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銀の導き手  作者: 海蘊
プロローグ ~異邦人達~
2/4

ep.2

薄暗い洞窟の奥、二人の男が居た。


「おい、ちゃんと成功するんだろうな。こいつ拉致るのに大分苦労したんだぞ」

「任せておけ。生贄としては充分この上ないだろう」


その傍らには、手足を縛られた少女が一人。

宵闇を照らすような鮮やかな銀の髪、瞳は閉じられている。

無条件で陶酔してしまうような、しかし成熟しきっていない、未だ未完成な美しさがそこにはあった。

意識のない少女をよそに、男達は会話を続ける。


「なら、早くしてくれ。意識が戻れば抵抗されるぞ」

「解っている。黙って見ていろ。__さぁ、我らが悲願だ。もう手が届くぞ……」



ローブを纏った男が、何やら呪文のような物を唱え始める。

と、少女を中心に幾何学模様の円陣が浮かび、発光し出した。



「おぉ……深淵に座す王よ!煉獄の底に封されし、偉大なる魔の主よ!聖女の魂を以て御身を解き放ちたもう!」



円陣は次第に輝きを強くし、回転を始める。

その輝きは闇のように暗く、まるでこの世の全ての憎悪を凝縮したようだ。



「我が真名はウィルオーザ!与えられし権能は魂の転換!」



ローブの男__ウィルオーザの言葉にも強い力が籠り、円陣の回転には物理現象が纏いだす。

風が起き、二人の衣服が乱れる。

もう一人の男はそれを興奮した様子で眺め続けていた。

__だからだろうか、中心にある手が、その指先が、ほんの少しとはいえ動いたことに気が付かなかったのは。



「さぁ、千年に渡る眠りから目覚めよ!聖なる御霊を喰らいて、楔を壊したまえ!魔の頂点に在る王よ!!」

「__顕現せよ!!我等が魔王『フォルファ「させない……!!」__!?」



闇の凝縮が一点になり、臨界寸前となったその瞬間、少女が覚醒した。



「貴方達の思惑通りには、させはしません……!!」

「バカな……!なんだこの魔力は!?これは魔封じの縄だぞ!!」

「そんなことより早く意識を奪え!!このままでは儀式が壊される!」



突然の事に動揺を隠せない二人の男。

男達が動き出す前にと、少女は行動を開始する。



「魔王を封印した聖女、その血を引く女はもう既に私だけ……。私が消えれば、もう貴方達の願いは叶いません……!!」

「おい……?ま…まさか……やめろ!!おいバスク!そいつを止めろ!」

「あ!?なんだってんだちくしょう!!」



待機していた男__バスクが走りだす。

しかし____少女のほうが、一歩早い。

少女は円陣に手を翳すと、魔力を注ぎ込む。



「こいつ……!俺の儀式に手を加える気だ!!」

「なんだよ!!するとどうなる!?」

「これは……魂の転移……いや、転生!?」



少女は微笑みながらみるみる内にその存在を溶かして行く。



「それではごきげんよう。……申し訳ありませんでした、お父様」



そして少女は、粒子となって消えた。

残されたのは、立ちすくむ男が二人。



「……おい!どうすんだよ!てかどうなったんだ!?」

「やられた……!まさか自害を選ぶとは……」

「なんだと!?じゃあもう魔王様は……?」

「いや、正確にはあれは自害ではない。魂を跳ばし、輪廻の輪に乗せたのだろう。詳しくはじっくり解析してみないと分からないが、おそらくはまだ手はある筈だ」



喚き立てるバスクを尻目に、ウィルオーザは虚空を睨む。



「待っていろ聖女よ……必ずしや貴様を捕らえ、我らが主を復活させてやる……!」



__そして、誰もいなくなった。














心地良い……ここは……


気がつけば、そこは真っ白な空間で。

右も左も、上も下も分からない。



あれ、おれなにしてたんだっけ……



自分の身体があるのか、それも上手く感じられない。



確か、突然目の前が真っ白になって、それで……うっ……なんだ…頭が痛い……!



唐突に、感情が流れ込んできた。

楽しい、嬉しい、愛しい__正の感情。

悲しい、恐い、辛い__負の感情。

そして、大部分を占めるもの、それは__諦念。



なんだ、泣いているのか……?悲しい、諦め…君は…誰だ?



ともすれば、自分の意識さえ呑まれそうな濁流の中、微笑む少女の姿を見た。



__ごめんなさい。こうするしかありませんでした。


……?何を言って……


__貴方には、大変な運命を背負わせてしまうことになります。私も、精一杯サポートするつもりです。どうか、身勝手なこの身をお許し下さい。


いや……何がなんだかさっぱり……


__時間がありません。どうか忘れないでください。例え姿形がどうであれ、貴方は、貴方です。その在り方は、決して忘れないでください。


は……?



次の瞬間、より一層強い意思が流れ込んできた。

その衝撃に耐えきれなくなった意識はシャットアウトし、暗転。



__本当にごめんなさい……どうか貴方の道に、祝福がありますように……












「いってぇ……!…あれ?ここは……?」


気が付いたら、見知らぬ場所にいた。

手に触れる感触は、土……?確かに、緑の匂いがする。

そういえば頬にも、何かが当たってくすぐったいな。


「……これは、髪?」


頬の感触は髪の毛らしい。

掴んでみると、するりと指の間を零れてゆく。


「いや……いやいやいや。ちょっと待て。何故当たる。確かに男にしては長い方だったが、ここまでじゃないぞ」


かぶりを振ると、絹のような髪がつられて揺れる。


「なんだ…?何が起きて…る……?」


ふと心臓に手を当てると、そこには柔らかな感触が。


「…………は?」


思わず力を入れてしまった。

するとどうか、手の中で形を変えるではないか。


「……胸?」


そんなバカな!?

ま…まさか……


「女に……なってる……?」



眼を覚ましたら、見知らぬ土地で見知らぬ身体になっていた。

お読み頂きありがとうございました。

ご指摘等ございましたら、宜しくお願い致します。

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