ep.3
今回、残酷な描写があります。
苦手な方はご注意を。
「はぁ……しかしなんだってこんなことに…」
時間をかけなんとか冷静になれた俺は、現状把握に努めることに。
周囲は一面木、木、木。どうやら森だか林だかの中らしい。
混乱も収まってきた。
ここに来る前は、確かにアスファルトの上を歩いていた筈だ。
周囲には家ばかりだったし…。
「そして一番の問題が……」
そう、目下一番の問題がこの身体だ。
おかしい。確かに自分は男だった筈だ。
それがどうか。上にはあり、下にはない。
完璧に女の身体になっているではないか。
顔はまだ確認していないが、髪はどうやら腰近くまであるらしい。
胸はそこそこ、掌に納まるくらいのサイズか……ってなんか変態みたいじゃないか…!
とにかく、今は気にしないようにしておこう。
まずは、此処が何処なのか把握しておかないと……。
「しかし…なんかよく分からない夢を見ていた気がする……」
女の子が、泣いていたような……。
ダメだ、考えると頭痛がする。
一度放置だ、放置。
はぁ、こんなときに恭介がいればなぁ……。
あいつの底抜けのバカ……いや明るさには何度も救われた。
鬱陶しい時も多いんだけど…。
……ん?恭介……ってそうだ!
「他の皆も、もしかして……こうやって消えていたのか……!?」
もしそうならば、ここにあいつらもいるかもしれない!
「探しにいかないと……!!」
ここで立ち止まってる場合じゃない!
手掛かりも何もないけど、絶対に見付け出すんだ…!
さしあたっては、まず誰か人と会わないと……。
……人、いるよな?
とにかく、歩いてみよう。
そうして俺は、出口を探すため歩き出した。
どれほど歩いただろうか。
ふと、木々のざわめきに紛れ、微かに人間の声らしきものが聞こえてきた。
「……つ……れ…………け!!」
「お………ど……する!?」
人だ!!
声のする方角へと駆け出す。
まとわりつく髪が邪魔だ。
すぐに息が上がりそうになる__体力が落ちているらしい。
視界を塞ぐ木々の枝を払いながらひた走る。
そうしてたどり着いた場所には、あまりにも凄惨な光景が広がっていた。
____死体だ。そこかしこに散乱している。
「うっ……えぇぇ…………!」
思わず吐瀉物を撒き散らしてしまった自分を、誰が責められようか。
平和な日本では、まず見ることのない風景だろう。
人がいることを望んではいたが、こんなのはあまりにも想定外だ。
男がいた____しかし腸が抉られている。
女がいた____幼子を抱きしめ、諸とも胸部に槍が貫通している。
老人がいた____恐怖に眼を見開いたその頭部だけが転がっている。
子供がいた____四肢はあらぬ方へと折れ曲がり、まるで襤褸雑巾だ。
__なんだこれは。
脳が目の前の光景を受け入れようとしない。
誰も彼も、絶望の果てに事切れているようだった。
「なん…で……一体何が……」
この地獄を前にして、冷静ではいられなかった。
__だからだろうか。背後の気配に気が付けなかったのは。
「__おい」
「____っ!?」
突然すぎて、声が出なかった。
背後にはいつの間にか一人の男がいて。
まず、厳つい顔に目が行って、その後男の持つ鈍く光る剣が視界に入った。
血だ。
剣がどす黒く汚れている。
おそらくこいつが、こいつらがこの地獄を生み出したのだろう。
「…あ………ぃや……」
「おい娘。お前何故こんなところに……ってダメか、聞こえちゃいねぇ」
喉が酷く渇く。
早く逃げなくては………。
しかし身体は言うことを聞かず、一歩も動けない。
「こんな娘、この村にいたか………?」
男が何か言っている。
しかし頭に入ってこない。
早く、早く、逃げなきゃ、早く__!
「しかしまさか生き残りがいるとはな。………なんか見たことあるような気もするが、まぁいい。とりあえずは__」
まずい!殺される………!
男が捕らえようとこちらに手を伸ばしてくる。
死を目の前にして、ようやく硬直が和らいだ。
必死に後退りながら、なんとか逃れようとする。
「いやっ…!………あっ…!」
運悪く、小石に躓いてしまった。
思わず尻餅をついてしまう。
その間にも、死神の手は迫ってくる。
いやだ…!こんな…死にたくない………!!
「大人しくしてくれ。取って食いやしねぇよ」
そして、腕を捕まれた。
「__っ!!いやぁぁぁああ!!!」
ふと、何かが弾けたような気がした。
それを境に、自分の中でナニカが暴れだすのを感じた。
心臓辺りを基点に渦巻き、身体中の穴と言う穴から溢れだして行くような。
全身を引き裂かれるような激痛に苛まれながら、唐突に理解する。
これは、命なのだと。
このまま尽きてしまったら、おそらく自分は死ぬのだろうということが。
余計に恐怖が募り、なんとか抑えようと自身を掻き抱く。
「ちっ……!魔力の暴走か…!」
「あ……あぁ…ぅあぁぁああ!!」
「落ち着け!!おい!聞こえるか!!……あぁくそっ!聞こえねぇよなぁ!」
どんどんと流れ出して行く。
もう…だめだ……!これ以上は……死……!
「許せよ!他意はないからな!」
ふと、何かに包み込まれた。
温かい……。
「よぉし…いい子だ……其は癒しの青、巡り廻る生命の息吹よ、荒れ狂う御霊を静めたまえ」
「シーリングウィンド」
「あっ……」
優しく風が吹き抜ける。
と、痛みも、恐怖も、無くなっていた。
「…いまのは……?」
「落ちついたか?」
「へ……?」
あれ、今の声は…?
あ…あの男だ…!!
って、抱きしめられてる!?
「え…あ……え?」
「まず言っておくぞ、俺はお前を殺さない」
体を離し、男が告げる。
「あ……はい……」
「理解が追い付いていねぇようだな。無理もないか…いくつか、質問してもいいか?」
首を縦に、頷く。
どうやら、殺されはしないらしいが……ならこの男は一体…?
「あー、その前に自己紹介といくか。俺の名前はガーラルディ。アルモニア国王家直属の首都防衛騎士団所属だ。ちなみに序列は三位な、三位」
「は……?アル……?」
今、この男はなんと言った?
アルモニア?そんな国聞いたことないぞ?
しかも王家…国防隊?
「あの……ちょっと分からないです…そんな国聞いたことない……」
「あ?……なんてこったい。お前さんもしや異邦人かい」
「異邦人……?」
「あぁ、ったく、面倒な事になったな…」
頭を掻きながら困った様子のガーラルディ。
いや、頭抱えたいのはこちらもなんだが……。
「しょうがねぇ。お前、名前は?」
「悠里…です」
「よし、ユーリ。俺についてこい。お前にも、色々と説明が必要だろ?」
その厳つい顔に笑顔を浮かべる。
……笑うと意外と愛嬌あるんだな。
とにかく、他に手段のない俺としては頼るしかないだろう。
まだ少し恐いけど。
「……はい。お願いします」
「よし、決まりだな。じゃあ俺達の夜営地へ案内するぜ」
そう言って先導するガーラルディについていくことに。
「いやぁ、よかったぜ。こんな美少女を見殺しにしたとあっちゃあ、俺が隊長に殺されるぜ」
……そういえば忘れてた。
俺女になってるんだったな。
問題は山積みだけど、一先ずは情報収集を優先しよう。
さて、良い人達だといいんだけどなぁ。
ガーラルディと二人、この地獄を後にした。
お読み頂きありがとうございました。
ご指摘等ございましたら、宜しくお願い致します。