいと思うか?」

 一番気になる相手に、恐る恐る聞いてみる。彼女無言だったが、俺はその首元が赤くなっているのを見て手応えを感じた。

「よし、じゃあ決定!これの練習をライブ終わってから全力で行くぞ!」

 こうして、今日は本当に解散となった。

「ねぇ、航さん」

「ん?どうしたの美羽ちゃん?」

「今日なんだけど……時間あるし、家に来ない?」

「え!?」

 ここ最近ご無沙汰であったためお呼ばれされたことが意外だった。というかお母さんいつのまに帰ってたんだ。特に断る理由もない。行く一択だ。

 チラ、と光を見る。柳と葛城と会話しているようだ。出会いは最悪だったかもしれないが、今はこうして普通に離す仲になっていたらしい。

「ねぇ、航さん?返事は?」

「え?ああ、行くよ!もちろん!」

「どこ見てたの?」

「いや、なんでも……」

「真由美と優と、光……?なんであの三人……まさかね」

「ん?どうしたの?」

「考えすぎだよね」

「美羽ちゃん?」

「え?あ、なんでもないよ?」

「大丈夫?本当は忙しいのに俺に気を遣ってくれたんなら、無理しないでいいよ。我慢は出来る方だし……」

「……嘘つき」

「え?」

「やだ!今日は航さん絶対に家に来てもらうんだから!」

「あ、ちょ、美羽ちゃん大声でそう言うこと言わないで!」

「うるさいうるさい!航さんのバカ!私がどんな気持ちかも知らないで!」

「えっと、ごめん!だから服引っ張らないで……」

「早く動いて!スーパーにも寄りたいんだから!」

 横目で光を見る。どうやら彼女らも3人でどこか行くらしい。たまには女子だけで遊びに行くのもいいことだろう。……だが、なんだかその顔が少しだけ曇っているように見えるのは気のせいだろうか。何か、嫌な胸騒ぎがした。

「ふんふふーんふふーん。あ、ねぇ何食べたい?久しぶりになんでも作ってあげるよ!」

 だが、こんなにも嬉しそうな美羽ちゃんを放り出しては置けない。それに、俺が光の交友関係にまであれこれ口を出す資格がどこにあると言うのだろう。

「カレーがいいかな」

「えー、久し振りなのに無難すぎない?」

 ……大丈夫、だよな?




 ――――大学、体育館裏。


「ごめん暮野さん、こんなところまで連れて来て。でもここなら人もほぼ寄らないし、ゆっくり話ができると思ったんだ」

「……それで、話って何かな?」

「暮野さん、この前の日曜日……何してたの?」

「何って……ライブに行ってただけだけど」

「嘘。それだけじゃない。真由美、あんた見たんでしょ?」

「うん、見た。暮野さんと西井さんが花本駅のホームで抱き合ってるの、私見たんだよ!」

「っ……」

「あんたよくそれで平気な顔で一緒に練習できるよね」

「美羽と友達なんじゃないの?美羽にサークル紹介してもらったんじゃないの?それなのに、そんな友達の彼氏取ろうとするなんて……最低だよ、暮野さん」

「取ろうとなんて……してない」

「でもそう言うことしてるじゃん!」

「美羽、可哀想……」

「でも、美羽も美羽だよ!あんなことしてるって知ってるのに一緒に練習したりして。しかも今日なんて西井さん家に呼んでたよね?あんなに嬉しそうな顔して……」

「知ってる……?」

「でも、だからこそ見てられないよ……美羽、西井さんのこと大好きだってわかるし……」

「ねぇ、知ってるってどういうことなの?」

「私が言ったの。2人が美羽に隠れてそう言うことしてるって。美羽はこのこと誰にも言うなって言ってたけど、私我慢できなくて、優に相談したの。それで……」

「っ……」

「何よ、黙っちゃって。あんたが悪いのにそんな目で見ないでくれる?」

「それに調べたよ。暮野さん前からちょっとした音楽活動してたんだってね?路上ライブとかやって、CDも売ってたんだよね?」

「それが……なに?」

「もしかしたら、自分を売り出したくて元有名人だった西井さんを利用しようって思ったんじゃないのかな〜、って」

「っ!」

「美羽だってそう。まぁ確かに男の方が乗せやすいよねぇ?自慢のお顔もあるし!ふふっ」

「違う……」

「西井さんもまんまと誘惑に乗せられて一緒にバンド結成とかしちゃうし……」

「それで実力もないのに夢見て、今西井さんのおかげでちょっと注目されてるからって調子乗ってるんでしょう?」

「本当に最低だよ暮野さん……自分のためにみんな壊そうとして……最低!」

「それでメジャーデビュー?笑わせないでよね!!」

「………………関係ないでしょ」

「は?」

「今、なんて言ったの?」

「関係ないでしょ、って言ったの」

「なに、関係ないって。美羽は私たちの友達で……」

「くだらない。あなたたちがやってるのは友達ごっこに託けたストレス発散だ」

「なっ……!?」

「ぽっと出の私の方が学祭で遥かに注目を浴びてる。ううん、それ以上に世間から注目を浴びてる。でもそれって当たり前な話じゃない?あなたたちのように夢も何も持ってないスカスカな人間と、私の価値が同じな訳がない。同じであっていいはずがない!」

「な……なに開き直ってるのよ!!」

「自惚れるのもいい加減にしなさいよこの最低女!!」

「大体何?抱きあったくらいで大げさな。処女でもあるまいし」

「しょっ……!?」

「私は小さなライブハウスでライブだって何回もして来た。そこがどう言う場所かわかるでしょ?抱きつくくらいのスキンシップ、前戯にもならない。その程度で騒いでるあなたたちの方がよっぽど滑稽だわ」

「この……ビッチ……っ!」

「さぁ?どうだろうね?」

「〜〜〜っ!もういいよ真由美!こんなクズ女に何言っても無駄だよ!」

「うん、もう行こう優!この子おかしいよ……」

「待ってよ」

「何?話はもういいから!」

「撤回しなさい」

「は?」

「私が自分のために航さんを利用したってやつ。あれ、許せない」

「あんた……自分の立場がわからないみたいね!!」

「ちょっと優!!」

「っ……痛い……」

「これでちょっとはわかったでしょ?なら、もうバンドやめなさいよ。あんたの居場所は、お気に入りの変態バンドマンの腕の中で十分。美羽や西井さんの邪魔はしない方がいいんじゃない?」

「おい、お前ら何やってんだ?」

「八島……?あんたどうしてここに……」

「声が聞こえたから。こっち、実は近道になってるんだ。それより質問に答えてくれ。何してるんだ?」

「ねぇ、もう行こう優……」

「っ、わかったわよ!」

「待て!!」

「光!何してるやめろ!」

「バカにするな……お前らみたいな空っぽの雑魚が私の夢を、私たちの夢を……っ!バカにするなああっっ!!!!!!!!」

「光、抑えろ!ちょ、お前らどっかいけ!」

「う、うん……」

「あの子、怖いよ……」


「なぁ、落ち着けよ光。な?」

「大丈夫……ごめん、私帰る……」

「あ、待てよ、送るから!」

「いいよ。1人で帰れる」

「そんな顔したやつ、1人で帰せないだろ?大人しく送られろ」




「ここまででいいよ」

「家まで送らなくていいのか?」

「うん、ありがとう。ごめんね、こんなとこまで送ってもらっちゃって」

「いいよ。それより……何言われたかは知らないけど、気にすんなよ?明日のことだけ考えて、ゆっくり休め」

「うん。わかってる。あとさ、今日のことなんだけど……」

「わかってる。航さんと美羽には言わないよ」

「ありがとう。本当に」

「そんなお礼ばっか言われても困るって。ほら、俺の電車もう来るから。気をつけて帰れよ?」

「うん」




「あらおかえり光。ご飯できてるわよ?」

「ごめん、ちょっと1人にさせて」

「あ、ちょっと光!?あんたそう言ってまた寝る気でしょう!?」

「うるさい!」

「こら光!ドア強く閉めないの!」




「航さん……航さん……っ!」


「出ない……そっか、そうだよ、今日は……」


「は、はは……最悪だ。何やってんだろ、私」


「はは……はははは……っ」


「ふ……ぅぅっ……ぁぁっ……」


「ごめん、なさい……ごめんなさい、美羽……っ!」


「ぃぅ……ぅぁぁぁぁぁぁっ…………!!」


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