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銀の導き手  作者: 海蘊
プロローグ ~異邦人達~
3/4

ep.3

今回、残酷な描写があります。

苦手な方はご注意を。

「はぁ……しかしなんだってこんなことに…」


時間をかけなんとか冷静になれた俺は、現状把握に努めることに。

周囲は一面木、木、木。どうやら森だか林だかの中らしい。

混乱も収まってきた。

ここに来る前は、確かにアスファルトの上を歩いていた筈だ。

周囲には家ばかりだったし…。


「そして一番の問題が……」


そう、目下一番の問題がこの身体だ。

おかしい。確かに自分は男だった筈だ。

それがどうか。上にはあり、下にはない。

完璧に女の身体になっているではないか。

顔はまだ確認していないが、髪はどうやら腰近くまであるらしい。

胸はそこそこ、掌に納まるくらいのサイズか……ってなんか変態みたいじゃないか…!

とにかく、今は気にしないようにしておこう。

まずは、此処が何処なのか把握しておかないと……。


「しかし…なんかよく分からない夢を見ていた気がする……」


女の子が、泣いていたような……。

ダメだ、考えると頭痛がする。

一度放置だ、放置。

はぁ、こんなときに恭介がいればなぁ……。

あいつの底抜けのバカ……いや明るさには何度も救われた。

鬱陶しい時も多いんだけど…。

……ん?恭介……ってそうだ!


「他の皆も、もしかして……こうやって消えていたのか……!?」


もしそうならば、ここにあいつらもいるかもしれない!


「探しにいかないと……!!」


ここで立ち止まってる場合じゃない!

手掛かりも何もないけど、絶対に見付け出すんだ…!

さしあたっては、まず誰か人と会わないと……。

……人、いるよな?

とにかく、歩いてみよう。

そうして俺は、出口を探すため歩き出した。







どれほど歩いただろうか。

ふと、木々のざわめきに紛れ、微かに人間の声らしきものが聞こえてきた。


「……つ……れ…………け!!」

「お………ど……する!?」


人だ!!

声のする方角へと駆け出す。

まとわりつく髪が邪魔だ。

すぐに息が上がりそうになる__体力が落ちているらしい。

視界を塞ぐ木々の枝を払いながらひた走る。



そうしてたどり着いた場所には、あまりにも凄惨な光景が広がっていた。



____死体だ。そこかしこに散乱している。



「うっ……えぇぇ…………!」


思わず吐瀉物を撒き散らしてしまった自分を、誰が責められようか。

平和な日本では、まず見ることのない風景だろう。

人がいることを望んではいたが、こんなのはあまりにも想定外だ。


男がいた____しかし腸が抉られている。


女がいた____幼子を抱きしめ、諸とも胸部に槍が貫通している。


老人がいた____恐怖に眼を見開いたその頭部だけが転がっている。


子供がいた____四肢はあらぬ方へと折れ曲がり、まるで襤褸雑巾だ。



__なんだこれは。

脳が目の前の光景を受け入れようとしない。

誰も彼も、絶望の果てに事切れているようだった。


「なん…で……一体何が……」


この地獄を前にして、冷静ではいられなかった。

__だからだろうか。背後の気配に気が付けなかったのは。



「__おい」

「____っ!?」



突然すぎて、声が出なかった。

背後にはいつの間にか一人の男がいて。

まず、厳つい顔に目が行って、その後男の持つ鈍く光る剣が視界に入った。

血だ。

剣がどす黒く汚れている。

おそらくこいつが、こいつらがこの地獄を生み出したのだろう。


「…あ………ぃや……」

「おい娘。お前何故こんなところに……ってダメか、聞こえちゃいねぇ」


喉が酷く渇く。

早く逃げなくては………。

しかし身体は言うことを聞かず、一歩も動けない。


「こんな娘、この村にいたか………?」


男が何か言っている。

しかし頭に入ってこない。

早く、早く、逃げなきゃ、早く__!


「しかしまさか生き残りがいるとはな。………なんか見たことあるような気もするが、まぁいい。とりあえずは__」


まずい!殺される………!

男が捕らえようとこちらに手を伸ばしてくる。

死を目の前にして、ようやく硬直が和らいだ。

必死に後退りながら、なんとか逃れようとする。


「いやっ…!………あっ…!」


運悪く、小石に躓いてしまった。

思わず尻餅をついてしまう。

その間にも、死神の手は迫ってくる。

いやだ…!こんな…死にたくない………!!


「大人しくしてくれ。取って食いやしねぇよ」



そして、腕を捕まれた。



「__っ!!いやぁぁぁああ!!!」



ふと、何かが弾けたような気がした。

それを境に、自分の中でナニカが暴れだすのを感じた。

心臓辺りを基点に渦巻き、身体中の穴と言う穴から溢れだして行くような。

全身を引き裂かれるような激痛に苛まれながら、唐突に理解する。

これは、命なのだと。

このまま尽きてしまったら、おそらく自分は死ぬのだろうということが。

余計に恐怖が募り、なんとか抑えようと自身を掻き抱く。


「ちっ……!魔力の暴走か…!」

「あ……あぁ…ぅあぁぁああ!!」

「落ち着け!!おい!聞こえるか!!……あぁくそっ!聞こえねぇよなぁ!」


どんどんと流れ出して行く。

もう…だめだ……!これ以上は……死……!


「許せよ!他意はないからな!」


ふと、何かに包み込まれた。

温かい……。


「よぉし…いい子だ……其は癒しの青、巡り廻る生命の息吹よ、荒れ狂う御霊を静めたまえ」

「シーリングウィンド」

「あっ……」


優しく風が吹き抜ける。

と、痛みも、恐怖も、無くなっていた。


「…いまのは……?」

「落ちついたか?」

「へ……?」


あれ、今の声は…?

あ…あの男だ…!!

って、抱きしめられてる!?


「え…あ……え?」

「まず言っておくぞ、俺はお前を殺さない」


体を離し、男が告げる。


「あ……はい……」

「理解が追い付いていねぇようだな。無理もないか…いくつか、質問してもいいか?」


首を縦に、頷く。

どうやら、殺されはしないらしいが……ならこの男は一体…?


「あー、その前に自己紹介といくか。俺の名前はガーラルディ。アルモニア国王家直属の首都防衛騎士団所属だ。ちなみに序列は三位な、三位」

「は……?アル……?」


今、この男はなんと言った?

アルモニア?そんな国聞いたことないぞ?

しかも王家…国防隊?


「あの……ちょっと分からないです…そんな国聞いたことない……」

「あ?……なんてこったい。お前さんもしや異邦人かい」

「異邦人……?」

「あぁ、ったく、面倒な事になったな…」


頭を掻きながら困った様子のガーラルディ。

いや、頭抱えたいのはこちらもなんだが……。


「しょうがねぇ。お前、名前は?」

「悠里…です」

「よし、ユーリ。俺についてこい。お前にも、色々と説明が必要だろ?」


その厳つい顔に笑顔を浮かべる。

……笑うと意外と愛嬌あるんだな。

とにかく、他に手段のない俺としては頼るしかないだろう。

まだ少し恐いけど。


「……はい。お願いします」

「よし、決まりだな。じゃあ俺達の夜営地へ案内するぜ」


そう言って先導するガーラルディについていくことに。


「いやぁ、よかったぜ。こんな美少女を見殺しにしたとあっちゃあ、俺が隊長に殺されるぜ」


……そういえば忘れてた。

俺女になってるんだったな。

問題は山積みだけど、一先ずは情報収集を優先しよう。

さて、良い人達だといいんだけどなぁ。


ガーラルディと二人、この地獄を後にした。

お読み頂きありがとうございました。

ご指摘等ございましたら、宜しくお願い致します。

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