ep.4
ガーラルディと二人の道すがら、質問タイムと相成った。
主に、この世界の基本知識の講義と、俺からの質問だ。
「いいか、まずこの惑星だが、ディオールと呼ばれている」
「大体半分以上は海だ。でかい大陸が二つあって、それぞれ大陸の北と南にある橋で往き来されている」
「そしてその橋と橋の中央、海の上に浮かぶ小規模な大陸……いや、大きな島と言った方が正確か、そこは立ち入りを禁止されている」
「えっと…危ないからですか?」
「危ないなんてもんじゃねぇ。あそこには古代に栄えたと言われる魔の都があるんだ。そして現在でも、その活動が確認されている」
「そこに棲んでいるのは所謂魔族といった連中だ。基本的にはそこから出てくる事はないが、ごく稀に他大陸へ現れては暴れて行くらしい。文献に残る限りでは、最後に確認されたのは今から200年ほど前……その時は国が一つ滅んだようだ」
「な……!」
なんだって!?
なんだその化け物は……そんなものがすぐ近くに居るのかこの世界は……。
「まぁ、余程運が悪くなきゃそんなモノには遭いやしねぇさ」
シニカルな笑みを浮かべながら、ガーラルディは話を進める。
「さて、話が逸れちまったな。魔大陸から見て東の大陸に、今俺達はいる。大体大陸の中央ぐらいだな。ここは先ほども言ったが、アルモニア王国の領土内だ」
じゃあここは、このガーラルディの住む国なのか……。
「そして他に大きな国は、ここより北にあるアヴァール魔導帝国。こことは仲が悪い。その南東、ちょうどうちのお隣さんにあたるエトワル教皇領」
「西大陸は数多の国家からなる連合国だ。尤も、一枚岩ではないし最近色々ときな臭いことになってるがな……ここまでで、何か質問はあるか?」
「それじゃあ……教皇領、というのは?」
他のはなんとなく分かるが、これは聞いたこともない。
「厳密には国ではなく、宗教団体の治める地域だ。トップに教皇がいて、その下に大司教や、司教達がいる。基本として中立を貫くが、おそらく全ての国家の中で一番の武力を持っているだろうとのことだ」
なるほど……
「その宗教というのは?」
地球にもあるが、得てして宗教団体とは時に大変厄介なものだ。
「連中が信仰するのは聖女ユーディリウス。一般に聖女教と呼ばれ、大陸全土に広く布教している」
「聖女…ユーディリウス……」
なんだろう、何か引っ掛かる。
「まぁこの国にも教会や団体が運営する孤児院などは至るところにある。どの国もお世話になっているな」
「とまぁ、聖女についてはまた今度だ。進めるぞ。先も言ったが、アヴァール魔導帝国、こことは犬猿の仲でな。事あるごとに局地的な戦闘行為も発生するほどだ」
「えー……」
そんな軽く言うことじゃないような……。
「アヴァールは新興国家でな、歴史が浅い。色々と大変なんだろうよ。プライドの高い魔導師どもがわんさかいるからな。今の皇帝になってからは外交も多少なりマシにはなったらしいが…どうだかな」
「へぇー……」
なんかさっきからそんな相槌しか出てこない。
「次に西大陸の連合国だが、ここは名ばかりでもう連合国としての体裁は保てないだろう。遠くない内に独立国が出てくる筈だ。」
「そんなに情勢が悪いのですか?」
地球でも長い歴史の中、独立戦争はあった。
その度に多大な犠牲者も出ていた筈だ。
……あまり良い話題ではないな。
「まぁそんな所だ。そして我がアルモニア王国。象徴としての王家は在るが、別に王家が強権を握っているわけではない」
「…と、言うと?」
「簡単に言うと議会制度だ。王家のすぐ下に三つの公爵家、そこから侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家とあるんだが…王と三公爵、そして選ばれた五家の侯爵家の代表により会議を取っている」
「なるほど……民主主義に似たような形なのかな…」
他の国よりなんとなく親しみやすい。
「とまぁ、以上が地理や国に関する説明だ。続いての講義にいくぞー……と、その前に、だ」
ガーラルディが一度話を区切る。
なにかあったのだろうか。
「どうかしましたか?」
「ユーリ、お前さんについてだ」
俺について?
「お前、せっかく可愛い顔してんのに、立ち居振舞いがなっちゃいねぇ。もっとお淑やかに振る舞えないのか?」
「か、かわっ……!?」
「これでも俺は貴族の端くれでな。そういった教育も受けてきていて、知識もある。今から、俺が、お前の教育係だ」
「いや、だってそもそも俺は…」
「あぁ?なんだって?」
「あ、いや……」
確かに、この形で俺、なんて変だもんな……。
でもどうしろっていうんだよ……。
やっぱり私……か…。
「私は……」
「まぁそう固くなることはねぇさ。別に貴族の社交場に出ようってんじゃねぇ。ただ、なんか行動が男っぽいっていうか…自分の顔見たことねぇのか?」
「顔……」
そういえばすっかり忘れてた。
一応確認しておかないと、まずいよな……。
「なんだ、本当に自覚ねぇのな。ほれ、鏡だ」
「あ、ありがとうございます…」
ご丁寧に鏡まで持ってやがったぞこいつ……。
しょうがない、確認してみますかね……気は乗らないけど。
そう思いながら鏡を覗いてみる。
そこに映っていたのは____何処か面影はあるものの、完全に少女のそれだった。
白に近いほどの流れる銀の髪は、以前思った通り腰近くまであり、陽を受けて輝く雪原を連想させる。
蒼い瞳は涼やかに、しかし不安そうに揺れている。
パッと見た限りは10代半ばといったところか。
「これが……私……?」
「良く分かっただろう。お前はちと無防備過ぎるんだよ…。今後は十二分に気を付けろよ」
俺はただ頷くことしか出来なかった。
未だ実感はわかないが……。
本当に……これが、自分なのか…?
「お、夜営地に到着だ。続きはまた後でな」
どうやら目的地についたみたいだ。
俺は頭を振って意識を立て直しながら、前方にあるテント群を見据える。
「今回俺達は賊討伐の遠征で来ていてな、粗方片付いたから、周囲の警戒をしつつ残党狩りに勤しんでたってわけだ」
賊……もしかして、先ほどの村は…。
「ご想像通り、あれは連中の仕業だ。」
そう、だったのか……。
目を瞑り先ほどの光景を追いやっていると、ガーラルディは一際豪奢な天幕の入口へと手をかけていた。
「これからら本遠征の総指揮官に会ってもらう。くれぐれも、失礼のないようにな」
「は…はいっ…」
先ほどまでと一転、真面目な表情を作ったガーラルディは、そのままの体勢で声を張り上げた。
「第八十五次遠征隊第二部隊隊長ガーラルディ。只今帰還致しました!お目通り願います!」
「おぉ、遅かったじゃないか。お前の事だから遅れを取るとは思ってもいないが、心配したぞ。よし、入れ」
「はっ!」
テントの中へと入るガーラルディの背に続く。
…うわ、緊張するな。
「先に伝令はお送りしましたが、ご報告に上がりました」
「あぁ、ご苦労だったな。……楽にしろ。聞こう」
見事な敬礼を取るガーラルディ。
本当に軍の人間だったんだな。
「はっ。まず、今回の賊ですが、ただの群にはどうも思えません。奴等は捕まるや否や「待て」…?」
「そう畏まるな。ここには近衛も居やしない。俺とお前だけだ、ガーラルディ…普段通りで構わん。……もう一人いるみたいだがな?」
そう言って笑う指揮官殿。
…まだ隠れてるから見えないけど、なんか怖い。
「ですが……」
「良い、特に許す」
「…はぁ……分かりましたよ、オルティアス・フィン・アルモニア様」
「うむ、まだ固いぞ!いつも通りにだ」
「ったく……オルティ。これでいいか?」
満足げに頷くオルティアス様とやら。
……ん?最後何て言った?
「で、その後ろに隠れている者はなんだ?」
「あぁ、流れで一緒に説明しようと思ったんだがな。……ほれ、ユーリ。出てこい」
すっ…と、影から出てオルティアス様と対面する。
予想していたよりも細身だった。
ガーラルディみたいなのを束ねているくらいだから、もっと筋骨隆々なのを想像していたが。
しかし服の上からでもハッキリと分かるほど、その体は鍛え上げられていた。
「ふむ。……なんと可憐なのだ…」
「へ……?」
「いや、名はなんと申す?」
「ユーリ……です」
「そうか。……名の響きすら美しい……」
呆然とした様に俺を凝視する。
所々呟きが聞こえないのだが、何か粗相でもしてしまったのだろうか。
「あー……オルティ?」
「ガーラルディ。俺は決めたぞ」
「は?何がだ?」
そこでオルティアス様は口を閉じ、再度開くと同時に爆弾を落として来た。
「ユーリ。我が妃にならないか?」
「…………はぁ!?」
初対面で求婚されました。
……なんでだ!!
お読み頂きありがとうございました。
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