表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の導き手  作者: 海蘊
プロローグ ~異邦人達~
1/4

ep.1

初めての投稿です。

更新ペースはまちまちになると思いますが、楽しんで戴けたら幸いです。

宜しくお願い致します。

__遠い遠い、何処かの地で。


街より外れ、一際高い丘の上。

見下ろしてみれば、建ち並ぶ家屋。その最奥には神々しさすら感じられる白銀の城。

しかし、普段ならさぞ美しいのであろう町並みも、そこかしこで黒煙は立ち上ぼり、街道は裂け、見るも無惨な状態で。

銀の甲冑を纏った騎士達が、城を背後に戦列を組む。

その顔は一様に、悲壮なまでの決意で満ちていた。


その下__城下町を埋め尽くすは黒の軍勢。

鈍く反射するその鎧。一糸乱れず整列する様は、一つの生き物のようだ。

先頭に立つ赤い騎士が剣を翳し、振り下ろす。


____そして、蹂躙が始まった。








「……」


開け放たれたカーテン。

射し込む陽光に眼を覚ます。


「あー…またか…」


最近良く見る夢だ。

焦り、怒り、絶望。あらゆる負の感情が襲いかかってくるような。

いつもあの丘の上に立ち、じっと焼き付けるように蹂躙される様を見ている。

何故こんな夢を見るのかは分からない。

夢とは記憶の整理だとか、あるいは強い渇望の現れだとか言われたりしているが、全く身に覚えがない。

そも、夢なんてあまり見るほうじゃなかったのになぁ。

まぁ、気にするだけ無駄だと割りきってはいるが、何分これを見た日は、総じて疲れが全く取れないのだ。


「はぁ…起きるとしますかね」


朝ご飯食べよ…。



「行ってきます」


返事はない。

独りでいる時間が長いと独り言が増えるらしい。


俺は__白岡悠里は孤児だった。

お世話になった孤児院の院長曰く、ある日タオルにくるまれて門の前に捨てられていたらしい。

別に、両親を恨んだりはしていない。

むしろ感謝すらしている。

なにせ暖かい家族が何十人といるのだ。


去年の春、高校入学に合わせて独り暮らしを始めた。

大体は皆、高校を出てから院を離れていく。

孤児院の皆には随分と引き止められたが、俺の我が儘を通させてもらった。

…院長にも皆にも、早く恩返ししないとな。




「おはよー」

「おはよう!」

「あ、悠里くんおはよー!!」


県立冨岡高校。

俺が在籍している高校だ。

今日から2年生になりクラスも変わったが、知り合いは元々多かったのであまり代わり映えしない。


「よう悠里!朝からシケた面してんなぁ」

「うっせ。ほっとけ」


彼は高木恭介。

1年の頃からの友人、クラスメイト、どうやらまた今年も一緒らしい。

人好きのする笑顔で誰に対してもウケがいい、イケメンだ、くたばれ。

と、こいつがいる、という事は…


「おっはよう悠里くん!また一緒だねー!よろしくぅ!」


ニシシ、と快活な笑顔と明るい茶色のショートヘアが特徴のこいつは、姫百合詩奈乃。

珍しい名字に名前。期待通りと言うべきか、まぁ良いとこのお嬢様というやつだ。

そんな感じはしないが。


「おはようございます、悠里ちゃん。今日も可愛らしいですね」


おっとりとした雰囲気、丁寧と温和を体現したような女性、水本葵。

出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでる。

背中まである黒いロングヘアに抜群のスタイル。

詩奈乃よりもはるかにお嬢様っぽい。

だが、しかし!こいつは天敵だ。ことあるごとに人のことを可愛い可愛いと…!


「おはようさんお三方。そして葵…朝から気分を下げるようなことを言うな…!」

「あら、私は本当のことしか言いませんよ?」

「そうだよ!悠里くんはこの学校の誰よりも可愛いんだから!」


ぷんすこと怒りながら詩奈乃。

いや待て、何故怒る。というかいい加減にやめろ。


「おい恭介。なんとか言ってくれ」

「安心しろ……お前は可愛い!!」

「死ね」


ダメだこいつは頼りにならん。

そも、何故ここまで可愛いだのと言われにゃならんのだ。


「え?男子なのにミスコン一位取ったのに?」

「あー、あれはすごかったなぁ。俺の友達も男でもいいからお近づきに!とか騒いでたしな。てかお前顔も体つきから女の子っぽいから違和感ないんだよ」

「流石は私の悠里ちゃんですね」


こいつらは本当に…!


「バカ言ってんな。あと葵、誰がお前のだ」


誠に……心の底から誠に遺憾だが、俺の顔は中性的である。

いや、多少……そう、ほんのすこしだけ女性寄りだと言っておこう。

この顔のおかげでどれだけ苦労してきたことか…!


「いつもながら惚れ惚れしてしまうほどの可愛さですよね…やっぱり私の物になりませんか?悠里ちゃんなら一生可愛がってあげますから」

「断る!!」


何を隠そう、こいつは百合の気があるのだ。

正確には可愛いものには人種性別など些細な問題である、らしいのだが。そんなの知らん。

というわけで葵に恋い焦がれている多くの男子は相手にもされていないのが現状だ。もっと頑張れお前ら。


「あはは、相変わらずだね葵ちゃんは。でもその気持ちすっごい分かるよー!」

「おい詩奈乃。どういう意味だ」

「だって悠里くん可愛いし。でも頼りになるところもあってカッコいいし。知らないの?結構女の子からも人気なんだよー」


そうなのか?自分ではいまいち分からないが。

ただその前に気になる部分があったな…。


「なぁ、女の子から『も』ってのはなんだ…?」

「そりゃ勿論、悠里くんは男の子達からの人気が凄いもんね!」

「おお、そうだな。大人気だからな銀の姫様は!」

「うるさい!黙れ!大体なんだ姫って!」


おかしいだろ!?

笑いながら恭介が説明してくれる。


「ああ、本人は知らなかったのか。去年の文化祭でお前壇上に上ったろ?ドレス着て」


…そんなこともあった気がするな…


「それで初めてお前の女装…女装?を見たやつも居るわけだ。その中のほとんどの奴が思ったらしい。__なんて美しい。まるで物語のお姫様みたいだ__ってな」

「それでその銀色の髪と合わせて、そう呼ばれるようになったのですよ」


な…なん…だと…

ダメだ。これ以上聞いていてはいけない。

俺の中の何かが崩れ去る前に!!


「だぁー!!分かったもういい!授業が始まるから席に着けぇー!!」


……もう帰りたい……。








授業も全て終わり帰り支度をしている最中、所属している生徒会から呼び出しを受けた。

役職は書記だ。なんでも字の綺麗さと速記が理由らしい。

ちなみにあの三人組には先に帰るように言っておいた。

多分遅くなるだろうし。


「おはようございます。すみません、遅くなりました」

「おはよう。悠里さん」

「問題ない。急に呼び出したのはこちらだ」


室内には二つの人影。

我らが生徒会長に副会長だ。

会長の霧島清華。『清い』に『華』と書いて『さやか』と読む。

珍しい読み方だが、両親が清廉で強く可憐であれ、との意味を込めたらしい。

副会長は山本貴史。長身で体格もがっしりとした頼れる兄貴分。

いくら鍛えても筋肉が付きにくい俺の憧れでもある。

二人とも三年生で、貴史先輩は今年度より。清華先輩はなんと二年生から既に会長であった。

ちなみに俺は今年度からのメンバーだ。


「どうかしましたか?今日は会議も何も無かった筈では?」


問うと、会長は顔を曇らせながら逆に問いかけてきた。


「えぇ……悠里さんは知っているかしら、最近起こっている連続失踪事件のこと」


連続失踪事件___今世間はこの話題で持ちきりだ。

なんでも一瞬前まで一緒だった人、連絡を取っていた人が忽然と姿を消してしまうらしいのだ。

手掛かりは一切なし、消えた人達にも共通点はなし。

関係者は言う。まるで神隠しのようだと。


「はい。勿論知ってはいますが……それで何か?」


肯定すると、二人はより一層暗い顔になる。

……イヤな予感がする。


「すぐに耳に入ると思うから伝えておくわ……」

「先程警察が来てな。____初めて当校から犠牲者が出た。それも、二人だ」


「__っ!!」



声が、出なかった。

心の何処かでは、自分には、自分達には関係のないことだと思ってたいたのだろう。

頭が追い付いてこない。

いったい何故、どうして。


いや____犠牲者は誰だ。


これは聞いておかねばならない。

話の時間軸的にあいつらの誰かではないだろうが…。


「…いったい……どういうことですか」


「無用な混乱は招きたくないから、正式に発表があるまでは内密にお願いね」

「昨夜のことだ。男子生徒二名なんだが……消えたのは、自宅でだったらしい」

「朝、中々起きてこないことを不審に思った母親が部屋に入ると、そこには誰もいなかったみたいなの」

「携帯も繋がらず、そもそも深夜に外出した形跡もない。……間違いなく、例のケースだ」

「そんな……」



__くれぐれも、気を付けてくれ。









まさか、身近でそんなことが起こっていようとは。

夢なんじゃないかとも思うが、残念ながら現実なのだろう。


「そういや、あいつらどうしてるかな…」


帰りの道すがら、そんなことを思った。

ダメだ。

一度でも気になると、不安がどんどん大きくなって行く。


「電話…」


鳴り止まない呼び出し音。


恭介____繋がらない。


詩奈乃____繋がらない。


葵____繋がらない。



まさか…まさかまさかまさか…!



「誰か…!出てくれよ……!」



電話を掛けっぱなしの携帯を握りしめ、がむしゃらに走りだそうとする。



不安と焦燥で潰れそうになったとき。


ふと、目の前が光に包まれた。




____それが、認識出来た最後の光景となった。






ご一読ありがとうございました。

感想、誤字脱字等ございましたら宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ